ROTER Guitars⑤

2021年にヤフオクにて出品されていた2個体を無事競い合い落札し、最初に7弦の個体が到着する。己が徹底的に調べ上げた事前情報からも大博打。

幸い自分はギター製作もリペアも可能な環境を持っているので、どんなクレイジーなものが来ても大丈夫だろうという自信はある。


余程無茶していなければ、大抵はどうにかなる。(盛大な前振り)


シリアルナンバー、#000029 到着。

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う~~~~ん無茶してるねえ。


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実測ボディ最厚部、約27mm。
厚いところで27mm、SGより薄い。
ボディエッジ最薄部は薄いというかもうペーパーナイフみたいに尖ってる。

材は赤味のはっきりしたパドゥクセンター2ピース。
バックパネルも同じパドゥク材で作られている。
ボディには両面にベベルというかアーチ加工が施されているので、断面はレンズ的なボディ形状。
クリア塗装がされているけど、導管埋めなんて野暮な事は一切されていない。

木材直吹き!
フィラーなぞ要らん!
ハンドメイド感増し増し!!ハンドメイド味!!!

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そこに組み込まれている、男気溢れるリバース7連ペグの平行段付き柾目ウェンジネック。
握りは意外にもぶ厚く、実測値約20mmのカマボコ板。
Dじゃない。カマボコ。

身近なギターで近いフィールの握りはS7G系のネック。あれよりは4mm程薄いけど、指板Rも凡そ400R程あり、そこそこ似たグリップを感じさせる。
ただ1弦のペグ位置が微妙に1mmくらい位置がズレてるのが気になる。
これは治す。

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そしてデュアルアクショントラスロッドが2本。7弦のネックに2本。
ねじれとは無縁だなこれは。

ウェンジ指板にウェンジネック。ずっしり来る剛性感。
テンションバーはどうやら市販品を使用している様子。

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ペグを外したところ。なぜここをこんなに面取りするのかがわからない。
一種の美学なのだろうか?


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7弦30フレット。うっすらと緑青、曇りまくっている。
幸いねじれや反りは無かった。予想よりはダメージが少ないようだ。
しかし、正面から見てわかる通り1弦と7弦の指板サイドに余裕が全然ない。MusicmanのJPより「狭い」。
ネック幅が狭いというよりは、ブリッジピッチを狭く変えるべきと考え、
ナットとブリッジ改修方面で修理を組む方針へ。
トラスロッドは両方に無事回るのを確認した。

(余談だけど、薄さと両利きを兼ね備えたデュアルアクショントラスロッドを製造しているメーカーを2つ知っている。うち1つはそのメーカーにオーダーし、過去自分が製作したギターにも載せていた)

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ボディのブリッジ。ネックの仕込みとあっておらず、
イモネジが飛び出ている。
各サドルが微妙に横幅が違う。
オクターブビスの頭がボディに抵触している

…過去記事にも書いた通り、ROTERお手製の各弦独立型ブリッジ、問題児なのは間違いなさそうだ。


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ベースプレート固定ビスに北欧で多用されるポジドライブの木ネジが使われている。しかも1弦と7弦以外は固定穴1か所!穴の位置もフリーハンド。
海外個人製作物はこの辺がアバウトな事が多い気がする。


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裏にMXと書かれているプレートもあった。調べてみたけど詳細は不明。
うねっているので削る。鉄鋼ヤスリ、ドレメル、丸棒ヤスリ、フル活用。
削りすぎても問題なので、平面を確保できれば良い。

・オクターブビス穴の位置微調整
・弦スルー穴の位置調整(正確には穴を縦長に拡張加工)
・ばらつきの多かったベースプレートの横幅を削り落とす
・歪んでいたベースプレート裏面のある程度平面出し等

ブリッジサドル自体も、両サイドを少しずつ削る手法を取り、
現状のネック幅内で余裕を持たせられる弦ピッチにした。

もうやっていることはリペアというかレストアみたいなもん。

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カスタム後。磨きも入れた。

最初はどうやら10.8mmサドルが使われていて(それすら個体差があった)
そこから約10.5mmまで7本のサドルすべてに手を加えている。
買いなおすより削った方が都合がよかったのだ。理由は後述。
弦高調整用のイモネジも短い物へ交換した。


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なぜプレスサドルなのか?
このブリッジ形状の仕込みと構造上、
ブロックサドルだと下部の一部がベースプレートに抵触してしまい、オクターブチューニングが出来なくなってしまう現象が確認できた。
プレスサドル故の薄めの形状が、このベースプレートには合っている。


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ポーランドのPUメーカー、MERLIN(マーリン?)製、HELL-FIRE 
アースの取り方がうずまき。味。
マルチスケール用にボビン自体も当然横幅が長くなっており、他ギターと互換性はない。「このギター、このマルチスケール、この位置でのみ」使える。完全に一点集中型のオーダーメードPUだ。

そして「妙に音が良い。

得てしてギターサウンド、ピックアップの良い音悪い音というのはプレイヤーによって様々な判断基準、主観的要素が盛り込まれる場合が多いけど、
このPUは外人達にも好評で、僕の関係者及び友人達全員からも、
試し弾きした際に悪い感想が一切出てこなかった。不思議だ。
昨今流行りのカリカリパキパキではなく、ゴツンとした塊が打ち出される感覚だった用に思う。キンキンする系の倍音少なめ、基音強め。Dimazio X2Nのネバっと感を薄くして音の分離を良くした感じ、とでも例えようか…


その前に、ヘッドのペグ穴も治していく。

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エポキシレジンをブラックに着色し流し込む、
平面を出す。

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スチールウールまでかけたところでオイルで仕上げる。
やっぱり1弦のペグ穴が「少し遠い」のが分かると思う。

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7-2弦基準、そこ+1の距離感で目打ち。
本来であれば7-1弦の距離感、つまり6頭分にするけども、
今回は1弦のみが少しずれているので、「手前に1mm持ってくる」

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ようやっと均等な位置に収まってくれた。ペグ位置はオーケー。


次、今度はNCを使用する。

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正しいスケールエンドの位置、ベースプレートの位置を再計算すると
裏通し穴とブリッジ固定穴がもうとにかくずれまくっていて頭を抱えた。ここもレジンを流し込んで固めた後に正しい位置をマーキングして目打ち。
硬質材で新しくインナーブロックを製作してもよかったんだけど、
なるだけオリジナルの構造は崩したくない+サウンドが変わるのは嫌だったのでレジン注入法に。

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裏面の弦ブッシュ用穴も、表のベースプレート位置から割り出す。
うっすらと埋めた後が分かるだろうか。最高に元がズレている
このまま正確な穴をあけてしまうと埋めた個所が見えてしまい、
実にダサくなってしまう。

そこで考えた。

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穴はあける。しかしこのままではよろしくない箇所がちょこっと見える。
ここであえて、3mm程深く穴をあける。ブッシュを奥に埋め込む形だ。

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この裏通し穴周囲の寸法を測り3Dモデルをこしらえ、最適な厚み、形状を計算。NCを使ってエボニーの端材で裏通し穴カバープレート、およびMDFで落とし込む為の治具も製作。3mm落とし込んだ箇所にスポッとはめ込ませ、デフォルトの裏通し穴のズレをデザイン内へ完全内包化させた。
見た目はエボニーのプレートだけど、中には金属製の弦ブッシュが仕込まれている。

ここまでしないと、バランスがちぐはぐすぎて使い物にならない。ROTER、
やはり癖強い。

続く。