MEWをNC使って作ってみた
改めましてこんにちは、初めましての方は初めまして。
東京で玄人向けのギターを個人で細々製作している、
REVguitarsの小島です。この記事では、昨年完成した42フレットギター、「MEWCLONE」を紹介します。
●2019年秋、作業効率をより向上させる目的で、
大型NCを導入。
AvalonTech ArtCNC1015。
ワークスペース1000㎜×1500㎜。エレキギターを制作するのは
十分に容易なサイズ。そして作りたかったのはこのギター。
GUITAR VIOLENCE「MEW」
僕はこのギターが18歳の時から心底憧れだった。
(詳しくは下記、過去記事をご覧ください)https://note.com/revguitars/n/na81e21efde6a
しかしこのメーカーは90年代には無くなっており、新規入手は不可能。
年月が経ち、自分は個人ギター製作家になり、NCも導入した今、
この超クールで規格外なギターを再現してみようと決意した。
●まずFusion360を導入。しかし操作が分からない。
毎日ひたすら勉強。ある程度ノウハウが分かってきたところで、
本物の画像をキャンバスとして取り込み、
ピックアップの大きさから原寸サイズに拡大。
手元に保存していたあらゆるMEWの資料を元に、ボディ、ネック、ボディ厚、ボディR、ブリッジ位置、ネック位置、指板長、パーツ位置等、
出来る限り本物に近いバランスを推測しモデルを作る。
データ制作を始めて数週間、3Dモデルは完成。
この後、このモデルを元にCAMを組む(簡単に言えば、NCについてるエンドミルをどう動かすかのデータを、何十パターンも設定する。)
ボディ材。カリン1P。激重。6㎏は軽く超えていた。
ボディ外周、ネックポケット、ブリッジザグリ、PUザグリを切削するCAMを
まず走らせる。ボディ厚とエンドミル長との兼ね合いで、両面加工する
方法でCAMを組んだ。
ボディRもボールエンドミルを使用し、外周加工する。
ボディトップ側の切削が終わった状態。
センターラインに注意しながらひっくり返し、ボディバックから
更に切削していく。ここでX軸Y軸がずれたりすると死。
コントロールザグリ、スプリングキャビティ、ネックジョイント、
バックR用のCAMを走らせた後。
くり抜き、軽く研磨した後。大分それっぽくなってきた。
この時点で、ボディの切削自体は日数にしてわずか2日で完了した。
(しかしデータ制作には数週間かかっている。)
ネック材を切削していく。材はハードメイプル。
外周、トラスロッド穴も一緒に切削していく。
リアPU手前までネックがある為、ベース用のロッドを仕込む。
ボディに比べれは、幾分かCAM組む難易度は易しい。
指板を切削していく。材はマグロ(黒檀)。
ここのCAM設定が一番難儀した。
材が硬質材+細いフレット溝を「切る」でなく「掘る」
極細のエンドミル(0.5㎜)を使用する為、少しでも負荷の大きい設定にしてしまうとエンドミルが即折れる。そりゃもうすぐ折れる。
切削途中で詰まって折れたりする。本切削の前に何度か適当なマグロの端材で試し掘りをしたんだけど、適正な数値を導き出すまでに4本折った。
試行錯誤の末、折れずにスムーズに掘れる設定を確立、
様子を見つつ外周も含め一気に切削する。MEWはフレット数が42本もある為、単純に21フレットギターの2倍の加工時間が掛かる。
ポジションマークの穴も一緒に掘る。NCで可能な加工の一つとして、
フレットエッジに材を残したまま掘る、というのがある。
ノコ等でフレット溝切削した場合はエッジに残る溝をパテで埋めたり、バインディングを施したりするけども、
NCでは「掘る」為、エッジが残る→パテで埋める必要が無い→見た目が
スマートになる。ここ数年で海外ギター等でも頻繁に見かける仕様。
指板も無事堀り終え、仮組みした画像。良い感じ。
2mm径のアルミ棒をポジションマークにする。イケるとこまで加工したかった結果、41Fまで。
両側にポジションマークが存在しているのは「タッピング時のポジション把握をしやすくする為」
フレット溝ノコを使用して、対象材が目の詰まったマグロ(エボニー)で、この密度で正確に手作業でフレット溝を掘るのは最高レベルに苦行。
0.1㎜ずれたら違和感に繋がる。
過去に、手作業で36フレットと42フレットを溝切りした事があるんだけど、
集中力の消耗が桁違いだった。NC、とても便利。
という事で完成、実加工日数は20日ジャスト。
データ制作も含めると2ヶ月位掛かった計算。
この後、更に後加工で
●EMGの3バンドアクティブサーキット搭載
●PUをEMG81に交換
●006P用電池ボックス加工
●電圧を18Vに昇圧するチャージポンプ回路自作内蔵
●ブリッジをGOTOHへ交換
●ナットを44mm幅のフロイドローズ純正ナットに交換
●ペグもGOTOHのSG381MGに交換
●座奏用にレッグレストをカリンで製作、装着
と、ハードウェア周りと電装系の大幅なバージョンアップを図った。
ここが改造に於いて最重要ポイントであり、
本物のバランスに近い見た目にしたかった所。
たまりません。
(厳密にいえばキャットテイルも再現するべきなのは百も承知)
このギターのレビューを簡潔に。
●ボディものすごく小さいのにストラトより重くズッシリしてる
●基本的にはストラップつけて演奏する事が前提で座って弾けない
●ボディが比重高くて重い為、生鳴りが全然無い、弦だけ鳴る
●36フレット以上は爪じゃないとまともに押弦不可
●アタックレスポンスが速くタッピングが非常にやり易い
●ミッドフリーケンシー付き3バンドイコライザの汎用性が予想以上に広い
●5mmスラントフレットによりチョーギングで音が上げやすい
●見た目◎ 威圧感◎ 家具感◎
癖強し!だがそれが良い。
最終スペックは以下の通り。
ボディ:1ピースカリン45mm
ネック:1ピースハードメイプル16mm
指板:マグロ(エボニー)6mm
フレット:stewmac steinless jumbo
指板R:フラットR
フレット:5mmスラント仕様42フレット
ロックナット:Floyd Rose 44mm
ブリッジ:GOTOH 1996T
PU:EMG81(18V駆動)
コントロール:1vo Lo Mid Mid-Freq Hi 3BAND-EQ(EMG-BQS18V駆動)
フィニッシュ:オイル+蜜蝋仕上げ
重量:3.7㎏
ギター自体は今までと比べれば遥かに時短、かつスムーズに製作出来た。
しかし「NCを動かす為の勉強」に丸1年を費やした(仕事と並行して
ちまちま勉強していたのでスローペース。)
それだけの費用対効果は十分にあると思うし、
環境が許すのであればNC加工は覚えるべき技術。モノ作りの可能性が
冗談抜きで一気に広がる。個人的に一番恩恵を受けている点としては、
「指板フレット溝を掘りながら、別の作業が並行して出来る」事。
マジで時間が2倍に使えると感じました。
2020年9月。15年ぶりに再見した本物と自分のクローン。
https://note.com/revguitars/n/na81e21efde6a
↑元ネタのギターの事はこちらの記事をお読みください。
真ん中に居るのは、この記事を書いてる人で左のレプリカを作った
わたくし小島です。テンションが上がっていますね。
その後、2液式ウレタン塗装により、つや消しブラックにリフィニッシュ。より無骨な感じが際立ちました。
覚える事は多いですが、3DCAD、及びNCを動かす知識は非常に役に立つと同時に、ギターやベースならかなり自由の利く加工が出来ます。
上記画像は1000mm×1000mmのモデル。
情熱と気合のある方は、NC加工の世界にハマれると思います。
(場所と騒音の問題もありますが…!)
最後までお読み頂き、ありがとうございました。