9.「わたし」と味噌カツ弁当。

東京に仕事で来た父と
お昼を共にした。

その帰り、夕御飯を作るのが面倒で
ねだって買ってもらった
ちょっとお高いお弁当。

一人の部屋で食す
味噌カツの入った和食弁当。

あまり食べなれないその
ソースとは違う独特の甘辛さ。
名古屋で味噌カツサンドを食べた時も
確かに感じたこの味、気持ちは

……「懐かしさ」という名前で
あってるのだろうか?

それに近い気もするし
ちょっと違う気もするし
不思議な気持ちだ。
嬉しくておいしい違和感だ。

そんなことを考えながらも
黙々と箸を進める。

一人で食べる夕食は
とても静かだ。
味の感想を共有する相手もいない。

…なに、慣れたことだ。

最後の一欠片のカツとご飯を
一緒に口の中に入れた。
なんだか、あっという間の夕食だった。

ごちそうさま。
箸を揃えて、心のなかで呟いた。

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