16.「わたし」と東京の朝。

どんくさいのか分からないけど
満員電車に乗り込むのが
最後になることがよくあって

もうすでに人でいっぱいのところに
入り口のドアに手を添えて
背中を反らすように乗り込んで

誰かがぽんと押したなら
私はあっけなく電車から
飛び出してしまうんだろうなと
無表情の中ぼんやりと考えていた。

ドアがしまる。
紺色の鞄が入りきらずに
ふにゅっと挟まる。
引っ張る、引っ張る…と
隣のおばさんも一緒に引っ張ってくれる。

とれると「良かった」という目で
笑ってくれる。
私も「ありがとうございます」と微笑む。

あぁ、一人一人心を閉ざして
灰色の無表情で詰め込まれているような
満員電車でも
本当は一人一人優しい心を隠してる。
温かなピンク色。橙色。

それを忘れちゃいけない。

曇り空からきれいな青色が
顔を出しはじめていた。

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