エンド・オブ・プレジデント

この世の理は失われた。合衆国に次元の穴が空き、大統領と全ての継承者たち、指定生存者たちが失われ、ありとあらゆる大統領たちがあらわれた

「北軍の勝った世界だと?」
アメリカ連合国大統領ディキシー・ジェファソンが不快極まると唸った。
「これが現実なら我らは夢か」
神聖合衆帝国大統領皇帝ノートン74世が錫杖をふるって笑う。
「ハイル! ハイル! ハイル!」
国家社会主義アメリカ共和国大統領ハンス・カスターがUFOから降りる。
「どの世界だろうと、ここは我らの土地だ」
アメリカ精霊連合王国大統領スリーピング・ベアが決意を固める。
「革命は終わらない。何度でも人民は成し遂げる」
アメリカ人民共和国連邦大統領ジョン・ゴールドスタインは握りしめたこぶしを高らかに上げる。
「UGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!」
アメリカ・レプタリアン帝国大統領グ・ルルバ・ザンナは鱗に覆われた爬虫人類特有のぎろりとした目で人類の町を睥睨する。
「あいかわらず、男どもと来たら」
神の恵みによる北米連合王国大統領キャサリン・アンダーソン女男爵が紅茶を片手に優雅に一礼する。
「こいつはドープだ」
瀟洒なスーツにドレッドの葉っぱを吹かしてうそぶくのは、ザイオン・アメリカ・ガンジャ合衆国大統領ハイディー・ダンディー。
「忘れてはなりません、大統領とは公衆への奉仕者だということを。奉仕を忘れ、支配を目指す有象無象など残らず蹴散らしてみせましょう」
ホワイトブリムも高らかに、メイド合衆国アメリカ第一大統領オルガ・カレンスカヤがモップを掲げる。
「ヒヒン! ヒヒヒーン!」
北米人馬一体合衆国大統領フウイヌムはいななき、ひそかに、すべての民を救うすべを考える。高潔な馬なのだ。
「・・・」
合衆国オブザデッド大統領名無しは無言だが、そのノロくさい歩みは止まらない。ロメロ版だ。
機械知性の大統領がいる。魔法使いの大統領がいる。無貌の名状しがたい大統領が、姿なき大統領が、幼い大統領が、年老いた大統領が、男の大統領が、女の大統領が、その他一切の性の、種族の大統領がいる。

だが、誰が大統領たちを呼び寄せたのか?

次元断層を開いた大爆発によって首都ワシントンは孤立した。だが、首都はまだ生きている。そのことは逃げ延びた難民たちの証言で分かっていた。

いま、大統領なき合衆国の大地に降り立ったすべての大統領たちは、死都ワシントンを目指す。真の大統領の名を宣言するために、そして何より、レガリアたるアタッシェケースに収められた、核のボタンを手にするために!

「なんだい、おじさん、人の顔をじっと見て」
「あの連中をどう思う?」
「ああ、あの外から来た大統領たちってやつか。そりゃ、くやしいさ」
「ならば、なってみないか」
「何の話だい」
「大統領だ。ジャック、お前からは秘められた大統領力を感じるのだ…」

死都ワシントン。霧に覆われ、壊滅した議事堂の正面に建つ、ギリシア風の建物の奥深く、闇の中で一人の年老いた法服の女性と同僚たちがおごそかに向かい合っている。

「騒がしいね…だが、あの連中は忘れているんだよ、この国には三権があるということを……!」

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