キャプテン・ブランダーバスと超空洞のリルラ姫 #1200文字のスペースオペラ

大忘却が数年後に迫っていた。
宇宙の泡構造に穿たれた数億光年もの空虚、超空洞にも、きわめてまれながら銀河が存在し、星がある。
惑星揺らぎ星は超空洞のはぐれ銀河のはぐれ星、上下四方の六ベクトルに、1億光年のあいだ何もない。
奇妙に廃墟めいた、ジャングルのなかに築かれたピラミッドの頂点の祭壇に、リルラ姫が立っていた。
祭壇の上には小さなクリスタルが浮かぶ。
星のない夜空にオーロラのカーテンが広がり、そこから、雪のような結晶が降り始めた。
リルラ姫は意を決して、クリスタルへと語りかけた。

・・・見知らぬ時、見知らぬ場所の誰か、ここははぐれ銀河のはぐれ星。

「ちょっ、ちょっ、待て、待って、ぶーつーかーるー」
ドオンと火星平原の鉱山地帯に小爆発が上がった。涙滴型宇宙船ポンコツ号がいつものように着陸に失敗したのだ。
砂地に半分めり込んだリベット打ちの流線型の宇宙船の扉が開き、まず、顔をのぞかせたのは、毛むくじゃらの鼻面。
すぐあとから、赤毛の宇宙服の少女が顔を出し、そのネズミ型ドロイド、チープリーパーを押しのけた。
「痛ったいなあ。もう、はやくどいてよチープったら」
「安全を確かめていたんだ、ばか船長」
「だってしょうがないじゃん。いきなり撃ってくるなんて思わないよ」
「ばか船長、いま火星は戦争中だってことを忘れたのか?」
「覚えてるけどさあ、警告くらいはするでしょ、普通」
「ああ、ばか船長。外部兵装をセーフティにしていたら、そうしてくれたかもしれないな」
「あ!」
ぽん、と彼女、キャプテン・ブランダーバスが納得し、それにチープが頭を抱えた時、二人の前の空間が突然輝き始めた。
虹色の亀裂が空間に空き、そこに手のひら大のクリスタルが実体化した。
「なに、これ?」
ノータイムで手にとったキャプテンを、チープは一瞬制止しようとしたが、間に合わない。
手に取ると、クリスタルは、まばゆく発光し、メッセージを再生し始めた。

揺らぎ星を従える恒星は一万年に一度の周期で全知性体の記憶と知性を抹消する特殊な電磁波を発する。
リルラ姫の文明は、ようやく大忘却の痕跡と予測にたどりついたが、もはや猶予はなく、対抗策もない。
前文明の遺跡に残されていた、原理不明の「無作為超広域転送機」以外には。

「ばか船長、なぜぐっと手を握りしめているのかな?」
「チープ、修理までどれくらいかかる?」
「どこだかわからないし、行く方法なんかないし、今この瞬間すでに手遅れかもしれないんだぞ、ばか船長」
「チープはばかだなあ」
赤毛の少女は、トレードマークのブランダーバス(宇宙ラッパ銃)を宙に向けて構えると言った。
「あっちから来れたんだから、こっちから行けないわけないじゃん」

 ・・・そして、色々あって、赤毛の少女は終わりの姫に手を差し伸べる。
「友だちになろう、そして、ついでに、世界を救うんだ!」

【終わり】


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