淡雪さんは諦めない

2.021年
3年放課後勇者組 浮動 要

なあ、淡雪。俺はお前のことが最初から嫌いだったよ。
始業式のあと、最初の何も分からない強制転移のときから、お前は率先して命を狙う敵と言葉を交わそうとしていた。馬鹿じゃないかと思っていたよ。死にたがりがカッコつけやがって。
結局、俺たちはあの世界を救えなかったし、鍵を見つけて逃げ出すことで精一杯だった。言葉もわからない俺たちを救けてくれた正直ペルゲンも、神殿のアゼルさんも、悪童クダも、エファレも、アルミナも、みんな死んでしまった。誰も救えなかった。
淡雪、耳に残る悲鳴をお前はどうしていたんだ? だが、お前が背負う必要なんてないんだ。俺たちは誰も救えなかったんだ。たまたま俺たちは立ち会わされただけだ。
その後も、いろんな世界に俺たちは行った。巻き込まれたこともあるし、自分たちから出かけていったこともあった。崩壊世界バンダレア、死滅海ベダルド、無限改変世界テルマ、喪われたアンドーラ、過去へと疾走する円筒世界グルダ、救えなかったこともあったし、後味の悪い結末もあった。だが拾えたものもあるし、三条のやつなんか超巨大な古代竜の彼女が出来たわけだしな。時の果てのバーダックに残った沼津だって、望んでそうしたんだ。
宇宙破壊大帝との戦いではクラスが真っ二つに分かれた。あの時は、委員長は葛藤のあまり、魂魄燃焼機関エーテルリアクターがメルトダウン直前まで行って、博士川と黒百合が体を張って止めてくれたんだった。(二人が付き合うことになるなんて思いもしなかったよな)そういえば、あの時、知らない転校生がいた気がするって、古森が言ってたらしい。
赤毛の勇者、俺たちのいちばんの短気もの、でも言葉をかわすことをやめないお前を、俺たちは本当に眩しく思っていたんだ。
だから、あのとき、お前だけが重戦機グランディオンのコックピットにいたお陰で助かったことを気に病む必要はない。存在遡行抹消ビームは俺たち全員をやがてはじめからいなかったことにするだろう。このメッセージは道半先生の異能《5分間、ただ一度だけの奇跡》のお陰だ。正直、理屈はわからないし、いま俺がどういう状態なのかもわからない。だが、淡雪、お前はもう忘れていいんだ。俺の奇跡へと願った目的は、ただそれだけが言いたかった。
淡雪焔、俺たちは《卒業》するだけだ。
だから、気にするな。
俺は最初から、お前のことなんか、嫌いだったんだ。

 

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