望まれない力
どうやら、子どもの頃のぼくは記憶力がよかったようだ。
なんでも暗記する系の記憶ではなく「保存がいい」ほうの記憶だ。
「よく覚えてるねー」と感心されることが多い。
仕事よりは、雑談や世間話に役立っているような氣がする。
でも、同級生や古い友人などにはあまり好まれていない。
直接いやな表情をされることはないけど、なんだかわかる。
「そこまで思い出さなくてもいいよ」という声のようなものが聞こえる。
子どもじみたふるまい。いたずら。
叱られたこと。そして泣いたこと。
ケンカしたこと。
それでも、次の日会話ができたこと。
甘酸っぱい恋。
きはずかしくも、心のあたたかい日々。
切ない想い。
別れの瞬間の、心の失速。
そういう記憶は本当に要らないのだろうか。
思い出してほしくないのだろうか。
そんなぼくの力を、誰も望んでいないのだろうか。
記憶で人はつながっているのに。
つながらないと、記憶からいなくなってしまうのに。
年をとり、その能力はゆるやかにおとろえつつも、
誰かを記憶せずにいられない。
それでも、ぼくはつながっていたいから。
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