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VIXXの巧みな和声戦略 Chained up

まるでビジュアル系バンドの妖しさを見事にダンスアイドルグループで表現してしまったかのような我らがVIXX。今回の活動曲Chained upも、2ndフルアルバムも、安定の充実した内容となっています。

今回公開された楽曲群を聴いていると、既存曲との関係を意識しながらうまく「今のVIXXらしさ」が表現されていてとても興味深いです。活動曲Chained upを参考に、VIXXが展開している巧みな「和声戦略」を紐解いてみましょう。

VIXXといえば、On&On、ハイド、呪いの人形と、強烈なコンセプトでぐいぐいとトップアイドルへと駆け上がっていった時期が印象的でした。このときのVIXXを支える和声戦略は宇宙和声の使用。ポップかつ硬質なスケール感を表現できる宇宙和声は、この時期の「脱人間」的な過激なVIXXの世界観にぴったりでした(このあたりについては以前書いたブログ記事をご参照ください→こちら)。

他方で、昨年は過激なメイクやコンセプトを後退させ、ダークなイメージは維持しながらも、より人間的な苦しみや情感を強調しました。当然そこには、これまでと異なる和声戦略が展開されています。ポピュラー音楽の基本理論とされる機能和声法です。


それでは今回どのような和声戦略によって、彼らはVIXXワールドを維持し、かつ更新したのでしょうか?

まず音を確認しましょう。

上の音源はサビのメロディーと和音を弾いたものです。基本的には機能和声的な特徴を持っていて、それゆえに、非常にエレガントで色っぽい雰囲気が出ています。しかし、その一方で最後の「G」の和音からは宇宙和声的な響きも感じ取られます。つまり両者がうまくブレンドされている感じです(詳しくは音源のページの解説をご参照ください)(注1)。

ここで興味深いのが、2ndアルバムの曲で、この曲の次に収められているMAZEという曲です。この曲はハイドと(キーが違いますが)同じ構成の宇宙和声が全面的に使われていて、まさにこの系統のVIXXワールドを引き継ぐ雰囲気の曲となっています。

試みに、この曲の和声をそのまま使ってChained upのメロディーを弾いてみると、こんな感じになります。

かなりフィットしていますよね。非常に明快で骨太な浮遊感・スケール感が、On&On、ハイド、呪いの人形の頃のVIXXを彷彿とさせます。他方で、エタ―ニティやエラーで発展させてきた人間的な苦悶にもとづく色っぽさ艶っぽさが消えてしまっているがわかりますでしょうか。

この実験から以下のようなことがわかります。

つまり、今回のVIXXの和声戦略は、これまでのVIXXの二つの系譜――つまり宇宙和声を使って派手に攻めてきた呪いの人形系譜と、機能和声を使ってしっとりと攻めてきたエラー系譜――をうまくブレンドして、過去と一貫性を保ちつつもマンネリ化をさける「ほどよい攻め感」を出す、というものだということです。

そして、その戦略を活動曲だけに担わせるのではなく、他のアルバム曲を使って総合的に表現している点も、非常に巧みな点だと思います。とくに活動曲からMAZEへの流れは見事です。これでVIXXファンの多様なニーズを効率よく吸収してしまっているのです。

こうやって曲を分解していくと、送り手の緻密な手つきが見えてきてとても面白いですね。今回はごく一部の曲しか扱っていませんが、今回のVIXXのアルバム、全体を通してクオリティの高い曲ぞろいでとても素晴らしいです(注2)。ゆっくりと楽しみたいと思います。


注1:この曲は、実はEXOのWOLFや中毒にも似た構造を持っています。とくに印象的なAメロは、Dドリアンスケールといって、独特のひんやりとしたダークネスが堪能できます。これはWOLFや中毒も同じです。

注2:これまで私はVIXXをSHINeeと対比させたり、注1でもEXOと対比させましたが、もちろん、この2者との対比ではつかめない「VIXXらしい」としか表現できないような特徴もあると思います。例えばオルタナロック的なテイストは、SMアイドルでは決して味わえません。今回のアルバムは、そんなVIXXらしさを十分に堪能でき、とても素晴らしいです。



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