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Suhr ジョン・サー氏が明かす究極のギターメンテナンス方法

こんにちは。厳しい暑さがつづき体もギターもコンディショニングには気が抜けない時期ですよね。
そんな中で、アメリカのハイエンドギターメーカーのSuhrで実際に行われているセットアップ方法に関する情報を発見したのでご紹介します。
5分ほどで読んでいただけると思います。

この記事はこんな方におすすめ
・メンテナンス方法がよくわからない
・プロ向けのセッティングのノウハウが知りたい
・ハイエンドギターの音に少しでも近づけたい
・お金をかけずに自宅で手軽に調整したい

Suhrについて

CEOのJohn Suhr氏が1997年にアメリカのカリフォルニア州で設立したメーカーです。
ギターの他にもベース、エフェクターやギターアンプなども製造しており、そのクオリティの高さから世界中の一流プレイヤーに愛用されています。



著名なギタリストとして、Scott Henderson氏、Peter Thorn氏、Mateus Asato氏、Matt Reviere氏、日本では増崎孝司氏などが愛用。
過去にはMichael Landau氏、Guthrie Govan氏、Tom Quayle氏、Martin Miller氏などギタリストが憧れる名だたるトッププレイヤーに使用されてきました。

少しマニアックなスタジオ系のギタリストが多いため、もしかしたら馴染みのない方もいるかも知れませんが、愛用するギタリストの演奏を視聴すれば支持される理由がよくわかるかと思います。


このnoteについて

今回の記事はアメリカのギタリスト向けチャンネルのTone-Talkで行われたSuhr Guitars代表のジョン・サー氏とFriedman Amplification代表のデイヴ・フリードマン氏の3時間弱にも及ぶ対談ライブを翻訳しまとめたものです。
https://youtu.be/1gw9MCimMuE

翻訳にあたり言語間におけるニュアンスの違いがあるため、表現が不自然な点や日本語で理解のし易い言い回しに置換している点などがございます。
至らない点も多々あるかと存じますが、ご理解いただけますと幸いです。

また英語がわかる方や興味のある方はぜひオリジナル動画をご覧ください。
緻密で繊細なノウハウとは対象的に冗談をよく交えながら淀みなく話すジョン氏の人柄はとても印象的です。

ジョン・サー流のセットアップフロー

その1 「ネックの反りを調整」

ジョン氏がギターを手に取りまずはじめにすることは、ネックの調整だそうです。
実際のネックの反りを正確に計測するためには、StewMacなどで販売されているフィラーゲージを使用することを勧めておりますが、工具なしでも手軽に確認できる手順を解説してくれました。

まず左手の人差し指で1フレットを押弦し、右手はアロハポーズの形を作り、親指または小指で指板とボディの接合部分に来るフレットを抑えながら反対の指を可能な限り伸ばし、ミドルポジション上のフレットをタップし弦下との隙間を確認してください。このときに目視するだけでなく、タップしたときの音も聞きながら各弦にどのくらい隙間があるかを計測します。

目安としてはフレットの頭と弦下の距離が*1弦のゲージの半分ほどの値であればネックが適正な状態に保たれています。

*09-42の弦→0.0045インチ(=0.1143ミリ)
*10-46の弦→0.005インチ(=0.127ミリ)


▪ポイント:ネックはゆる〜く順反りに設定しよう!
→上記の間隔で調整をするとネックがやや順反り気味になってしまうのですが、それに関してジョン氏は全く問題ないと述べています。
逆にもしネックを完全に真っ直ぐにしてしまうと、反りが発生したときにナット付近のフレットでひどいビビリが発生してしまうので注意が必要です。

日々動いてしまうネックをライブやレコーディングの直前に毎度レンチを取り出して真っ直ぐに調整することが億劫でない人であればいいのですが、ほとんどのプレイヤーがそこまではしないことを考慮した上で、Suhrではある程順反り気味にセットをしているそうです。
また実際には1弦のゲージの半分の値よりも少し余裕のある0.007~0.008インチ(=0.1778~0.2032ミリ)ほどでの設定を好んでいるとのことでした。


その2 「ナットの高さを確認」

ネックの調整を終えたら次はナットの確認です。
多弁なジョン氏ですが、解説にあたり妻のギターを取り出していの一番に言及したパーツは意外にもナットです。詳細は後述しますが、このことからもナットに対して非常にこがわりがあることがうかがえます。

ちなみに彼自身はいつもかなり溝を低めにカットしているそうで、消耗しづらいことが理由でブラスナットが好みだとの述べています。

※ナットを研磨加工する場合は文字通り1/100ミリ単位で繊細な調整が必要になるため専用工具のない自宅では難しく、下記の手順はあくまでお持ちのギターのナットが正常かどうかを判断する方法になります。

ジョン氏いわく、ナットが適正な高さになっているかを見極めるには、まず3フレットを指で押さえ、1フレット頭と弦下に隙間があるかを確認します。
正常な状態であれば、隙間は見えないほどごくわずかですが必ず存在するので注意して確認してください。

もしない場合は、ナットが1フレットよりも低くなりすぎているため開放弦でビビリが発生します。

※弦高が正常にもかかわらずここで逆に隙間が大きすぎる場合は、ナットが高くなりすぎていてる可能性があるため気をつけてください。
フレットを抑えたときに、弦が過剰に押し込まれることで伸びてしまい常にベンドをしているような状態になりピッチがわずかにシャープすると思います。
この時点でナットに問題があると感じた場合ですが、溝の調整するには専用のヤスリやマイクロ単位での精密な加工が必要になってしまうので楽器屋へ持っていくことをオススメします。

▪ポイント:ナットの溝がローカットか確認しよう!
→ナットが低いと弦が左右に動く距離が小さくなるため、チューニングの安定や演奏性が向上するといったメリットがあります。

ここまで終えてよくわからないといった方へジョン氏が補足をしており、弦もナットも低い場合は、1フレットを抑えたときに12フレット上でどのくらい弦が移動するかを目視で確認するとわかるそうです。
もしここで弦がかなり動く場合、ナットが高すぎる可能性がありますが、適切な高さであれば弦の動きはほとんどないでしょう。

また余談ですが、Suhrの著名なエンドサーの一人だったマイケル・ランドウ氏はジョン氏の好みとは裏腹に少し高めのナットが好みだったそうです。
ただ、ナットは一度低くカットしすぎてしまうともう戻すことができないため、以前はよくジョン氏の頭を悩ませていたことを2人の笑い話として述べていました。


その3「チューニング安定の秘訣」

さて、ネックが真っ直ぐになりナットもちょうどいいことがわかったので次にやることはチューニングを安定させるために大切な作業です。

弦を指でブリッジ側から持ち上げてそのままナットに向かってスライドさせながら伸ばしてください。指がナットのところまで来たら、弦を溝からしっかり外して真上に引っ張り上げましょう。

▪ポイント:各弦を緊張させた状態で抜かりなく伸ばそう!
→特にテンションのきついトレモロ式のギターなどでは6弦を指で摘むのが難しいかもしれませんが、各弦でまんべんなく伸ばしてあげることでたわみが解消されチューニングの安定に繋がります。


その4「弦高を調整」

ここまでの手順をすべて終えたらついに弦高の調整です。
弦高を調整するためには定規を用意しましょう。最終フレットの頭から弦下までの距離が指標となります。 
このときの弦高の目安ですが、1/16インチ(=1.5875ミリ)が基準値となりSuhrのギターはすべて出荷前にこの値に設定されているそうです。

しかし、ジョン氏はこれに関して持論を述べており、彼自身はメーカーの方針とは異なるそうで、開放弦で合わせた場合のナットとフレットのわずかな高低差で生じる影響を目立たなくするためにに1フレットを抑えた状態で1/16インチに設定しているとのことでした。

もしナットが最小限に低く、1フレットと同じ高さであれば1/16インチが適正となるそうですが、ここからの弦高に関しては完全に個人の好みの問題ですので自由にすべきだと述べています。

▪ポイント:弦高は1/16インチ(=1.5875ミリ)基準に好みで調整しよう!
→こちらは特に絶対的な数値ではなく、1/30インチや1/64インチにするかなどは弾きやすい高さになるように各自で調整しましょう。


その5「ピックアップの高さを調整」

さあ、アクションに関連する基本的なセットアップが終わったので次はピックアップの調整です。
ジョン氏の場合、まずブリッジピックアップを演奏の邪魔にならないギリギリの位置まで上げるそうです。もしこの位置で音が明るすぎたり、尖りすぎるなど過度にアグレッシブな場合は下げるようにしましょう。

基本的なことですが、ゲージの細い高音弦は物理的に音が小さいため集音され辛いです。ピックアップは必ず高音弦側を高くし音が拾われやすい状態にしてあげることが大切になります。

そしてフロントピックアップですが、多くの人が誤って高くしすぎているとジョン氏は指摘しています。
フロントピックアップを弦に近づけすぎると弦が磁力で引っ張られ、オクターブチューニングに狂いが生じてピッチが不安定なりがちです。
特にポールピース系のシングルコイルだと症状が顕著になるので気をつけてください。

ハムバッカーであれば弦に近づけることは問題ないとのことですが、弦振動はネック側のほうが大きく、フロントピックアップの音が大きくなりすぎてしまうため、2つのピックアップの高さを揃えるのはやめましょう。

▪ポイント:弦振動を見極めPUを高音>低音/ブリッジ>フロントにしよう!
→アウトプットの音量は弦の振動、弦とピックアップの距離に依存してしまい、配線を調整しても補完できないので気をつけてください。

補足ですが、Suhrのマーケティング顧問やガスリー・ゴーヴァン氏率いるThe Aristocratsのマネージャー、.strandberg*のアメリカ部署代表などの経歴で知られるEd Yoon氏が過去に公式フォーラム内でピックアップ設定の正確な手順と数値について明かしておりましたので紹介します。

エド氏いわく、Suhrではシングルコイルピックアップの高さは、最終フレットを抑えた状態で6弦下からポールピースの上部までが1/8インチ1弦側は、3/32インチでおおまかにセットされているそうです。

この基準値から2つのピックアップの音量差や音の好みなどを考慮して下方調節することを推奨しておりました。

またここで気をつけてほしいのが、前述の形でジョン氏が言及したことと同じく、ピックアップをこれ以上高くしてしまうと磁石が弦振動の支障となり、サステインの減少や奇妙な二重音が鳴るようになってしまうと忠告しています。

またハムバッカーピックアップですが、メーカーでは6弦側は5/64インチ1弦側が3/64インチに設定されているとのことでしたが、これはあくまで基準値でしかなく、最大限に高くしているプレイヤーもいるため、好みで上げることは問題ないと断言しています。

そしてSuhrでの設定値に関しては、あくまで万人が満足するであろうポイントであり調整のバランスが取りやすい始発点となる値でしかないため、いろいろ検証し好みに合ったベストポジションを見つけてほしいと述べておりました。

※日本のSuhrの正規代理店であるオカダインターナショナルの検品の様子をイケベ楽器が取材しておりましたが、ピックアップ調整に関しての記述を引用すると、

"SuhrにはオリジナルPUが数種類ございますが、こちらの数値はどのモデルを搭載しても同じになるそうです"

とあります...。
エド氏の投稿は2006年のものと古いため、もしかしたら仕様変更があったのかもしれませんが、一体どちらが正しいのでしょうか…。


その6「オクターブチューニング」

ここまで思いの外長くなってしまいましたが、やっと最終工程です。
先程少し触れたオクターブチューニングをしましょう。

ジョン氏がやっているのは、一般的に知られている開放弦を用いたものではなく、3フレット上でオクターブを合わせる方法です。
なぜこのような変わったやり方かというと、前述の通りナットとフレットの高低差で生まれるピッチの狂いを無効化させるためで、これが非常に重要だと述べています。

また3フレットだけではなく、指板上の全ての音を用いてくまなくオクターブを合わせ、時にはオクターブを無視し更に上の音でもチューニングがあっているか確認するそうです。

オートマチックチューナーがあれば、どこのポジションであろうと音があっているかどうかを精密に確認できるので使用を推奨していました。
ハイフレットになればなるほどファインチューニングのように非常に緻密な調節が必要となるので持っていると便利です。

▪ポイント:ナットは虚偽の前提。開放弦以外でオクターブを合わせよう!
→ナットからフレットやペグポストまでの角度に異常がある場合、弦がナットの角の然るべきことで離れなくなるため、ピッチが合わずオクターブチューニングが狂ってしまいます。

このリスクを軽減させるためにはナットの影響のない3フレットなどでオクターブチューニングを合わると良いです。
もしここで開放弦の音があわなければ、ナットに異常があることがわかります。

加えてジョン氏が指板上でくまなくチューニングする理由として懸念していたことが、規模の大小問わず多くのメーカーでフレット加工の際に使われているギャングソーだとフレットスロットがSuhrのようにコンピューター制御で個別にカットされたものほど正確ではないそうです。

まず考えられないことらしいのですが、そのため指板上でくまなくチューニングを合わせることによってスケールの長さが正確にになっている場合があるかもしれないとのことでした。

さいごに

さて、ここまで冗長になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
ナットの構造上の欠点に疑いを持つことの大切さがわかったこのノウハウですが、実際にSuhrのリペアマンが100ドルで実施しており、ギターを弾くすべての人が自身でできるようになるべきだとジョン氏は述べておりました。

みなさんもぜひやってみましょう!
最後までお読みいただきありがとうございました。

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