見出し画像

新たな進化を見せるウォルバーハンプトン

今季、昇格組ながら第24節を終えた時点で10勝5分9敗の35ポイントを獲得し7位に位置する健闘を見せるウォルバーハンプトン(以下ウルブス)ジョルジュ メンデスのコネクションを活かした補強戦略や、昇格組としては異端なポゼッションサッカーがトピックとして取り上げられている。

前半戦、筆者はウルブスのサッカーを観ていて非常に魅力的なチームだと感じた。だからこそなのか、ポゼッションという言葉が先行し、一括りにされているのに違和感を覚えていた節があったのも事実だ。もっとこのチームには大きな魅力があるのではないか。そして、先日行われたプレミアリーグ第24節 ウェストハム ユナイテッド戦 この試合でこのチームが1つの答えを示したと筆者は感じる事となった。

立ち返る土台があるからこその進化 起爆剤となるのはデンドンケル

開幕から3-4-3のシステムをベースとして戦ってきたウルブスだが、この試合で採用したのは3-5-2(5-3-2)のシステム。

試合開始前の筆者の見立てでは、相手がタレント揃いかつ、主導権を握る戦い方を好むウェストハムだという事を考慮し、中盤の守備を厚くする事と、ウェストハムのハイラインの裏を2トップで突くという事が狙いにあるのではないかと考えた。実際、過去にもビッグ6との対戦時は重心を下げ、アダマ トラオレを活かしたカウンターを主体に置く等、ウルブスのヌーノ監督は相手に応じて臨機応変な対応を見せる指揮官だ。

試合を終えてみると、結果は3-0と快勝。ウェストハムのシュートを僅か4本(枠内は0)に抑え、逆にウルブスは20本ものシュートを放った。

この試合でウルブスに見えた変化とは?筆者はカウンターとポゼッションの両立の成功だと考える。ボールをしっかり保持した状態からの崩しでのフィニッシュ。ロングボールを使い相手ゴールを一気に強襲するロングカウンター。この2つを使い分ける事というのは容易に出来るモノでは無い。ならば何故、ウルブスは使い分ける事に成功したのか?1つ目の要因としては、ウルブスのビルドアップの方式にあるのではないか。ゴールキック時、GKのルイ パトリシオは原則、CFの一角のラウール ヒメネスに向けて長いボールを蹴る。ポゼッションをコンセプトにしているからと言って、必ずしも後ろから丁寧にビルドアップする訳で無い。また、このシーンで必然的にストーミングの要素が生み出される。ターゲットとなれる選手にボールを当て、意図的にカオスの状況を作り出す。ここで相手の状況に応じて、一気に相手ゴールを強襲する選択肢が持てる。勿論、ここから時間を掛けてビルドアップする事も可能であり、ウルブスはここでボールを保持した時のレベルが非常に高い。ウルブスはビルドアップの時点で既に2つの大きな選択肢を得ているのだ。その一方でウルブスには可能ならば自分達がボールを保持するという明確なコンセプトが存在する。立ち返る場所があるからこそ、彼等は意思決定を間違えない。仮に間違えたとしても、チームとして大崩れする事は無いのだろう。

2つ目の要因として、3-5-2というフォーメーション。そして、レアンドロ デンドンケルの存在の大きさを挙げたい。

ウルブスにおける3-4-3と3-5-2の比較について少し話をしよう。まず、明確な強みとしては中盤の枚数の増加だ。前述した、意図的に生み出されたカオスの状況。中盤の枚数が増えるという事は当然この状況でのボール回収が容易になる。そして、3トップから2トップになり、ウイングプレーヤーが居なくなった事によって、カウンターの殺傷力は増す事になっている。一方、相手陣内でのボール保持時に、ウイングプレーヤーが居なくなった事で崩しのバリエーションの低下という懸念も見られる。このデメリットに対してどのようにアプローチするのか?この答えが、右インサイドハーフで起用された、レアンドロ デンドンケルだ。

デンドンケルは昨夏、ベルギーのアンデルレヒトからウォルバーハンプトンに加入したMF。ベルギー代表としてロシアW杯にも出場しており、ジョゼ モウリーニョも獲得に関心を持っていたとされる有望株だ。しかし、前半戦は中々出場機会を得る事が出来ず、リーグ戦初出場は12月に入ってからとなっていた。彼が中盤の右に入った事によってウルブスにどのような恩恵を齎すのか。勿論、彼の対人守備能力の高さによる貢献は言うまでも無いのだが、それ以上に注目したいのは、右のハーフスペースをアタックする動きだ。元々、3-4-3の時にここをアタックする動きを担っていたのは右WBのマット ドハーティだ。しかし、彼には状況に応じて幅を取ると言ったタスクも与えられており、タスク過多が起こっていたのは否めず、同時にネガティブトランジション時の戻り遅れを招いていた。しかし、デンドンケルがそのタスクをカバーしつつ、守備でも貢献する事によって、ドハーティの負担を格段に軽減する事に成功したのである。

右サイドの話ばかりしているが左サイドはどうなんだ!と言われるかも知れないが、左に関してはビルドアップ時にルベン ネベスが左に落ちてボールを引き出し、同時にスペースのケアもしているので、大きな問題とはならない。

臨機応変な戦い方も全てはサッカーの真実を知ってのこそ

ここまで、システムの話について書いてきたが、ここからは少し、ウルブスのリスクマネジメント能力の高さについて話をしたい。

前述した、ゴールキック時の話についても、目的としてあるのは相手陣内でポゼッションを確立する事である。ポゼッションのチームが陥る悪い傾向として、ビルドアップそのものや、ポゼッションが目的となってしまい、本来勝つ為にやるべき事を見失ってしまうという事が存在する。しかし、ウルブスは決して同じ轍を踏まない。

メカニズム単位で抜き出すと、ネベスが落ちてボールを引き出す動きにしても、デンドンケルに与えられているタスクにしても、全て守備のリスクを考慮した上でのメカニズムとなっているし、チームとしても、対強豪では、しっかりと後ろにブロックを敷く、時間帯に応じてFWまでもブロックに加わり守備に参加する等、観客を魅了すると同時に勝てるサッカーをする上でどのような土台が必要かを我々に教えてくれる。

ウルブスには多くの観衆、サポーターを惹きつける魅力があると冒頭で語ったが、それは決してポゼッションという括りで括られるモノでは無い。

カウンター、ストーミング、ライン間でのコンビネーション、セットプレー、ターゲットへのクロス。挙げればキリが無くなるのでこの辺りにしておくが、様々なサッカーの要素を数多く含んだ、濃い内容の試合を繰り広げられる所に、ウルブスというチームの魅力があるのであろう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?