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イランは何故崩壊したのか?

先日行われたアジア杯準決勝 日本vsイラン戦。アジア最強などとかなり前評判の高かったイラン代表だが、結果は日本の前に3-0と完敗。ケイロス監督は今大会を持って退任。失点シーンのセルフジャッジやアズムンのスポーツマンシップに反する行為等が話題の中心を占める事となった。アジア屈指のチームの完成度を誇るはずのイランが何故、あのような姿を晒す事になったのか?ここでは、イランに焦点を当て、問題について考察したい。

可変式フォーメーションの犠牲者となったハジサフィ

イランがこの一戦で採用したシステムはアンカーを置いた4-5-1。勿論、試合を通してこの形を維持する訳ではなく、日本の自陣からのビルドアップ時には4-1-4-1に。イラン陣内での守備の局面では5バック(時には6バック)に変化する等、状況に応じた可変式と言うのが前提にある。特に、この試合のポイントの1つとして挙げたいのが日本の自陣からのビルドアップの局面。これまでの試合で、日本は柴崎が最終ラインに落ち、SBが高い位置を取る形のビルドアップを採用する事が多く、イランが4-1-4-1の布陣でプレッシングに来たのは前線で数的同数の状況を作る為のアプローチとしては至極当然だったと言える。しかし、ここで柴崎の対応力の高さが光る。無闇矢鱈に最終ラインに落ちるのでは無く、中盤の位置にポジションを取った。これによりアズムン(局面によってはデジャガー)は中間ポジションを取らざるを得なくなり、日本の最終ラインへのプレッシングの質の低下を招く事となった。ここで、イランにはプランBが存在しなかった。日本の選手はビルドアップに手数を掛けず、素早くライン間の選手にボールを渡す意識が強い。当然、4-1-4-1を採用している以上、イランにとってアンカーの両脇と言うのは弱点になる。ここで、4の中盤の左インサイドハーフで起用されていたハジサフィが終始、スペースをカバーするのか、前のプレッシングに加わるのかの判断に迷いを見せた。恐らく、前述した通り、前線でチームとしてプレッシングのスイッチが入らなかったのが原因だろう。こうなると、遠藤航へのマークが緩くなり、彼にボールを運ばれるシーンが生まれる等悪循環に陥る。まして、日本のCFはボールを収める事に関してはワールドクラスとも言える大迫勇也だ。イランが犯した致命的なミスだろう。イラン側からするとここで、中盤がカバー出来ないのなら、 CBが前に出て迎撃するという手段がある。しかし、日本の最終ラインは今大会通して、シンプルに裏のスペースを使おうとするシーンが多々あり、これがイラン側からすると、最終ラインを思い切って上げられない要因となったのは間違いないだろう。

何故、ジャハンバクシュは活躍出来ない?機能不全の右サイド

この試合でもう一つ焦点を当てたい部分がある。イランの右サイドについてだ。この試合、イランの右サイドハーフで先発したのはアリレザ ジャハンバクシュ。昨季のエールディビジ得点王にも輝いた実力者である(今夏移籍したプレミアリーグのブライトンでは苦しんでいるが) 

何故、彼ほどの選手が沈黙せざるを得ないのか。無論、長友に対人で抑え込まれたと言ってしまえばそれまでだろう。だが、これの他にも原因があるように筆者の目には映った。まず、前半の早い段階で長友がイランの右サイドを突破し、クロスを上げたシーンがあった。後々考察すると、このシーンがこの試合に与えた影響というのは予想以上に大きかったと思う。5バックでも突破される可能性があると見るや、このシーン以降、イランはブロック守備の段階で6バックに変化し、ピッチの幅を埋めるというアプローチを取るようになった(日本の先制点後はほぼ見られなくなったが)

これは、イランがW杯のスペイン戦でやっていたアプローチと同様のものである。しかし、この試合の相手はスペインでは無く日本である。日本相手に6バックのアプローチを採らざるを得なくなった事が、イラン側からしたら計算外だったのではないかと筆者は考察している。無論、こうなると、ジャハンバクシュも満足に攻撃に参加出来る訳が無い。元々、ある程度ボールを握れる状態かつスペースが存在すると言った状況を最も得意とする選手であるのも考慮すべきだ。(これがブライトンでも活躍出来ていない原因ではあるのだが)

勿論、選手起用の話をすると、個人的には前線でタメを作る事が出来るカリム  アンサリファルドを左サイドで先発させ、バヒド アミリをインサイドハーフで起用した方が良かったのでは無いかと思うが。だが、こればかりは結果論で、ケイロス監督のメンバー選考に大きな問題があったとは思えない。むしろ、重要視すべきは選手個々の試合中の修正力に欠ける部分や、チームとしての対応策を待ち合わせていなかった部分だろう。

無論、今回はこのような結果になってしまったが、イランの実力が偽物であったかと言えば決してそんな事は無い。功労者ケイロス監督の去るこのチームが更に上に行く為には、現在の土台を基に、よりレベルの高い戦術行動と臨機応変さを身につける事だ。


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