5年周期と新たなアビスパ

2019シーズン、アビスパ福岡は井原体制下の守備的なサッカーからの脱却と同時にクラブに明確なアイデンティティを創り出し、昇格を目指すという大層な目標を掲げた結果、16位というクラブ史上最悪のシーズンを送る事となった。ラファエル ベニテスの右腕として期待されたファビオ ペッキアの不可解な辞任、救世主として獲得したペドロ ジュニオールは規定の確認不足により出場が叶わず即契約解除、挙げれば枚挙にいとまがない。

前述した結果を受けてクラブは陣容を一新。強化部長には大分で監督、強化部長を歴任した柳田 伸明を、監督には長谷部 茂利を招聘し、13人もの選手を新たに獲得した。

長谷部監督の創り出す新たなアビスパスタイル

昨季は水戸ホーリーホックの監督として指揮を振るい、プレーオフまであと一歩に迫るクラブ史上最高順位の7位に押し上げた様に実績には疑いの余地は無いろう。ハードワークをする事で生まれるコンパクトな守備陣からの激しいプレッシングを持ち味とするサッカーを展開する。実際に2月23日に行われたJ2リーグ第1節のギラヴァンツ北九州との福岡ダービーでも既に新指揮官のスタイルが浸透しており、北九州を1-0で打ち破る結果となった。ここからはその試合を踏まえて長谷部アビスパの実態と展望について考察したい。

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上の画像は開幕戦の先発メンバーを元にした今季のアビスパ福岡のスカッドになる。この先発メンバー、石津、篠原、セランテスを除く8人が新加入組であり、この事から既に昨季とは全く異なるチームになるのは自明だろう。実際に昨季とは打って変わって激しいプレッシングと速攻を主体とするサッカーを90分間通して見せていた。守備時はかなりコンパクトな4-4-1-1の形となり、遠野が相手の中盤へのパスコースを消しつつ、ファンマがサイドへ追い込み、両サイドハーフがタイトに寄せつつボランチの片方がパスコースを塞ぎつつプレスをかける。ここで奪いきれるのが理想だが、仮に相手のSBが中盤にパスを出したとしても、中央はスペースが殆ど無く、残っているもう片方のボランチやDF陣がボールを回収し即カウンターに繋げる事ができる。コンパクトな陣形を重視する分、状況によってはDFラインが高くなる事もあるが、GKのセランテスはスペースカバーの能力も優れており大きな問題とはならないだろう。一方弱点としては、4-4-2の宿命でもあるのだがかなりコンパクトな陣形を保つ反面左右の揺さ振りに弱く、素早いサイドチェンジからの速攻は大きな弱点となる。実際、開幕戦でも逆サイドの選手に展開されると一気に攻め込まれるシーンが幾つか見られている。また、サイドに張った相手選手のマークが曖昧になるシーンも見られこの辺りはシーズンを戦っていく上で対策したい所だ。攻撃は素早いトランジションからの速攻が基本となる。2トップの一角を担うファンマは強靭なフィジカルが生み出す安定感のあるポストプレーを武器としており、彼を経由する事で、もう1人のCFや両サイドハーフ、ゴールへの飛び出しが武器の重廣が絡む厚みのあるカウンターを繰り出せるようになっている。敵陣に相手を押し込んだ状態では、湯澤、サロモンソンの両SBが破壊力のあるオーバーラップを仕掛けて幅を使った攻撃を繰り出す事ができる。

チームの心臓 前寛之

前述した戦術を基本とするアビスパ福岡だが、何れの局面に於いてもチームトップクラスの貢献度の選手が存在する。今季、新加入ながら腕章を巻く前 寛之だ。前は昨季まで水戸ホーリーホックでプレーしていた長谷部チルドレンの1人で、昨季は水戸の中心として圧巻のパフォーマンスを見せていた選手だ。個人昇格も噂されていた中でJ2で低迷したアビスパに加入したのはサプライズとも言われる同選手だが、チームに及ぼす影響の大きさは計り知れない。ボール奪取とスペース管理能力に秀でているという前評判通り、守備の局面では他の選手をサポートしつつ自らもボールを狩る事が出来る。そしてカウンターのスイッチを入れる役割をこなしつつ、SBや中盤でコンビを組む重廣がオーバーラップすれば的確にスペースを埋め、味方に指示を出しゲームをコントロールする事ができる。長谷部監督の戦術がこれだけ早く浸透しているのも彼の存在が一つの要因である事は間違いないだろう。彼がシーズンを通して稼働できるかは今季の成否を担う重要なファクターとなる。

過密日程と総力戦

新型コロナウイルスの影響もあり、J2リーグ再開は6月27日となる。日程が圧縮される為、過去に類を見ない過密日程となる事が予想されるが、この事実はアビスパの視点から見ると有利とも不利とも取れる。勿論走力をベースにしたスタイルという観点から見ると、過密日程は不利に働くだろう。一方、今季のアビスパは大補強を行った事もあって、J2の他クラブと比較して戦力が充実していると言えるのでは無いだろうか。実際、開幕戦ではポルトガル1部マリティモでのプレー経験のある新外国人CBのドウグラス グローリやJでの湘南の2度の昇格に主力として貢献した実績のある菊池、昨季は主力を務めた輪湖や鈴木、城後といった面々がスタメンに名を連ねる事ができない事実がそれを物語っている。また、ユース卒の北島や桑原、オフにはイタリアで研鑽を積んだ三國、東のクリロナと言われ高いポテンシャルを持つ増山らの成長にも期待でき、十分に自動昇格を狙える陣容があると言えるだろう。

2001年の降格から05、10、15と5年おきにアビスパは福岡は昇格すると言われ、その5年目となる今季に昇格を果たすのはクラブ、サポーターの悲願だ。その願いを叶える為の陣容が揃った今、長谷部アビスパが新たなアビスパスタイルを創り出し、クラブを次のステップに進ませる事に筆者は期待したいと思う。



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