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主導権の握り方 UEFAヨーロッパリーグ フェネルバフチェ×ゼニト

2月14日にUEFA ヨーロッパリーグ(以下EL)のラウンド32が開幕した。開幕カードとなったのはクラウディオ マルキージオやブラニスラフ イバノビッチら実力者を擁するロシアの強豪ゼニト サンクトペテルブルクと今季はシュペル リグで降格圏と勝ち点差1の14位(2月17日時点)と低迷するトルコ3強の一角フェネルバフチェの一戦。フェネルバフチェのホームスタジアム シュクシュ サラジオウルで行われたFirst legはフェネルバフチェが1-0で勝利を収めた。当記事では同試合の勝敗を分けたポイントについて少し考察したい。

主導権の攻防

まず、同試合での両チームのスターティングメンバー

フェネルバフチェのフォーメーションは表記上は4-3-3。正確には試合の状況において、4-1-4-1や4-2-3-1、5-1-3-1(5-2-3)等複数の形に変化する可変式を採用していた。試合を通してボールを保持して、主導権を握ろうといった姿勢が見られた。

一方ゼニトは、4-4-1-1のフォーメーションを採用。ビルドアップ時には状況に応じてクラネビッテルがCBの間に落ちて数的優位を確保するアプローチを採用。4-4-2でブロックを敷き、ジューバのフィジカルを活かしたロングカウンターというのがチームとしての主な攻撃の手段だ。

フェネルバフチェは今季リーグ戦では低迷しているとは言え、実力者揃いである事に変わりはない。両チームの戦力に大差は無く、こうなると、鍵を握るのはどちらが試合の主導権を握るかだろう。

結論から言うと、まず試合の主導権を握ったのはフェネルバフチェだ。ゼニトの2トップのプレッシングに対しアンカーのトプルがCBの間に落ちて数的優位を確保し、ビルドアップをサポート。前線3枚は流動的にポジションを入れ替え、ゼニトのブロックに捕まる事なくボールを保持する事に成功。ボールを奪われても、素早いネガティブトランジションで取り返し、相手の陣形が整ってないと見るやモーゼスのスピード、スリマニの高さを活かすショートカウンター等、ボール保持に拘りすぎ無い姿勢が見られたのも高評価だろう。ネガティブトランジションの局面で、攻守に異彩を放っていたのが右インサイドハーフで先発したジェイウソンだ。空いているスペースを見つけて埋める能力に長けていると同時に回収したボールを失わずに1列前へ送り届ける事の出来る選手であり、即時奪回のキーマンとなっていた。

敵陣からのビルドアップ時も前線とインサイドハーフの5枚でプレスを掛け、ビルドアップの阻害に概ね成功していた(ゼニトはラキツキーの優れたフィード能力で解決するシーンは何度か存在したが)

そうこうする中、20分にコーナーキックから先制し流れを完全にモノにするフェネルバフチェ。無論、ボールを握る事=主導権を握る事では無い。事実、この試合のゼニトはロングカウンターを主体とした攻撃を繰り出す事にプライオリティを置いている為、フェネルバフチェにボールを保持された方が都合が良い。しかし、試合序盤に効果的なロングカウンターを繰り出すシーンはほぼ皆無だった。勿論、CBのシュクルテルとチフトプナルがしっかりジューバに対応出来ていたのも原因の1つだ。だが、試合の主導権をフェネルバフチェが抑える事が出来たのはそれ以外にも原因がある。

フェネルバフチェが仕掛けた、ゼニトに誤算を起こす罠

何故、ゼニトは試合の主導権争いで後れをとったのか?筆者は2つの理由があると見ている。

1つは、フェネルバフチェの流動的なポジションチェンジと、それを活用したハーフスペース占領術だ。この試合で、フェネルバフチェには右のハーフスペースを使う選手が2人存在した、右ウイングのモーゼス(状況によってヴァルブエナ)と右インサイドハーフのジェイウソンだ。彼等2人に対しゼニト側は左サイドハーフのエルナニと左SBのナビウリンが対応する。ここでポイントとなったのがフェネルバフチェの右SB、イスラのオーバラップだ。彼の攻め上がりに対し、ナビウリンは中に絞っているため対応が遅れる。ここで、ナビウリンはイスラへの警戒を強める事に。この時、ハーフスペースではフェネルバフチェに数的優位が生まれるた為、本来ならばボランチのクラネビッテルがスライドして対応しなければならないのだが、悉くここの対応で後手に回る羽目に。

2つ目は、執拗に駆り出される左WGのヴァルブエナからのサイドチェンジだ。この時、ゼニトのブロックはスライドする事になるが、ここで、2ボランチを組むバリオスとクラネビッテルの距離感に問題が生じていたのだ。バリオスは1月に移籍してきたばかりである為、連携面が未成熟なのは致し方無い部分もあるといえ、ここが致命傷になったのは事実だろう。この連携の話は、1つ目の理由で述べたクラネビッテルのスライドの問題ともリンクする。

一度は主導権を取り戻し掛けたゼニトとHTで見事な修正を見せたフェネルバフチェ

しかし、試合にはそう簡単に勝つ事は出来ない。前半25分を過ぎた頃から、ゼニトが修正を仕掛ける。具体的にはクラネビッテルにリベロ的なタスクを与える。リベロといってもスイーパー型では無く、前に出て迎撃するタイプのリベロだ。この修正が一番効果を発揮したのが、ゼニトのポジティブトランジションの場面(フェネルバフチェのネガティブトランジション)クラネビッテルが後方にポジションを取る事で、相手の即時奪回を狙ったプレスに対して逃げ道を作る事に成功。危険な位置でのボールロストを格段に減らすだけでなく、前がかりになったフェネルバフチェに対してロングカウンターが有効に機能するようになった。44分にはPKを奪取する事にも成功した(結果は止められたが)

だが、フェネルバフチェもHTに修正を加える。ゼニトのビルドアップ時のプレッシングの枚数を1枚減らし、ジェイウソンをトプルとダブルボランチ的な位置に配置。この後ろの枚数を増やした変更によって、相手のロングカウンターへの対応が前半の終わりの時間帯を比較して圧倒的に改善された。このまま試合はフェネルバフチェが主導権を握り1-0で終了した。

おわりに

この試合のフェネルバフチェの勝因は、試合の主導権を如何にして握るかが明確であった事。更に、主導権を取り返そうとするゼニトに対して、主導権を離さない為の修正がしっかりと行えた事だ。EL、ましては5大リーグ外のチーム同士の対決という事もあり、この試合の注目度自体はそこまで高く無いように感じた。だが、この試合はCLにも劣らない高度な戦術修正が見られたのは間違い無いだろう。


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