大分の旅・地獄へようこそ
お好み焼きの夜からしばらくして私は大分駅にいた。
ソニック、初めて乗ったなぁ…。木製の内装と柔らかいソファのような座席。あんなおしゃれな電車があるなんて。
改札ではちーちゃんが出迎えてくれた。
ちーちゃんは講座の同級生。といってもあったのは1度きり。それなのになぜかずっと知り合いだったような懐かしい感じがする人。会うなりぎゅうっとされて言葉のいらない会話を目と目の奥で交わした。
今回はジモティのちーちゃんが私たちを案内してくれることになっていた。
別府の街はほんのり湯けむりに揺れて冬の真っただ中なのに暖かい感じ。
あちこちから立ち上る湯気の合間に初めて見た「噴霧注意!」の看板。
お団子を並べたようなピクトグラムに出会うたびに3人で大笑い。
まる、まる、まる...丸は3つ並んで大きなOKだって!そんなふうに言葉や文字での遊びが自然に始まった。
翌日は熊野摩崖仏を観るために長い石段をひたすら登った。
杖がほしー!って言いながら息を切らして登った先に大きな大仏さまがたたずんでいた。笑ってるように見える。よく来たね、そんなふうに。雨に濡れてしっとりとして。ほっとする顔。
それからちーちゃんのとっておきの場所に連れて行ってもらった。
山間の小さな里は観音様に守られた場所。ここで始めたいことがあるんだとちーちゃんが言う。静かなこの場所の空気に触れたくなって遠くから訪ねてくる人たちの気配を感じる。
集落を流れる小川でシャッターを切ると一瞬キラッと何かが光った。デジカメ画面で見てみると大きなオーブが写っていた。
「ほら、また丸だよ!」この場所がちーちゃんの背中を押している。きっときっと必要とされる場所になっていくよ。3人でその日のことを思った。
3日目。最後は別府で地獄をめぐる。
赤いお湯・青いお湯・ぶくぶく・ぽこぽこ…絵にかいたような地獄絵が広がっている。閻魔さまを思い浮かべながら地獄の住人になった気分で歩いていいると「どちらからお越しですか?」ワニがたくさんいる鬼山地獄の前で声をかけられた。
「えっと…あれ?どこから来たっけ?」ときーちゃんが苦笑い。月の半分を旅しながら仕事しているきーちゃんは一瞬頭がこんがらがったようだった。なんだか3人ともふわふわとしていた。
雨のせいかな?なんだか異次元にいるような気分になる。
灰色の泥の中からまぁるい気泡が浮き上がってはパチンと弾けている。じっと見つめていると音も色も遠くに消えていって体の感覚が薄れていく。
病気になったこと、そのせいで失ったもの、出来なかったこと、許せないこと、うまく行かないこと...本当は怖かったんだよ。生きることも死ぬことも。どっちもが怖くて怖くて仕方なかったんだよ。
私の中にある深い闇が浮き上がる。ひとつひとつが泡と一緒に弾けていく。
白か黒か。そうじゃない間の色のほうがずっと多いよね。白でも黒でもない灰色。それは白ばかりを追いかけている黒の世界よりずっと明るい色。雨と一緒に灰色が浸み込んでくる。旅で出会ったたくさんの〇を思う。
3日の間にずいぶん話し込んだなぁ。悩んでることも夢のことも。
修学旅行みたいに寝る間も惜しんでとにかくお互いよくしゃべった。
旅を終えて戻った世界は同じに見えて何かが変わった感覚がする。
なんだか不思議だったな。思いついたことをポンポンと投げかけあうだけで3人の言葉のやりとりがあやとりのように次々と新しい発想に変わっていく。暗くて重い話から明るい光が生まれていく感覚があった。ワープしたみたいな。
地獄とは大きく分かれた別の世界。
深層に旅してきた3人。
闇を光に変えていく私たちの訓練が始まった。
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