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旅友のはじまり

平均寿命が80歳なら40を過ぎた頃に人生は折り返し地点ということになる。私はその折り返し地点で人生の一大事を迎えた。人間ドックの受診中に病院送りになってそのまま入院という慌ただしさで自分の命があと数年ということを知らされることになってしまった。

手術に抗がん剤、放射線と3大セットの治療を終えるころには身体はボロボロで歩くのがやっとという有様。それなのにツルツルの尼僧のようになった頭の中身だけは幸福感で満たされていた。

治療はこれでお終いです、と言われると辛さから解放される喜びでいっぱいになる。けれど今度は「再発したらどうしよう」という不安が押し寄せてくる。「今しあわせ」だから余計に不安になる。そんな波に揺さぶられながら「人は何歳まで生きれば満足するんだろう?」とずっと考えていた。

ひと月もすると髪の毛が伸びはじめてきた。生まれたての赤ちゃんのような細い柔らかな髪。一度死に絶えた毛根の蘇生力に感心した。身体は、細胞は、どんな状況でも生き延びることだけを考えているらしい。未来へ向かってぐんぐん進んでいる。とりあえず今日、私は生きている。明日のことはわからないけど。今はまだ生きている。まぁそれでいいのかな。

ツルツル頭からクルクル・チリチリのベリーショートくらいになった頃、きーちゃんとお好み焼きを食べることになった。きーちゃんは私の先生で、心を扱う仕事をしていた。そして私と同じ病気で生き延びたサバイバーだった。きーちゃんという先輩がいてくれたおかげで私は病気になっても希望が持てたんだ。

久しぶりの再会。きーちゃんが食べてみたかったというお好み焼きを一緒に楽しみながらいっぱいおしゃべりをした。帰り際にきーちゃんがポロリと言った。「あのね、今度別府に行くの。一緒にどう?」

それがはじまり。




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