乃木坂旅2023夏 @明治神宮野球場DAY0

絶望の夜、希望の夜明け。


この章は短編集にしてみようと思います。

「渋滞」
 
静岡SAを出発してすぐに、あつしが携帯を見ながら言った。「この先渋滞してるっぽいっすわ。」新清水JCTまで約7キロの渋滞。23時手前の渋滞は精神的にも肉体的にもきつい。まさに静岡SAを出発した時が絶望の一秒前やったらしい。でも、「てことはあの曲は俺のために作られた曲か。」とかしょうもないことを考えるくらいの余裕は残ってた。その理由は、第3ブロックのセトリ。おれの好きな曲を多めに入れてもらってた。”絶望の一秒前”、”バンドエイド”、”Actually…”、”深読み” などなど。ありがとう後輩たち。
 乃木坂の曲に助けられながら渋滞の列をノロノロと進んでた時に、ふとあることに気が付いた。「この左側の車線規制してる赤いコーンどこまで続いてるんやろ。」「確かに。さっきからずっとあるっすね。」この時、新清水JCTまで残り5キロを切ってたけど、そういえばさっきから赤いコーンが等間隔でずっと並んでた。今思えば別にどうでもええ様なことやけど、「車線規制ってほんまにこんな手前からせなあかんのかな。」とか、「それにしてもこれ並べる労力えぐすぎるな。」とか、何となく思いついたことをぽつぽつと話しながら渋滞の中を進んだ。まあ深夜の渋滞トークってこんなもん。
 そんな話をしながら、渋滞に捕まって1時間弱。新清水JCTまで残り2キロを切った頃、左側の赤コーンで規制された車線の中に、パトカーと事故ったであろう車が見えた。「あ~、これが原因っすね。」「これでやっと渋滞から抜け出せる。」渋滞の原因がわかったら、ちょっとだけ疲れが取れて元気になった気がした。
 その後ちょっとしてから、赤いコーンを積んだトラックが左車線に止まってるのが見えた。「あー、こいつが謎の赤コーンのおおもとか!」渋滞と赤コーンの謎をつきとめて、車はスピードを上げ、走り出した。


「重大なこと」
「啓吾さん。俺、重大なことに気づいてもたんですけど言っていいすか。」第3ブロックのセトリも終盤に差し掛かった頃、急にあつしがそんなことを言い出した。「え、何。怖いんやけど。ええよ。」
~チケットとかグッズ忘れたんか、それとも何かの予約をするの忘れてたんか。まさか誰かこのタイミングで卒業発表したんちゃうやろな。~
とか短い時間の中であれこれ考えてたら、あつしが「”ありがち”と”ぽー”とばされてるっすわ。」って言った。ほんまや。渋滞とかで、ちゃんと曲聴けてなかったけど、そういえば”ありがちな恋愛”と”トキトキメキメキ”を聞いた覚えがない。一応説明しとくと、ぽーっていうのはトキトキメキメキのことで、イントロの音からついた俺らの中でのあだ名みたいなもん。なぜかApple Musicの不具合で、その2曲だけ流れずにとばされてたみたい。「これはさすがにあかん。」ってことで急遽第3ブロック終わった後に改めて付け加えることになったんやけど、渋滞でだいぶ時間も余ってたから、その2曲にプラスしてもう4曲追加することにした。名付けて「ワイルドカードセトリ」。選ばれたのは”命の冒涜”、”17分間”、”設定温度”、”世界で一番孤独なLover"の4曲。86曲選んだうえで、まだこんないい曲たちが残ってるって普通にすごい。
 結局”ぽー”はワイルドカードセトリの中でも最後やったから、イントロが来た時のあの興奮を100%味わえずに終わってもた。
 その後「とばされたってことは、啓吾さんが行けへんDAY3で”ぽー”来るっすわ。」とか言って後輩3人で茶化してきたけど、無事にDAY1で聴くことができた。その興奮の模様はまた後程。


「すぐ寝る2人。寝れない2人。」
 
深夜1時ごろ、無事に海老名SAに到着した。とりあえずひと段落。長旅もいったん休憩。もともとここで仮眠をとる予定やったから、深夜3時過ぎに出発することにして、各々寝る準備に入った。5人乗りの車やから、4人が寝るのに十分なスペースはなくて、最初はみんな寝れずにスマホいじったりしてた。8月下旬。夜の車の中は蒸し暑くて、なかなか寝付けずにいたら、あつしが車の外に出て行った。「確かに外の方が涼しいよな。」とか思いながらスマホをいじってたら、あつしからグループラインにメッセージが届いてた。「ええとこ見つけた。」どうやら外のベンチでタオルを枕にして寝ようとしてるらしい。俺もそうするかと思って車を出ようとしたときにふと車内を見てみたら、ふうたが助手席、りゅうのすけが広くなった後部座席を目一杯に使って、ぐっすり眠ってた。「ようこんな暑い中寝れるな。」ってちょっと羨ましさ交じりで2人に毒づいてから、おれも車を出た。
 外に出ても結局暑くて寝れへんかったから、SA内を探索することにした。SAの中は外の暑さが嘘みたいに涼しくて、めっちゃ気持ちよかった。ひと通りお土産屋さんとかをうろうろしてから、やっぱり寝たいと思って2階にあるフードコートの端の方の席に座って、机に突っ伏して寝ることにした。SAの中は涼しかったけど、机といすではしっかり寝付けんかった。「ちょっとお腹空いてきたな。」とか思ってた時に、ちょうどあつしからLINEがきた。「誰かラーメンたべいこ。」ええとこ見つけたって言ってたあつしも結局寝れてなかったみたい。ちょうどええわと思って「今フードコートおるで。」って送ってあつしと合流した。
 あつしがフードコートに来て、一緒に店を見て回った。あつしは迷わず家系ラーメンを見つけて買いに行ったけど、おれは迷ってた。
~めっちゃ家系食べたいな。でもこれから東京でうまいもん食うのにこんなとこでラーメン食うのってどうなんやろ。しかも1杯1000円超えるんか。寝てたら食わんかったって思えばいらん出費やな。~
って感じで色々葛藤した結果、安く済ませるために1階の成城石井でおにぎりと肉まんを買うことにした。2階のフードコートに戻ったらあつしがうまそうに家系ラーメンを頬張ってた。それを見た瞬間めっちゃ食べたくなったけど、あつしの前でぐだぐだ迷ってやっぱり買うのやめた手前「ひとくちちょーだい。」って言うのはかなりハードルが高かった。結局、食べたい気持ちと自分のプライドに折り合いをつけて、「スープちょっとちょうだい。」っていう情けないお願いをすることにした。恥ずかしかったけど、深夜のラーメンの誘惑には勝てんかった。「いいっすよ。」って何も言わずあつしはスープをくれたけど、絶対「こいつやっぱ食いたかったんやん。」って思ってたよな。そんなことを考えながら、あつしの飲みかけのスープをすすった。


「アパホテル板橋駅前」
 午前3時。2時間程度の仮眠休憩を終えて(結局一睡もできんかったけど)、今回の旅の拠点”アパホテル板橋駅前”に向けて出発することにした。第4ブロック1曲目は”何度目の青空か”。睡眠不足で朦朧とする頭に、さわやかなメロディーが吹き込んできた。この曲のこのポジションは満場一致で決まった。大正解。休憩をはさんで、目的地に向かって改めて出発する時にぴったりな曲調やと思った。もうちょっと外が明るかったらなおよかったけどね。
 朝に聞きたい曲を詰め込んだ、心地いい第4ブロックのセトリを聴きながら少し進むと、”東京都”と書かれた看板が目に入った。ついに東京まで来た。何とも言えない達成感と、東京という響きへのワクワクで、少し明るくなってきた空を眺めながら心が満たされるのを感じた。そんな気持ちを感じながら外を見てたのもつかの間、首都高に乗り、迷路のように入り組んだ地下道に入っていった。永遠に曲がり続ける地下道。その途中には”渋谷”や”新宿”と書かれた出口や合流の車線がいくつもあった。「これ作ったの誰やねん。天才過ぎるやろ。」運転しながらあつしが言った。確かに。これだけ訳も分からずぐるぐるし続けているのに、位置情報は板橋へと向かってる。東京の地下にはこんな迷路のような道や線路が入り乱れてるんかと思うと、恐ろしいような、誇らしいようなそんな気持ちになった。
 次に地上に出た時にはもう板橋区に入ってた。首都高を降りて、板橋の街並みを数分間走ったのちに、ついにアパホテル板橋駅前に到着した。予約をしたのは3か月も前。これだけ準備してきたDAY0が終わろうとしている。でも、本当のゴールは、”明治神宮野球場”。


「明治神宮野球場」
 
ホテルに宿泊用の荷物を預けて、ライブに必要な荷物を車に再度積み込む。DAY0セトリの残された数曲と共に、明治神宮野球場へと出発した。朝の東京。まだ走っている車はそれほど多くない。Google Mapを見ながら、徐々に神宮に近づいていくのを実感し、ワクワクが加速する。板橋から神宮に近づくにつれて、窓から見える景色も少しずつ都会の街並みへと変化していった。案内の表記が残り10分を切り、84曲目の”人は夢を二度見る”が終わる。85曲目。”三番目の風”。全員が3期生推しのおれらにとって、特別な曲。神宮がすぐそこまで近づいて、自分の鼓動が速くなっていくのを感じる。そして残り5分を切った頃、最後の曲、”夜明けまで強がらなくてもいい”が始まった。
 明治神宮野球場前の最後の信号。赤信号。この信号を右折したらついに敷地内に入る。朝日に照らされた神宮周辺の木々が瑞々しい輝きを放っている。全員が静かに湧き上がる興奮を堪能する中、信号が青に変わり、最後を締めくくる曲の落ちサビが聴こえてきた。

朝日が見えてきた
弱音はもう吐かない
今日こそは今日こそは自分らしく生きる

落ちサビとともに車が動き出す。
ゆっくりと敷地内に足を踏み入れながら最後のサビが始まる。

光はどこにある
僕を照らしてくれよ
不安とは不安とは
期待の裏返しか
希望はどこにある
生まれ変わる瞬間
太陽よ太陽よ
連れ出してくれるのか

そして、最後のフレーズと共に待ちに待った明治神宮野球場が視界に入ってきた。

すぐに夜明けが来る

まるで明治神宮野球場が祝福しているかのような完ぺきなタイミング。
鳥肌が全身を駆け巡った。
これから始まる神宮4daysに対する期待とワクワクが、胸の中で音を立てて弾けた。
                     DAY0編(完)

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