研究書評ー論文ー


2024年6月27日分


土屋政雄、馬ノ段梨乃、北條理恵子(2017)「ストレス症状低減と生産性向上のためのセルフケア ̶マインドフルネスとアクセプタンスに基づく教育̶」『労働安全衛生研究』10巻1号p19-p23
〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、マインドフルネスとアクセプタンスの特徴や、これらに関連した手法の科学的根拠及びプログラムの有用性を説明するための情報を解説している。私はもうすぐ期末発表があり、自分の研究の発表を行うためにも今一度自分の研究の一般化を行うべきであると考えた。そのため今回の論文では私の研究である「ピア・プレッシャー問題改善による生産性の向上」を一般化するために極限まで近い考え方である「メンタルヘルス不調の未然防止だけでなく、従業員のストレス状況の改善及び働きやすい職場の実現を通じて生産性の向上にもつながる」を挙げているこの論文を選択した。
〈内容〉
「メンタルヘルス不調の未然防止だけでなく、従業員のストレス状況の改善及び働きやすい職場の実現を通じて生産性の向上にもつながる。」この考え方は生産性向上の実現には労働者の心理的負担を高める要因であるストレス要因への介入が必要である。また、環境への介入効果をより強めるためには、労働者個人の心理的資源を向上させることが有用であることも明らかになっている。そのためメンタルヘルス不調予防に加えて生産性向上も視野に入れたセルフケアの普及が望まれる。一般的に、働く人を対象としたセルフケアの手法として「ストレス・マネジメント」があげられ、具体例としては食事や睡眠、運動面において規則正しい生活を行うことがあげられている。セルフケアの概念に生産性向上という視点が加わりつつある現代においては、従来の方法だけでは不足であり、ストレス低減と生産性向上を同時に狙えるような方法へのニーズが高いと考えられる.ストレス対処法は認知、行動療法に基づく内容であるが、実際に練習していくための具体的な記述は見られないため、セルフケアについて新しい根拠を確認しつつ情報を整理し、産業保健スタッフ党が参照できるようにまとめることが有能であると思われる。近年では認知、行動療法に対しても新しい観点が加わり続けており、生産性向上の観点から「マインドフルネス」や「アクセプタンス」といった概念が注目されるようになった。マインドフルネスとは今の瞬間の現実に常に気づきをむけ、その現実をあるがままにちかくし、それに対する思考や感情には捉われないでいる心の持ち方、存在の有様と説明される状態のことである。「今の瞬間に気づきを向ける状態」を具体的にすると人が思い悩んでいる時は大抵、時間軸上の過去か未来の思考に注意が向いているので、そのことに気づき、現在の自分が知覚している環境および思考や感情などの刺激そのままを受け取る状態にするということである。これにより、ストレスとなる自身の思考や感情がどんなものであっても、ある程度客観的に捉えてストレスから受ける悪影響を最小限に抑えられるようにする。マインドフルネスは特にストレスを感じていないものでも取り組みやすいので職場のメンタルヘルス不調の一次予防として活用しやすいと考えられている。アクセプタンスとは、その瞬間その瞬間での体験について意図的に開かれ、受け入れ可能であり、柔軟であり、判断しない姿勢を自発的に選択することと定義されている。人は心に浮かんできた思考や感情への対応によって、本来望んでいた行動が抑制されてしまうことが起きるため、現実をありのままに受け入れ逃げるのではなく目指す方向に向かって行動するアクセプタンスが有効である。アクセプタンスの具体例としては「アニメ声テクニック」があげられる。これは自分がネガティブな思考になった時にその思考についてあえて自分ではない人の声で愛生することで生じる感情を異なわせることができるというものである。アクセプタンスの実施により仕事の生産性が向上したかどうかについては、メタ分析ではまだ明らかになっていなかったが、個別の観察研究ではコンピューター作業におけるミス、新規コンピューター作業の習得、などの側面で心理的柔軟性の強さと生産性の良好さの関連がみられており、ある程度の効果が期待できる
〈総評〉
今回、選択理由として挙げた「今までやってきたことの一般化」について、今回の論文では主にマインドフルネスとアクセプタンスという方法でストレスを解消することで生産性を上げることができたという内容であったため、ストレスを軽減することによって生産性を上げることができるという私の概念は間違っていないということが一般化できたのではないかと感じた。また、今回の論文をよんで私が知りたいのはこのことなのだろうかと疑問を持ち、最終的に私の信念はストレスがたまらない職場関係作りに重きを置いているということがわかった。そのため次回の論文では職場関係作りに関する論文を調べていきたい。

2024年6月20日分

西田順一、大友智(2010)「小・中学校教員のメンタルヘルスに及ぼす運動・身体的活動の影響ー個人的特性及びストレス経験を考慮した検討ー」『教育心理学研究』第58号、p285-p297
〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、運動をすることによってストレスにどのような影響を与えるのかとおいうことは教職員を対象に調査したことが記載されている。私は前回の書評において、私自身が文系なこともあり、途中論文を読み解くことが難しく、詳しく知れているかがはっきりとわからない状況であった。そのため今回の論文ではストレスが人々にどのような身体的影響与えるのかに関する論文を見つけ出して研究したいと考えていたが、残念ながら論文を見つけることができなかった。そのため一般化するのも悪くないと思ったが、今回の論文を見つけ、逆にストレスに対して効果的な対処法はどのようなものなのかを調査したいと感じた。
〈内容〉
教員の職務は仕事に関係する人が多く、種類も多いことや急を要すること、役割分担が明確でなく終わりがないことや学校や市町村特有の仕方があり、これらは小中学校教員に対して多忙感を与えている。実際に小中学校教員の55%が「大変いそがしい」と職務に対して多忙感を感じている。このような状況下で教員は職務のストレスを多く感じており、ストレスを与えられやすい環境に囲まれてかつ、社会の期待や要請が高い仕事であるためメンタルヘルスが悪化しやすい環境であるといえる。事実、教員の求職者が増加傾向にあり、病気求職者が1年間で7655人、そのうち4675人が精神性疾患であることが報告されている。復生の推移は過去10年連続で増加傾向にある。藤本、鎌倉(2000)によると日本版GHQの下位尺度「鬱傾向」の判定結果は軽度の症状を示した教員が約1悪、中度の以上の症状を示した教員は6割であり、精神的健康が悪いことを明らかとした。このような報告から教育場面において学校教員は多くのストレッサーを受ける流教育活動に従事し、それらの影響から精神性疾患などの心の疲弊が急速に進み、結果的に教育職から離脱していくといった状況絵あることが窺える。そんなストレスだが、ストレスを発散する方法の一つとして運動が挙げられており、運動はストレスへの対照方略として支持することが可能であり、ストレスマネジメント技法の1つとして位置付けられることが示唆されている。運動による心理的健康への影響は多くの選考文献が出ており、中には運動が不安との関連が見られないものもあったがほとんどが身体的活動量とメンタルヘルスには両いつ反応関係があることが示されており、運動や身体活動の実施とメンタルヘルスの改善、向上効果との関連は検証されている。しかし、この先行研究では大学生が対象にされることが多く、それはすべての人々に当てはまるとは限らないため、この文献では教職員を対象とした調査を行った。測定の結果メンタルヘルスのポジティブな側面とネガティブな側面の両方に優位な差異が性差によって認められ、女性に比べ男性教員はポジティブなメンタルヘルスの側面が大きく、女性は男性職員に比べてネガティブな側面絵ある割合が大きかった。また、運動によるストレスの変化は女性よりも男性の方が大きかった。
〈総評〉
今回、選択理由として挙げた「逆にストレスに対して効果的な対処法はどのようなものなのかを調査すること」について、今回の論文では運動がストレスの対処法の例の一つとして挙げられ、教職員に対しても効果があることが実証されていた。次の論文ではストレスが人々にどのような身体的影響与えるのかに関する論文か、今までやってきたことを一般化できる論文か、他のストレスの対処法に関する論文を見つけ出して研究したい。

2024年6月13日分

中西昭人、高階利徳(2022)「保険薬剤師の職務ストレスが心理・行動に与える影響 ~心理的資本と職業的自尊心の調整効果に着目して~」『商大論集』73(3) 89-106
〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、職務ストレスが人間の心理、行動に対してどのような影響を与えるのかを保険薬剤師を例に挙げて記載されている。私は前回の書評において、ストレスが人々にどのような身体的影響与えるのかを知りたかったのだが、その論文には精神的なものが多く、身体的な影響については触れられていなかった。そのため今回の論文では前回に引き続き職業におけるストレスは人々にどのような身体的影響を与えるのかを知ることが目的である。
〈内容〉
薬剤師が認識する職務ストレスが心理的・行動的アウトカムに及ぼす影響、および、それらの間の関係を調整する心理的資本・職業的自尊心の交互作用効果を統計的に実証する。薬剤師は従事する現場が異なれば薬剤師が直面する職務状況は大きく異なり、それぞれが認識する職務ストレスに大きな相違があるものと考えられる。保険薬剤師は、制度改定をはじめとする環境変化に柔軟に対応し、職務遂行のあり方を変化させていくことが求められ、この環境変化は、従事する保険薬剤師に強い職務ストレスを与えると考えられる。ストレスを感じる項目は、仕事の責任や調剤過誤、知識に不安を感じるなど「仕事の質」に関するものが多く、次いで「医者との関係」に関するものと指摘する。これらの結果は、保険薬剤師が多くの不安を抱きながら業務を遂行しているということがわかり、エビデンスに基づいた組織的対処が必要となる。薬剤師は法律や規制によって職務行動を強く規定・制約されており、職業に関連する制度の大幅な改定は、肉体的な心労や心理的負荷を認識するのと同時に、職場における仕事内容の大幅な修正を要求することとなる。この論文において質問票調査が行われており、この調査で心理的、身体的な影響について調べている。身体的な影響に関しては疾病就業と呼ばれる「出勤しているものの、疾病などの健康問題により労働能力が低下している状態」を調査内容として加えられ、結果として行動的アウトカムにおおむね負の影響があることが判明した。
〈総評〉
今回、選択理由として挙げた「職業におけるストレスは人々にどのような身体的影響を与えるのかを知ること」について、今回の論文に関してある程度負の影響が出てくることが判明した。しかし私自身が文系なこともあり、途中論文を読み解くことが難しく、詳しく知れているかがはっきりとわからない状況である。そのため、次の論文では引き続きストレスが人々にどのような身体的影響与えるのかに関する論文を見つけ出して研究したい。

2024年6月6日分

荻野佳代子、瀧ヶ崎隆司、稲木康一郎(2004)「対人援助職における感情労働がバーンアウトおよびストレスに与える影響」『心理学研究』p.371~377
〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、対人援助職特有の職業ストレス反応であるバーンアウトについて触れている。私は過去の書評において、ピア・プレッシャーが与える影響や、生産性についてのことをまとめてきたが、プレッシャーによるストレスというものは精神だけでなく身体にも影響が出てくるのである。そのため今回は職業におけるストレスは人々にどのような身体的影響を与えるのかを知ることが目的である。
〈内容〉
まずバーンアウトというのは先ほどにも記載した通り、看護職や教師など、対人援助職特有の職業性ストレスの反応として研究がされているが、これが具体的にどのような状態であるのかというと従事者がクライエントからの感情面の要求に応えようと努力し続けた結果、その要求を適切に管理し、応えることができなくなった状態のことである。このバーンアウトは実証研究において職務が要求する感情の側面を直接測定したものがほとんどなく、あっても接するのが難しい患者に対応した回数といった間接的な変数との関連が扱われたもののみであったので、これまでバーンアウトの概念は一般的なストレス反応やうつなど類似の概念との区別、すなわちバーンアウト概念の独立性に問題が残されてきた。バーンアウトは情緒的消耗感、脱人格化、個人的達成感の3つの特徴的な概念からなるという点で他と区別しうると主張しているが、最近の研究では対人援助職以外の職業にも適用できるよう概念を拡大している。そのため他の概念と異なるバーンアウトの独自の性質を明確にする必要がある。一方で職務に伴って要求される感情の性質を明らかにするものとして注目されているのが感情労働の概念である。感情労働とは「仕事の一部として、組織的に望ましい感情になるよう自らを調節する心理的過程」と定義され、飛行機の客室乗務員の訓練過程を分析する中で提唱した概念であり、彼らが不愉快な乗客に応対するときでも笑顔を絶やさず優しい態度で接しなくてはならないのは、職業によってふさわしい感情あり、それに従うよう求められているためであることを指摘した。感情労働と心理的健康との関連について、自分が感じていない感情を表出することが心理的健康を阻害することを参与観察によって明らかにした。看護師が患者との問に罪悪感,おそれ,怒りなど様々な感情を経験し,その感情にうまく対処しようとする,すなわち看護の仕事が感情労働にほかならないことを面接調査によって明らかにした。特に看護師が接する患者は必ず何らかの問題を抱えているために,客室乗務員より多く否定的な感情に直面する可能性がある。さらに看護師は,感情ルールに従った感情を表面的に示すだけでなく,望ましい感情を心から感じるよう,自分の感じ方そのものを変える深層演技を行う。そして深層演技を続けるうちに,自分の本当の感情を感じないよう無意識の防衛を行ったり,無意識に患者を遠ざけるようになる。このように感情労働に関する研究から,患者との関係における感情がアイデンティティを脅かす事態を引き起こすことが示唆された.それは感情労働がバーンアウトに至る過程であり,さらに対人援助職特有のストレスの性質と推測される.
〈総評〉
今回、選択理由として挙げた「職業におけるストレスは人々にどのような身体的影響を与えるのかを知ること」について、今回の論文に関しては精神的なもので身体的なものに関しては記載されていなかった。そのため、次の論文ではストレスが人々にどのような身体的影響与えるのかに関する論文を見つけ出して研究したい。

2024年5月30日分

前田泰伸(2018)「我が国における労働生産性をめぐる現状と課題 ― バブル崩壊後の設備投資と我が国の長時間労働に着目して ―」『参議院』第401号

今回取り上げた文献は、労働生産性についてと日本における生産性の現状と課題について述べられている。前回の文献で「残業が生産性に対してどのような影響があるのかを知ること」を目標に書評を書いたが、その際に生産性の増減が会社にどれくらいの影響を与えるのかを詳しく知りたいと思った。そのため、まずは生産性は何かと今の状況がどのようになっているのかを把握することが必要であると感じた。今回は生産性とはどのような定義がされているのか、どのような課題が今の時点で出ているのかを知ることが今回の目標である。
〈内容〉
まず労働生産性とは、定義としては、労働者がどれだけ効率的に成果を生み出したかという効率性を測る指標であり、労働投入量と産出量の関係について、単位労働力当たりの産出量を数値化したものである。これを数式で表すと労働生産性=産出量/労働投入量となる。労働投入量については、労働者数に着目し、労働者1人当たりで見た労働生産性のことを示す場合や、労働時間を考慮し、労働者数に労働時間をかけることで、単位時間あたりの労働生産性を示す場合がある。また、産出量については、生産物の個数や数量といった物理的な単位を使う場合や、新しく生み出された金額ベースの付加価値額を単位にする場合がある。その際、物理的な単位の方を「仏的生産性」、付加価値額の方を「付加価値生産性」と呼び、労働生産性の国際比較などのため、国全体の労働生産性を議論する場合には、付加価値生産性を用いることが多い。この論文では付加価値生産性の意味の方が労働生産性として用いられている。労働生産性とは上記計算式によって結果として算出される数値であり、そのため、分母である労働投入量が変わらず産出量が増加しているか、産出量は変わらなくても労働投入量が減少している場合には、労働生産性が向上していることになる。労働生産性水準において2016年における労働者1人の就業1時間あたりの労働生産性の水準を見ると、日本は46.9USドルとOECD諸国の平均を下回っており、順位は35カ国中20位、主要先進国の中では最下位となっている。これは中長期的に見ても低迷が続いており、その要因や背景に関しては様々な議論がなされている。労働生産性と労働時間の部分では年間総労働時間と時間あたりの労働生産性の散布図を見ると、2016年の年間総労働時間は欧州諸国に比べると日本は労働時間が長く、日本も効率よく働き、GDPを減少させることなく労働時間を減少させることができれば労働生産性が向上する。
〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「生産性とはどのような定義がされているのか、どのような課題が今の時点で出ているのかを知ること」について、生産性の定義と、日本では労働時間が長いが故に他の先進諸国と比べると生産性が低いことがわかった。そのため残業を行うことは生産性も下げることとなることがわかったことが今回の大きな収穫である。

2024年5月23日分


黒田洋子(2017)「長時間労働と健康、労働生産性との関係」『日本労働研究雑誌』第59号18-28
〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、長時間労働に関する論文で長時間労働の是正をめぐっての対決で今までは労使の利害調整に重きを置かれていたが、長時間労働の議論において重要なことは定量的なエビデンスに基づいた議論であり、客観的な根拠が示されてこなかった点について、可能な限り学術研究で蓄積されてきた定量的なエビデンスを提供することを目的としたものである。前回までの文献で自分がこれまで体験したことがない、または予測できていないような状況を押し付けられた時のプレッシャーが生産面やパフォーマンス面においてどのような影響を及ぼすのかについて調査すると記載してきたが、どう探しても出てこないため、今回は中間発表の際に例で挙げた残業が生産性に対してどのような影響があるのかを知ることが今回の目的である。
〈内容〉
長時間労働の是正に巡ってこれまでも意見が対立しており、長時間労働を是正するためにあまりに法規制を強化すると日本企業の対外競争力を弱めてしまい、逆に柔軟な働き方を許容してしまうと気かとして長時間労働が助長され、ワークライフバランスが損なわれるだけでなく、健康を害する可能性が高まってしまう。これまでの長時間労働の是正をめぐっての対決で今までは労使の利害調整に重きを置かれていたが、その議論において重要なことは定量的なエビデンスに基づいた議論が欠如している。そのためこの文献では重要性が認識されながらも、労働時間政策を議論する過程でこれまで必ずしも客観的な根拠が示されてこなかった点について、可能な限り学術研究で蓄積されてきた定量的なエビデンスを提供することを目的としている。先行研究において脳・心臓疾患については、長時間労働が発症リスクを増加させることを指摘する研究が蓄積されてきており、両者の因果関係はある程度のコンセンサスが形成されつつあるといえる。また、働き方と精神疾患との関係も国内外で関心が高まってきており、日本も、1996年に189万人だった精神疾患の患者数は、2005年の265万人、2014年には318万人と、メンタルヘルスに問題を抱える人が増加傾向にある。2014年の318万人のうち、生産年齢に相当する15~65歳の患者数は208万人と、総患者数の65%を占めており、メンタル不調者の増加は医療費の増大といった社会的コストだけでなく、現役世代の生産性低下というルートを通じて労働市場にも少なからず影響を及ぼしている可能性がある。平均時間と労災の請求件数を職種ごとにプロットしたデータでは過重労働の傾向が強い職種ほど労災補償の対象となる事案が多くなる傾向があることがわかった。長時間労働とメンタルヘルスとの関係については、長時間労働と脳・心臓疾患との関係を検証した研究の蓄積に比べると、これまでは明確な因果関係を示す研究が少なかったが、近年10年ほどで、因果関係があることを示唆する国内外の研究が少しずつ蓄積されつつある。過重労働が心身の健康を損ねる可能性をみたが、長時間労働の是正は生産性を低下させ、日本経済にマイナスとなることを懸念する声も聞かれる。こうした意見を主張する論者からは、むしろ労働時間は厳格に管理せず、働いた時間ではなく成果で評価される働き方の導入が求められている。ここで今一度考えるべきは、高度プロフェッショナル制度を提案する側の前提となっている、「創造的な仕事をする高度な専門能力を有する人が、時間ではなく成果で評価される働き方」をすることで、実際に「個々の意欲や能力を十分に発揮でき、高い生産性が実現、創造的で革新的な新たな価値の創造につながる」かどうかは、ほとんど定量的なエビデンスがない中で議論されてきているという点である。報酬体系と生産性との関係については、時間ではなく成果で評価する、いわゆる出来高制が労働者のモチベーションを高め、生産性を上げる効果を持つことは、これまで主に生産工程の現場で確認されてきている。しかし心理学の先行研究によれば、成功報酬といった外的な動機付けが機能するのは、過去のやり方を踏襲すればこれまでと同じように生産することが可能なタスクにおいてのみであり、創造性や革新性を要求されるような仕事ではむしろうまく機能しないと考えられてきた。イノベーションを定量的に測定することは難しいことから、これまではこうした考察は実証分析に馴染みにくかったが、昨今では、報酬体系や労働法制とイノベーションを関連付けた研究も少しずつではあるが蓄積され始めてきた。研究からは、成果だけで評価するという体制は、むしろ創造的な仕事をしている人ほどリスクを取るインセンティブを弱めるという意味で逆効果であり、トライアンドエラーのために働いた分も評価する体系をある程度確保しておく必要があることを示唆している。労働時間と生産性との関係については長時間労働が疲労等を増すことを通じて、限界生産性を低下させることを示す定量研究も報告されるようになってきており、研究は主として生産性が相対的に計測しやすい製造業を中心とした研究が多く、ホワイトカラーの仕事の生産性と労働時間との関係はこれからの研究蓄積が必要な領域である。しかし、長時間労働が疲労の蓄積を通じて限界生産性を低下させるとするならば、上記の製造業を対象とした結果は、それ以外の業種・職種にもある程度当てはまると考えられる。次は疲労を回復させる休息の確保がどの程度生産性に影響を与えるかについてである。業務量が多く働く時間が長くなると、どうしても別の時間を削減しなくてはならなくなるが、その削減対象の最たるものが睡眠時間である。1970年代以降、フルタイムで働く日本人の平日1日当たり労働時間は増加傾向にあるが、その影響は主として睡眠時間にしわ寄せされている。睡眠時間の低下が生産性を顕著に低下させることは多くの文献が示してきており、過重労働は睡眠時間の減少につながる結果、仕事中のミスが増え、ぼんやりが増えることにもつながる。なお、過重労働はメンタルヘルスを毀損する可能性を高めることは企業から収集した従業員のメンタルヘルスの状況と、財務データをリンクさせたデータを用いた検証からは、業種の違いや経営者の能力といった企業間の個体差を調整したうえでも、メンタル不調による休職・退職者比率が高い企業は利益率が低くなる傾向にあることも明らかになってきている。
〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「残業が生産性に対してどのような影響があるのかを知ること」について、長時間労働は人間に身体的にも精神的にも大きなネガティブな影響を与え、それによって生産性にも大きく影響があることが大きな収穫となった。今回の文献で長時間労働が生産性に影響を与えることがわかったため、次の文献では生産性の増減が会社にどれくらいの影響を与えるのかを詳しく知りたい。

2024年5月16日分

矢ヶ崎将之(2021)「友人からのプレッシャーはどのように教育投資に影響を与えるのか?」『日本労働研究雑誌』
〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、クラスメイトの目を気にするが故に授業中に質問することを諦めてしまったり、行動することを諦めてしまったりするというのは本当にクラスメイトに行動を観察されていることによる社会的承認欲求がこの行動に影響しているのかという検証を行ったものである。前回までの書評では予測できていないような状況を押し付けられた時のプレッシャーが生産面やパフォーマンス面においてどのような影響を及ぼすのかを調査すると記載していたが、文献が調べても出てこなかったため、一回だけ調べていたピア・プレッシャーが子供に対してどのような影響を与えるかという文献をより詳しく掘り下げるために今回の文献ではクラスメイトによる観察が子供の社会的欲求に対してどのような影響を与えるのかを知ることが今回の目標である。
〈内容〉
中学や高校でクラスメイトからの視線を気にするがあまり、授業中に発言することを避けるという経験をしたことがある人は少なからず存在する。このことは生徒が与えられた教育機会を最大限に活用し、生涯賃金を最大化するように行動するという伝統的な教育経済学のモデルに矛盾している。なぜならモデルに従った行動をするならばわからないことをわからないまま放置するということは教育機会を最大限に活用できていないからだ。この原因は生徒のクラスメイトからの人気を気にすることによるモチベーションが関係している。社会学では友人に嫌われたくないという社会的承認欲求が生涯賃金を最大化する経済学的モチベーションに負けず劣らず重要な行動の規定要因であることが考えられるからである。この記事ではこの現象の原因が本当にクラスメイトからの評価を気にしているからであれば、クラスメイトに行動が観察されている状況において生徒は生涯賃金を最大化する行動から乖離する行動が観察されるはずだと仮定し、調査を行った。調査方法は高校2年生の生徒を対象に対象となったクラスに生徒が講座の受講を希望したかどうかを同じ教室にいるクラスメイトに公開するという公開条件が書かれたものと生徒の受講情報は同じ教室にいるクラスメイトを含む誰にも知らされないという非公開条件が書かれたものをランダムに配布し、受講するかどうかをそれぞれ確認した。仮に生徒が受講に伴うクラスメイトからの印象を気にしている場合公開条件と非公開条件では講座の受講率に何らかの差が生じると予測されるからである。また、クラスメイトに観察されているという場合だけでなく、「誰に」観察されているかが重要なのであれば、教育投資を促すクラス編成方法に重要な示唆を提供しうるからである。またクラスはnon-honors classとhonors classの2つの異なる学力レベルのクラスで行う。結果としてはnon-honors classとhonors classにおける非公開条件のもとでの受講率はそれぞれ72%と92%であった。また、公開される場合ではnon-honors classの受講率は61%と、非公開条件よりも約11%低く、逆にhonors classの受講率は93%と非公開条件と比較して統計的に有意な差は観察されなかった。また、honors classを一週間のうちに2コマ受講しているような生徒の集団に着目し、同じ条件で実験を行った。するとnon-honors classとhonors classでの非公開条件での受講率はそれぞれ79%と72%であった。さらに、公開条件のもとでは非公開条件と比べて、non-honors classでは54%と受講率が大幅に減ったが、honors classでは97%と受講率が大幅に増えた。これはnon-honors classでは勉強に積極的になることが周囲にネガティブな印象を与えるため受講を回避するが、honors classでは勉強に積極的になることがポジティブな印象を与えるため受講に積極的になったと推測される。
〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「クラスメイトによる観察が子供の社会的欲求に対してどのような影響を与えるのかを知ること」について、自分の行動が周りにどのように見られるのかがある程度理解している子は他のクラスメイトの視線に影響されることが確認できたことが大きな収穫となったと考える。クラスメイトの視線ということは公的な拘束力はないので、「公的な拘束力はないが、個人の行動に影響を与える」という点においてピア・プレッシャーと同じであると言えるだろう。したがって、今回の文献では前の文献を詳しく掘り下げられたといえる。次の文献では今回出来なかった予測できていないような状況を押し付けられた時のプレッシャーが生産面やパフォーマンス面においてどのような影響を及ぼすのかを調査したい。

2024年5月9日分


岩田真一(2021)「心理的プレッシャーがパフォーマンスに及ぼす影響ーさっかーPK戦のキック成功率の分析を通してー」『東京国際大学論叢』第6号p23~p32

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、サッカーの試合でのPK戦のなかでいくつかの条件で行った際の成功・失敗率から心理的プレッシャーがパフォーマンスにどのような影響を与えるのかという実験をまとめたものである。前回までの文献ではピア・プレッシャーがどのような場所で発生しているのかや、ピア・プレッシャーが人々にどのような心境を与えるのかという面で調べてきたが、今回はプレッシャーによって生産面やパフォーマンス面においてどのような影響があるのかを知ることが今回の文献の主な選択理由である。
〈内容〉
サッカーに限らずトーナメント方式で行われる競技大会は勝敗を決めていかなければいけないため、通常の状態で決着がつかない場合は、他の何かしらの方法で決着をつけなければいけない。サッカーの場合はそれがPK戦というやり方になる。そのためPK戦とは勝てば官軍負ければ賊軍といったように、チームのその先を決めるとても重要な位置付けのものなのである。PK戦は短期決戦であり1人の一つのミスがチームに大きな負の影響をもたらしてしまう。したがってPKに出場する選手には相当な心理的プレッシャーがかかることは珍しいことではない。特に後半戦となってくると自分の蹴りによって勝ちの方向に向くのか負けの方向に向くのかが前半戦の選手よりも明らかになってくるため、その心理的プレッシャーの振れ幅は前半戦の選手よりも大きなものとなってくるだろう。そこでこの文献では、最も心理的プレッシャーが大きいであろうW杯と比較対象として全日本サッカー選手権大会、全国高等学校サッカー選手権大会の3つの大会でキックの成功率を比較し、心理的プレッシャーがパフォーマンスに及ぼす影響について検討することを目的として分析を行った。分析では3つの大会の比較の他に、「PK戦におけるキック全体の成功率」と「成功すれば勝利、もしくは失敗すれば敗退という場面でのキックの成功率」を比較対象とした。まずクック全体の成功率において全ての大会で失敗よりも成功率の方が高かったが、W杯での成功率よりも全日本大会や高校選手権の成功率の方が高いという結果になった。また、成功すれば勝利という場面では、全日本大会以外が全体の成功率よりも高くなり、その割合を3大会で比較するとW杯の成功率が一番高く、9割を越える結果となった。失敗すれば敗退という場面ではW杯のみが全体のキック成功率よりも低い結果となり、3つ比較した時も唯一50%を切る結果となった。この調査分析の結果から、W杯という大きな心理的プレッシャーがかかる大会では他の大会と比べると成功率が低く、また、その場面状況が成功率に大きく影響するということがわかった。
〈総評〉
 今回、文献の選択理由として挙げた「プレッシャーによって生産面やパフォーマンス面においてどのような影響があるのかを知ること」について、調査分析の結果から、W杯という大きな心理的プレッシャーがかかる大会では他の大会と比べると成功率が低く、また、その場面状況が成功率に大きく影響するということがわかったため、このことから過度にプレッシャーがかかる場面ではパフォーマンスに大きく影響し、その場面状況も大きく影響があることが大きな収穫となった。このことから私が提示している「過度なプレッシャーは生産面やパフォーマンス面において負の影響をもたらす。」という仮説がより実証されてきたように感じる。今回は今まで自分がやってきたことに関する場面のプレッシャーについて調査を行ったが、次の文献では自分がこれまで体験したことがない、または予測できていないような状況を押し付けられた時のプレッシャーが生産面やパフォーマンス面においてどのような影響を及ぼすのかを調査していきたい。

2024年5月2日分

西本由美(2008)「学級におけるピア・プレッシャーの概念とその実態に関する研究(1)―学級におけるピア・プレッシャーの概念を中心としてー」『教心第50回総会』p43

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、学校における児童生徒の人間関係においての「集団における教育」でのピア・プレッシャーを定義するとともに、学級におけるその実態について述べられている。前回までの書評では企業という社会に出た後におけるピア・プレッシャーの影響とその影響におけるデメリットに関して論文を集めてきたが、今回の文献では、その意識の根幹に関わる学校教育でのピア・プレッシャーの定義と社会におけるピア・プレッシャーの定義の違いを比較するとともに、ピア・プレッシャーが子供にどのような影響を与えるのかについての知見を得ることが今回の目標である。
〈内容〉
学校路いうシステムでは、子供たちにとって学力や社会規範、社会性の育成や促進を目指しているものであるが、現在の学校では低学力であったり、モラルの低下、いじめや学級崩壊であったりなど、それぞれの目標が達成していないという指摘が多くなってきている。その中でも、学校における児童生徒の人間関係というものは現在の学校教育形態の根幹に関わる問題であるため、その実態と対応を考えることは急を要するものであるといえる。特に仲間関係に関しては社会性の育成といった観点から生徒にとってなくてはならないものであり、肯定的、積極的に取り上げられているが、それと同時に仲間からの承認や受け入れを失うことを恐れるがために自己主張を行わず、自己が本来求めているものを見誤ったり、自己を失ってしまったりしてしまう「最大の脅威の対象」にもなっている。ピア・プレッシャーの和訳として「同調圧力」や「集団圧力」などが挙げられるが、これらの概念はともに集団の中で同一の行動や判断、規範島に収束する方向にはたらく力のことであり、その点ではピア・プレッシャーに極めて類似した概念であると考えられる。しかながら、これらの概念のばあい、それが生じる集団の特質において特に詳細な条件をつけられているわけではない。しかし学級におけるピア・プレッシャーにおいてはその集団を形成するのは同年齢、もしくは近似のする年齢の集団であることや、主として評価される立場として存在する集団であることなどの特徴を持っており、これらの特徴はそのプレッシャーの有り様にも当然影響を与えるものと思われる。その一方でピア・プレッシャーには自立、独立の意図や欲求を持ちながら、自己の所属する同世代の仲間からの不承認、拒否、避難、その結果としての孤立などを恐れて、自己の意図と反することとなってもこの仲間集団への帰属性を最優先させようとする圧力が生まれる。この圧力によって仲間と同じでなければならないという意識が強く芽生えてしまい、結果として仲間同士が切磋琢磨して成長していく場面もあれば、異端を排除しようとする場面も出てきてしまう。
〈総評〉
 今回、文献の選択理由として挙げた「その意識の根幹に関わる学校教育でのピア・プレッシャーの定義と社会におけるピア・プレッシャーの定義の違いを比較するとともに、ピア・プレッシャーが子供にどのような影響を与えるのかについての知見を得ること」について、社会においてのピア・プレッシャーが「仲間からの同調圧力」という定義であったため、学級におけるピア・プレッシャーの定義と似ているということが大きな収穫となったと考える。また、ピア・プレッシャーの影響においても社会人と児童で感じ方が似ているため、人間の受けるピア・プレッシャーの影響は同じようなものであると考えていいと予測できる。
今後は、少し方向を変えて、プレッシャーを与えられた時の人間への影響、特にネガティブ面における影響について調べていきたい。

2024年4月25日分


渡辺真弓、山内慶太(2017)「職場リーダーの長時間労働が部下のワーク・ライフ・バランス満足度に及ぼす影響―病院に勤務する看護職における検討―」『日本医療・病院管理学会誌』第2巻54号

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、職場リーダーの時間労働が部下のワーク・ライフ・バランスに及ぼす影響に関してその労働が自発的長時間労働であるのか、それとも非長時間労働であるのかとその中でも幾つかの原因に分けてまとめられている。初回の書評において「「職場の同僚間の圧力」について」を学び、「上司からの圧力の影響も含めた研究結果」を探す予定であったが、前回違う論文についてまとめたので、会社の同僚の圧力ではなく、上司からの圧力というものは一社員にどのような影響を与えるのかを知るということが今回の文献の主な選択理由である。
〈内容〉
日本は国内のみならず国際的にも長時間労働およびその結果としての過労死やうつ病王の発生で知られており、長時間労働に対する関心が高い。実証実験としては主に長時間労働が労働者に及ぼす影響を検証する研究と長時間労働の発生要因を検証する研究に大別できるが、近年では病院によって長労働時間は人の体にどのような影響を及ぼすのかという研究が増加しているが、長時間労働の発生要因も重要な研究対象であり、両者の融合が必要と考えられるが、このような実証研究では存在しない。また、労働時間の量的側面において、長時間労働と健康との関連を検証した県有では、月80時間を超えるような残業を行うと健康に優位な悪影響があると確認されることが多いが、それ以下の残業時間数であれば明確な有意差が出ないという結果が多い。しかし、労働者の状態を評価する指標としては直接的な疾病に関連する健康ではなく、生産性等の評価も非常に重要である。今回はそういった労働の原因である「なぜ長時間労働が発生しているのか」という質的側面から掘り下げる。労働時間の質的側面の原因では非自発的と自発的に分類され、長時間労働において「仕事が多すぎる」という非自発的なものだけでなく、金銭的理由や仕事の楽しみなどの自発的な要因も多い。自発的長時間労働者は非自発的長時間労働者に比べて疲労感が少なく、満足度も高かったが、「職場」という場の視点を導入した場合、ある労働者の深淵や行動が他のメンバーに影響を与える可能性が高く、もしも上司が自発的長時間労働を行うと、周囲の人々は上司の評価を気にして上司の長時間労働に付き合わなければいけなくなるというのが、非自発的労働が発生する原因となる。労働時間において、自発的長時間労働の発生要因を「内発的/外発的」、非自発的長時間労働の発生を「同調圧力/仕事量」に分別することができる。この4つの要因に関して調査を行ったところ、結果として、同調圧力に関して、ワーク・ライフ・バランス満足度に対して同調圧力による非自発的長時間労働と仕事量による非自発的長時間労働は優位な負の影響を及ぼしていた。
〈総評〉
 今回、選択理由として挙げた「会社の同僚の圧力ではなく、上司からの圧力というものは一社員にどのような影響を与えるのかを知るということ」について、同調圧力は周囲の人々にとってワーク・ライフ・バランス満足度に対して同調圧力による非自発的長時間労働と仕事量による非自発的長時間労働は優位な負の影響を及ぼしていたことが知れたことが大きな収穫である。今までは企業に関する同調圧力、つまり大人が受ける同調圧力の影響に関して研究してきたが、次回では子供が受ける同調圧力の影響に関して研究を行っていきたい。

2024年4月18日分

永井隆雄(2011)「職場におけるメンタルヘルス問題に関する経営労務的視角」『人材育成研究』第6巻1号p81-89
〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、過労死・過労自殺の認定をきっかけにメンタルヘルスにおける研究の現状と、その研究の問題点について触れている。前回の書評において「基礎知識としてピア・プレッシャーに対してどのような議論が出されているのかを知る」ということを学んだ際に、残業や過労の労働に耐えるといった例が出ていたため、今回は残業や過労の労働に関するピアプレッシャーなどのメンタルヘルス問題点の研究における現状の問題について知ることが今回の文献の主な選択理由である。
〈内容〉
過労死・過労自殺に対する関心が高まっており、職場におけるメンタルヘルス問題を検討しようとする動向が広がっているが、現代の日本企業の正規労働者は過重労働を試みることなく暴走してしまうという懸念が生じてきている。さらに処遇に格差をつける成果主義が組織にとって効果的な施策と考えられるようになった。日本の自殺率は先進国でも際立って高いと指摘されており、自殺はその極端な社会行動だが、その前兆として職場におけるいじめや嫌がらせ、上司や先輩社員の問題行動や逸脱行動がある。経営において効率性や効果性の高い組織を目指すが、持続性や堅実性、健全性といった要素も考えなければ置けない。若者をかき集めて使い捨てにするだけでは社会は成り立たなくなる。企業時代も人材の確保が難しくなるだろう。そのためこの理不尽な働かせ方を改める社会規制が必要となり、そうした価値観を織り込んだ人事労務管理を行うことが必要となる。
最近の研究動向において、メンタルヘルスに関しての研究はそう研究蓄積があるわけではない。研究動向の例としては社会学の立場からのワーカーホリックの問題研究や職場の後輩や病理に関する研究、ピアプレッシャーによる労働強化の研究が挙げられる。
現状の研究動向において4つ問題点があり、1つめは精神病理に関する基礎理解が不足するものが多いことである。研究において精神病理に関しての理解が単純で短絡的であって十分なものでないことが多く、そこにある多様性と広がりを理解する態度は必要である。2つ目は過労死や過労自殺の根絶において、メンタルヘルス問題を中心に組織運営ができる余裕が企業にないことである。実現可能な処方箋が段階的に示されないと、働きやすい人間的な職場作りを実現することは難しいため、現実的な折り合いをつけるためにもっと現実的でなくてはならない。3つ目は日本人の働き過ぎに関しての統計において労働時間が明らかになっていないことである。過重労働を明らかにするには特に長時間労働に従事している人の実態というふうに対象を絞り込まないと現実が見えてこない。そのため割合や平均でなく、最も遅い帰宅時間などの様々な観点で捉えるべきである。4つ目は「労働時間」が労基法上とメンタルヘルス問題上では違ってもいいのではないかということである。賃金に関して移動時間などは対象にならず、労基法上労働時間でない、しかし、長時間となるとストレスや疲労の原因となる。その意味でこれらは労働関連時間である。そのためそれに基づいた生活時間の分析は今後も必要である。
〈総評〉
 今回、選択理由として挙げた「残業や過労の労働に関するピアプレッシャーなどのメンタルヘルス問題の研究における現状の問題点について知ること」について、現状として4つあることが知れたことが大きな収穫である。ピアプレッシャーの研究をするにおいて今回判明した研究の問題点は常に注意しながら研究しなければいけない。また、今回ピアプレッシャー以外にもメンタルヘルス問題の原因が出たのでそれらも絡めることによって明らかになるものもあるだろう。次は前に記載した上司に関するピアプレッシャーに関する論文を見つけ出して研究したい。

2024年4月11日分

金子麻美(2019)「ピア・プレッシャーと従業員の自発性ー先行研究の整理と理論的対立に関する研究ー」『立教ビジネスデザイン研究』第16号

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、いくつかの先行文献を批判的議論、肯定的議論で分け、どのような組織の特徴、従業員の特徴があるのか、その特徴によって従業員にどのような自発性が期待されるのかというものをそれぞれの文献から書き出されている。そしてその文献のまとめに対して筆者の考察がされて結論とまとめられている。このテーマを3回生から扱うため、基礎知識としてピア・プレッシャーに対してどのような議論が出されているのかを知るということが今回の論文の選択理由である。
〈内容〉
まず初めに背景として企業組織における組織マネジメントでは、従業員の自発性が発揮されることで個人のモチベーション向上につながるだけでなく創造的活動の創出やコンプライアンス強化においても重要な役割があるため、従業員が自発性を発揮できるかは経営を左右する重要な要素なのである。日本企業の自発性は、ある種の強制を伴うものであり、その要因として先行研究において指摘されてきたものが職場の同僚間の圧力の「ピア・プレッシャー」である。ピア・プレッシャーとは、組織メンバー間の圧力のことであり、上司からの指示とは異なり、公式的には拘束力を持たないが、個人の行動に大きな影響を与えるものである。
ピア・プレッシャーの先行研究には協力的労働を強制する機能だという批判的議論と仲間やチームに対する貢献意識を強める機能だという肯定的議論があり、批判的議論ではParker and Slaughter(1988)、鈴木(1994)、伊原(2003)が先行文献として挙げられており、組織の特徴として全ての論文で自動車製造工場の製造ラインが具合例として挙げられており、特徴としては個が抑圧される組織であった。そして従業員の特徴として技術的な統制に制限される職務・裁量であり、具体例としては周りの同僚や仲間に負担が行かないようにしなければいけない、残業や過酷の労働に耐えるといった例が出ていた。自発性に関してもやはり同僚や仲間に迷惑をかけてはいけないという責任感が自発性にきている。肯定的議論ではOuchi(1981)、Peters and waterman(1982)、鈴木(2013)が先行文献として挙げられており、組織の特徴としてこの能力が必要とされる組織であり、従業員の特徴としても、自由その高い職務、最良であり、自発性においては互いに助け合い、期待を寄せ合うことによって士気を高めることができるという特徴がある。
〈総評〉
 今回、文献の選択理由として挙げた「基礎知識としてピア・プレッシャーに対してどのような議題が出されているのかを知る」について、自分の立場である「批判的議論」だけでなくその反対の「肯定的議論」の考えからの先行文献の意見も知ることができたことが大きな収穫であったといえる。私自身はピア・プレッシャーに対して批判的だが、いいピア・プレッシャーがあるということは理解でき、その一つの例としてこの「上久保ゼミ」が挙げられるだろうと期待している。
今後の研究では、今回はピア・プレッシャーを「職場の同僚間の圧力」という定義づけをしていたが、上司からの圧力も含めて定義づけしている論文がいくつかあったので、上司からの圧力の影響も含めた研究結果も見ていきたい。


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