フリーセリフ(海の家)

自作のフリーセリフ。自分用に書きました。
使用したい方はお気軽にどうぞ!
使用する際のクレジット表記は不要ですが、使用した旨を報告してくださるとものすごく嬉しいです。

***


【地元の海の家のお姉さん】

(波の音が聞こえる)
(背後からひっそり近づいたあと、突然少年の肩を叩く)
わっ!

ははっ。どう、びっくりした?

あははっ、ごめんって!ちょっと後ろから肩叩いたぐらいで、そんなに驚くと思わなかったんだもん!

いやぁ~それにしても久しぶりだね~少年。元気してた?

あたし?あはっ、あたしはこの通り!なーんも変わってない。(少し大げさ気味に)
むしろ、これで元気じゃないように見える?

あ、そうだ。せっかくだしかき氷食べてく?
今年のはうまいぞ~。なんたって、去年からシロップの味が二種類増えたからね!
今まではいちご味とブルーハワイしかなかったじゃない?だけど今年の夏からはなんと、梅干し味とさつまいも味が加わるよ!

(少年の顔が固まる)

……なにその反応。 ……『チョイスがおかしい』?
かーっ! これだから最近の子供は!
いい、大人ってのはね、こーいう大人の味を好き好んで食べるもんなの!
いつまでもいちごやブルーハワイなんて食べてられる年齢(とし)じゃないんだから。

少年ももうハタチになったんだし、そろそろ「大人の味」ってやつを分かるようにならないとダメだよー?
……あれ、まだハタチにはなってなかったんだっけ?まあまあいいじゃん、細かいことはさ!

……ん?なあに?
……『大丈夫?』 何が? あたしが?

……。

ーー大丈夫……に、見えなかった?
……そっか。

そっかあ~、大丈夫そうに見えなかったかあ~。
まったく、子供ってのは大人の見てないとこでどんどん大きくなっていくんだからな~……。

……ねえ少年、覚えてる?去年、あたしのこの海の家で働いてくれてた男のこと。
その時も言ったと思うけどさ、アイツあたしの婚約者だったんだ。

……うん。別れた。 少年が来るちょっと前に。

フられちゃったんだよねー。『君とは価値観が違う』とか、急に言われてさ。
ウェディングドレスはどれが良いとか話して、一緒に住もうって言ってた家も見て、お互いの家に挨拶まで行ったのにね。

……しっかしまさか、少年にまで見破られちゃうとはなぁ~。
あれから自分でも色々考えてたし、もう想いは立ち切ったはずだったんだけど……
あたし、ホントは自分が思ってるよりも、もっとずっと落ち込んでたのかも。

……『いつかいい人が見つかりますよ』、ねぇ。

20点。

(少年が「えっ」と声を漏らす)

えっ、じゃないわよ!そんな誰にでも思いつきそうなセリフ、言われたってちっとも嬉しくなんてないんだから!

(ため息)……じゃあ、そんなこと言うんだったらさ、


君があたしの「いい人」になってくれるの?


な~~~んてねッ!(肩をバシッと叩く)
こんな冗談にもまともに返せないままそんなセリフ言うなんて10年早いわ!

さっ、もうこの話は終わり!かき氷作るからね、何味がいい?
(数えるように)いちご、ブルーハワイ、梅干し、さつまいもの4種類だけど……いつものやつ?

……え、さつまいも味?

……あっははは!!それ、本気で言ってる!?あっはははは……!
……あー、笑った笑った。だって、まさかホントに頼んでくれるなんて!

うん、うん、すぐ作るよ。じゃあ、そこに座って待ってて。

……少年。

ありがとね。


【終】

***


○ポイント
少年はハタチ前後の大学生で、夏休み中に地元へ戻っていた。
お姉さんは小さい頃から近所に住んでいるお姉さんで、幼なじみとも従姉弟とも先輩後輩ともつかない不思議な距離感。

最後に少年がまともないちご味でもなくブルーハワイ味でもなく「さつまいも味」を選んだのは、「大人の味」を知ることで少しでも傷心中のお姉さんに寄り添おうとしているため。
お姉さんは少年が「さつまいも味」と答えた瞬間、そんな彼の気遣いを瞬時に理解したため笑った。


2020年7月27日 水嶋レナ(@rena_mizushima)

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