言いたいことがあるなら絶対に言え

言いたいことを言う。これは簡単そうに見えて、非常に難しい問題であり、場合によっては、人生そのものを左右させかねない人生における重要な命題です。
学校、会社、部活、サークル。
クラスメイト、上司、友人、恋人。
誰もが大抵なんらかの共同体に属し、そこで人間関係を構築していきます。
そうしていく中で、意見の対立、感性の不一致は必ず存在し、それは避けて通れるものではありません。
いいえ、訂正しましょう。避けて通ることはできてしまいます。
不満や文句があっても、それを相手に伝えることを恐れ、抑えて、封じて、押し殺してしまうことはできます。
衝突するのが怖いから。
相手に嫌われたくないから。
反発されて自分が傷つくのが嫌だから。
余計な争いなんてしない、ちょっと自分が我慢すればいい、平和が一番、穏やかに生きていたい。
そうして言いたいことも言えずに、ストレスだけ抱えてやり過ごしていく人がこの世界に、特に日本にはいったいどれだけいるのでしょうか。

実に実に実に実に実に実に実にナンセンス。
言いたいことがあるなら、絶対にいうべきです。
世界は人の数だけ存在していて、一人一人が自分の世界を生きています。
今回の話のテーマで分けるなら、少なくともこの世界は二種類あります。
言いたいことが言える素晴らしい世界か、言いたいことも言えないこんな世界か。
どちらの世界を生きるかであなたの人生は180度変わります。
僕はついさっき、人生で初めて、勇気を振り絞って、言いたいことを言ってきて、自分の世界を最高なものにしてきたところです。

僕の人生を変えた最高の体験談を聞いてください。

大学二年生の僕は今日、バイトもなく友人との約束もなかったので、両親と弟たちの川遊びへ、ついていくことにしました。
その川には小さいころから友達とよく行っていて、高いところに登って、飛び込みをして遊んでいました。
数年行ってなかったので、懐かしく思い、早速いつもの場所に登って、飛び込みをしました。そしてそんな時です。
「あいつ今飛びこんだよな(ヒソヒソ)おい、小さい子が見てたらどうすんだよ! あぶねえから飛び込むんじゃねえ!」
と遠くから声が聞こえてきました。
声のする方を向くと、いかにもな見た目をした中年の男性が立っていました。そして、その人の周りには、どれだけの努力を積んできたのか計り知れない素晴らしい肉体をしたマチョ男や、日焼け姿が美しい金髪の黒ギャル、他数名がいました。
明らかに日の当たる場所で暮らしてきた人間のグループです。
飛び込む時に人がいないことはちゃんと確認しました。そして小さい子が見ていたとして、真似ができる子なら真似をすればいい、真似できないのについつい真似してしまうほどの小さい子だったら、親御さんが目を離すはずがない。
不満を覚えながらも、もう飛び込みはできないと思い、大人しくすることにしました。あの川は彼らの支配下にありました。
しかし、一度不満を抱いてしまってからは、ずっとそのことばかり考えてしまいます。あんなこと言われるなら飛び込まなきゃよかったとか、これまで当たり前のようにやってきたのに……とか、運が悪かったなあ、とか。
いくら考えても意味はありません。
それは分かっていてもずっと考えてしまいます。
そして自分が悪いことをして、それを注意された。自分の過ちをあの人達に正してもらったんだという方向に考えを変えることにしました。
そうすることで、少し前向きになれるし、彼らに対する感謝の念が生まれ始め、幾分マシな精神を取り戻しました。
しかし、それから数十分後のことです。
バシャン!!!という大きな音が川の方から聞こえてきました。
誰かが川に飛び込んだのです。
お、自分と同じ仲間だと思い、さっきの人が注意することを密かに期待しました。けれど、彼は何も言いませんでした。
どうしてでしょう。飛び込んだのが数人の若い男のキラキラしたグループだったからでしょうか。川に人が増えてきてその中で声を上げるのが恥ずかしくなったからでしょうか。それとも面倒くさくなったからでしょうか。そうだとしたら、その程度の信念なのだとしたら、最初から他人を注意して、なんちゃって世直しなんてしないでもらいたい。本当に小さい子が見てることが危ないのだと思っているなら、徹底してその川の秩序を誰にも頼まれていないにしろ守ってもらいたい。
しまいには彼の言う、小さい子も飛び込みをはじめました。なんなら僕よりもずっと高いところから飛び込んでいました。
飛び込める子は飛び込めるんです。飛び込めない子は飛ぼうとしないし、そういう判断ができず、ついつい真似して飛んじゃうような小さい子には親が目を光らせているんです。しかし、そこはゆずって、飛び込みをした僕が悪いということでいいです。たしかに万が一の事態はあるかもしれません。
ただな。
ただですよ。
じゃあ、徹底して注意をしてくださいよ。小さい子たちの安全のために必死になってみんなを導いてくださいよ。そんな中途半端な信念のない、ただの自己満足のためだけにあげる声なら、最初からあげるんじゃねえよと。
ということで僕の中にあった小さなストレスは水を入れた水風船のようにみるみる膨れ上がり、自分だけが彼の気まぐれで損を被っていることへの苛立ちから、なんとしても「あの人達のことは注意しなくていいんですか?」と言ってから帰りたいと思いました。
別に衝突したいわけじゃありません。そんなのは嫌だし、怖いし、それでキレたら僕自身がヤバいやつだし。
ただ一言、一言だけ。「もう注意はしないんですか?」とだけ言ってやってから帰りたい。
でも言えない。怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
中学生から教室の隅っこで暮らしてきて、高校でもクラスメイトに感じた不満を一切口にださず生きてきて、まして知らない人とのコミュニケーションが苦手で、普通の人にも話しかけるのが怖い、彼女なんてできたことないし、ナンパなんて絶対にできない僕にとって。
いかにもな集団のグループに一人で割り込んで、言いにくいことを言うだなんて、どれだけ大変なことか。
でも、言いたかった。
言ったとしてもその場限りの関係だし、今後二度と会うことはないし、身近な人間の自分に対する評価が変わるわけでもない。
流石に言ったからって殴られるようなことはないはず。
言わずにストレスだけ抱えて、なにも言えない自分に嫌気がさしながら帰るのか。結果は分からないけど、言いたいことを言って、清々しい思いで帰るどころか、怖い人に言いたいことを言って、凄まじい経験値を手に入れ、成長し、自信を身に着けて、自尊心を高めて、友達に語れる極上のネタを手に入れて、朗らかで清々しい気持ちで帰るのか。
どちらがいいかは火を見るよりも明らかです。
でも言えない。
何でか言えない。
何かが怖い。
でも、言いたい、
言わなきゃ言わなきゃ言わなきゃ。
言わなきゃゴミだ。
言わなきゃ誰かの養分。
言えば勝者、言わなきゃ敗者。
言うんだ言うんだ言うんだ言うんだ言うんだ言うんだ言うんだ
言いました。
言えました。
危ないじゃないんですか? 僕の時みたいに注意した方がいいんじゃないですか?
彼は返してきました。
「いやー、今パスタ食ってっから」
いいや、食ってないね。まだ茹でてる途中じゃないか。ずっとあんたを観察してたんだ。いくらでも言う機会はあったろう。
「お前が注意してきなよ。任命!注意役に任命する!」
ふざけるんじゃないと。
僕はあんたみたいに知らない人になりふり構わず、声をあげられないし、そもそも飛び込みが悪いことだと思っていないんだ。
だから僕は言いました。
「いや、無理ですよ。僕、普段そんなふうに知らない人になんか言える人間じゃないんです。今だって、滅茶苦茶怖い思いしながら、勇気振り絞ってるんです。あなたたちが滅茶苦茶怖いんです。ほら、足震えてますもん」
ウケました。
マチョ男も黒ギャルも大爆笑していました。
そして一人物腰柔らかそうな女性が、
「そうね。大丈夫、この人に言わせるから」
と味方になってくれ、
マチョ男が、
「兄ちゃんかっこいいよ。よく言えたな」
果てには言ってきたその人まで、
「あー分かった。ごめんな」と言って、右手を差し出してきました。
それに僕は応じて握手を交わし、笑顔でその場を去っていきました。
戻る途中、先に行っていた家族が僕のところにやってきて、
「どうしたの? また何か言われたの?」
「違う。言ってやったんだ、言いたいことを。そしてなんだかんだ気持ちのいい人達だったよ」

という体験をしてきました。

この体験を通じ、僕は凄まじい成長ができたと思います。
ナンパもできるようになっただろうし、将来会社で理不尽な上司に、嫌なものは嫌だと、反抗できるようになったかもしれない。
何にせよ、あそこで一歩踏み出すことができて本当によかったです。
夏休み中、家族で川にいったのに、怒られてしょげてストレス抱えて帰っただけの最悪な一日ではなく、
夏休み中、家族で川にいったら、人生を変えるほどの成長を果たす自分の歴史に残る最高の一日になった。
もう僕は言いたいことを我慢したりしません。
これほどの達成感と爽快感を味わってしまったら、もう我慢することなどできません。
ただ、その言いたいことを吟味することは忘れません。
自分が間違っているのに、堂々と威勢よく言う、どうしようもない人間には絶対なりたくありません。

というわけで、僕の人生が大きく変わったであろう体験談でした。
ここまで読んでくださった、今まさに言いたいことがあるあなた。
さあ、イってらっしゃい。



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