見出し画像

フットボール風土記|未来のサポーターへの大切な書籍

宇都宮徹壱さんのフットボール風土記を発売日に購入して読んだ。
股旅フットボール、サッカーおくのほそ道、J2&J3フットボール漫遊記に続く待望の取材をまとめた新作である。
あまり光の当たらないカテゴリへの綿密な取材には本当に頭が下がる思いだ。


1992年にJリーグが開幕して来年で30年となる。
ご存じの通り、現在Jリーグのカテゴリは3部まで増えている。
Jリーグ、JFL、地域リーグ、都道府県リーグのカテゴリが構成している今の日本サッカー界にはJから世界へという目線や、J1・J2へ昇格という目線や、Jに参入する為にまずはJFLに行くという目線と、Jには行かない判断の企業チームなどがおり混ざってている。

そして、それぞれのクラブに物語という事実が存在するとおもう。

フットボール風土記は2016年から2019年の全社や地域CLを軸にJFLを目指す地域のクラブを中心に、三菱水島やマルヤス岡崎・ホンダロックなど、JFLの企業クラブや地域リーグの企業クラブに至るまで幅広いチームを取材している。

どの章も読み応えがあるのは、やはりそれぞれのクラブのリアルな物語をわかりやすく文章にしてくれているからだろう。


ちなみに、私は地元ツエーゲン金沢のサポーターとしてJFLに昇格し、J3に編入したのちにJ2昇格して、現在に至るまでをチームを見続けている。
最初はメインスタンドで観戦していたが、年を追重ねるごとに座る位置は徐々にゴール側に移動していき、J3昇格後にゴール裏エリアに陣取るようになった。

下部リーグやクラブに興味を持ったのはここ10年くらいの新参者であるが、過去金沢で闘ってくれた選手達がJFL以下のクラブに移籍するたびに下部リーグを意識し始めたことがきっかけで、JFLや過酷な地域CLでプレーする姿をどうしても追いかけてしまう。

そして、今回紹介されているクラブの8割くらいには過去金沢にいた選手が現在も所属、もしくは過去に所属していたりもする。
つまり完全に関係のないチームでもないわけだ。



個人的に非常に興味深かったのは第13章以降だ。
2019年令和最初の地域CLの1次ラウンドは3会場で行われ、そのひとつが金沢市の市民サッカー場だった。そして宇都宮さんは取材会場に金沢を選ばれた。

私はスタンドからカメラを持ちピッチ上で取材する宇都宮さんの姿を追い、沖縄SVの高原選手の豪快なオーバーヘッドを生で見て、地域CLの壁に苦戦している福井ユナイテッドの奮闘と、10年前我々金沢と入替戦で降格してしまい、いつまでも気になっていたFC刈谷や予備知識もないけど戦術がおもしろかったFC徳島の試合を楽しんだ数日間の風景が活字になっており、ページをめくるたびにあの場で過ごした時間を思い出されてくれた。

この年、金沢一次ラウンドの4チームは残念ながらJFLにはたどり着けなかったが、(刈谷は翌年JFLへ昇格!おめでとう!)それぞれストーリーのある強者が集まるこの地域CLをはじめとして、地域リーグの結果や全社大会などは、是非もっといろんな人に見てもらいたいなと心から思う。

そして、第14章、15章で紹介されている、福山シティとクリアソン新宿。新時代のクラブについての取材だ。今までのクラブのあり方や考え方をぶっ壊してくる思考や行動は、今のこのカテゴリだから逆にやりやすくもあり、今後の日本のサッカー事情を変えて行く可能性をすごく感じている。この2チーム以外にも新興クラブが数多く生まれているので、いずれ宇都宮さんの著書にも登場してくるであろう。


明らかに昔と違う下部リーグクラブが、群雄割拠の闘いを制してこれからも上のカテゴリに上がってくる。今後上限数が決まると噂されるJ3枠に入るクラブも同時に限られてくるだろうし、入替が行われる可能性もある。
その結果、現在のJ2とJ3のように新陳代謝で徐々にカテゴリを落とすクラブが出てきてしまう可能性も否定は出来ない。どんな立ち位置でもクラブの価値観を出せるかどうかがこれからは大切なんだと思う。

Jの選手達が逆に下部リーグをあえて選んで移籍することも増えていくだろう。(クリアソンのように)これからのサッカー界が面白くなるのは間違いなく下部リーグからだと私も感じている。一方で昇格を目指さない愛されるクラブも忘れてはならず、今後も日本サッカー界の多様性をまた宇都宮さんの目線で取材していただき活字にしてくれて僕たちの手元に書籍となって楽しませていただきたい。


書籍の中で紹介されたクラブで、今治や宮崎はJ3の舞台へ、いわきや刈谷はJFLの舞台に上がっていった。奈良クラブは例の事件が起こり、鈴鹿はチーム名自体をネーミングライツで変えた。
直近では福山シティは天皇杯で結果を出し全国的にスポットがあたり、クリアソンに至っては百年構想クラブとしてJリーグがホームタウンは区でもOKというルールを変更して認定をした。

取材時と現在の時間の経過と共に、次々といろいろなことが起こっているのはご存じの通りだ。

過去に出版されている宇都宮さんの著書、股旅フットボール、サッカーおくのほそ道、J2&J3フットボール漫遊記はこの時系列からさらに時を遡るわけで、現在Jで闘うクラブの過去の姿も知ることが出来る。今まさに自分たちが応援しているクラブの過去の姿を知ることが出来る貴重な書籍である。

これからまた時が過ぎると、フットボール風土記に今回紹介されているクラブの未来のサポーターにとっては、本書がとても貴重な事が書かれている書籍になっていくのだろう。


数年経ってまた読み返してみるのが今から楽しみだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?