息を吐くように…
最近、うちでは保険屋さんの出入りが激しい。
父の“ 明日はお客さん来るから ” その度に何だか声が嬉しそう。
あの手この手で巧みな話術、差し入れで父の心を掴んでいるようだ。
何百万、時には千万単位のお金が動き、利益は自分の手当てになる。
相手も生活がある。
年寄りにはその必死ささえ、自分の為のように思うんだろう。
日中の暇な時間の話し相手。自分の為のプレゼント(経費から出ているところもある)。
認知症気味の父には新鮮なんだろう。
契約書を見ても、転換しない方がお得でも、言われれば自分の為に見直してくれてるんだろうと思ってしまう。
また保険は複雑で難しい単語がちょくちょく出てくる。年寄りじゃなくても理解するのに難しいところがある。
私もそんな父が自分のお金を好きに掛けているので、取り敢えずは言うけど強くは言わない。
自分もそうだった。。。
結婚したてで慣れない土地。産まれたばかりの子とアパートでずっと二人。話し相手もいなくまだ友達もいない。携帯もガラケーの時代。ここまで発展していなかった。
そんな時、職場に出入りしていた保険屋さんが訪ねて来た。知ってる人がいない土地に自分を訪ねて来てくれた事が少し嬉しかった。
言葉巧みに勧誘してくる。
若かった私は保険には全く興味がなかった。現に健康で病気になるとは思えなかった。そこははっきり断った。でも優しかった。来客が嬉しくて会話も弾んだ。
“ また、来るわ ”と言って帰って行った。断ったのにまた来てくれると思ったら少し嬉しくなった。
しばらくして、本当に来てくれた。どこかで調達してきたであろうお菓子を持って。お菓子を持ってきてもらったら一緒に食べたくなった。
“ どうぞ ” 結局招き入れてしまった。やっぱり来客は嬉しかった。
今度は “ 保険の話じゃないの ”。
“ 保険売るのやってみない?!稼げるわよ。研修だけでも出てみて合わなかったら辞めてもいいし。研修中もお金は出るし。今の職場辞めてうちに来なさいよ。”
なんて、声を掛けてもらった。
少し、来てもらったのが申し訳ないのと“ 稼げる ”のワードに心が揺らいだ自分がいた。
色々話を聞き、考えた挙げ句すぐには返事が出来なかった。
“ 少し、考えさせて下さい ”
と答えた。
彼女は嫌な顔ひとつせず。
“ また来るわ。考えておいて ”
と言って帰って行った。
色々調べた。最初の研修中はお金が出るけどその後は契約とれなきゃお金は稼げない事。
人を勧誘して保険屋さんにするだけで自分にマージンが入る事。
これだっっ!!!
なんでこんなに一生懸命私の事を心配してくれるんだろう。
なんでこんなところまで来てくれるんだろう。
なんでいつもお菓子まで持ってきてくれるんだろう。
なんでこんなに優しいんだろう。
謎が全て解けた。
やっぱり、大人はすごいなぁ。と思った瞬間だった。
次にお菓子を持って来てくれた時は、申し訳ない気持ちもあったけど、“ やっぱり今の仕事は辞めません ” きっぱり断った。
“ 貴方なら稼げると思うんだけどなぁ ” なんて言ってもらった。それ以降彼女は来ることはなかった。
彼女たちは息を吐くように言葉巧みにさらっとこなす。(嘘をつくわけではない)
子供が保育園に通っている時、職場のお店に同じ保育園のお母さんが買い物に来た。
別にうちの子達とは同じ年齢と言うわけでもなくお子さんは別な学年。
最初は “ 同じ保育園ですよね ”なんて声を掛けられた。
とにかく綺麗な人で笑顔がとても穏やかな印象。
“ あっ、はい ” 私も保育園で見掛けた事のあるお母さん。
そこから子供達の事を色々聞かれた。会話がとても上手で私も気分よく話してしまった。
買い物に来る度にレジに並んでくれた。
そのうち “ 旦那さんはどうなの? ”なんて聞かれるようになった。
“ こんな、こんなで、こうですよ ”と色々愚痴るように。
そのうち彼女は “ わかるわかる。大変だよね。うちも大変。うちもこうでさ。” なんて話してくれるように。
妙に親近感が湧いてきた。とにかくフレンドリーに接してくる。まるで昔からの友達のように。
急に近づいて来た感はあったけどとにかく自然だった。
色々話しているうちに “ 私、保険屋やってるんだ 。何かあったら言って。” なんて言われるように。
あ~。この方のお家も大変なんだなぁ。
なんて思っていたら。連絡先を書いた紙を頂いた。
“ いつでも連絡ちょうだい。いつでもお話聞くわ ” なんて言ってもらい。
またここで、なんでこんなに心配してくれるんだろう。なんでこんなにフレンドリーなんだろう別に子供の接点はないのに。
知らない土地で友達が欲しいのかなとも思ったが彼女は地元だった。
どうしてだろうと思うもののあまりに自然に関わって来るのでそれ以上は何も疑わなかった。
ある時、彼女は旦那さんと子供と買い物に来た。
あ~。愚痴っていた程、関係は悪くはなさそう。まぁ、子供も一緒にいるからかなぁ。なんて思っていた。
その後もフレンドリーさは変わらない。
この間にも “ 連絡ちょうだい ” は欠かさない。
彼女も買い物に家族で頻繁に来るように。毎回、仲睦まじい。旦那さんと2人だけの時もあり。なんか言っていたのと違うぞ。違和感…。
“ ねぇ、保険屋やってみない? やるって言って研修だけ受けて辞めてもいいし、研修中はお金も出るから ”
…あれだっっ!!
取り敢えず悟られないように話だけ聞いた。
“ あ~。大丈夫です。私には無理ですよ ”
“ 研修だけでも 。どう? 研修受けるだけでもお金は出るし ”
“ ちょっと今は辞める気ないので大丈夫です ”
当たり障りのない返事をして、その場をやり過ごした。
それから私は彼女を避けるようになった。
彼女達は、何とも人の心に入ってくるのがとても上手い。と言うか自然。また、綺麗な人も多い。自然に人の心配も出来る。
こういう人が稼げて天職なんだろう。と思ってしまう。自分には務まらないであろう。
少なからず私の少しばかりの良心も痛む。はず。
色んな人がいる。それぞれに生活もある。
こういう人は騙してという事ではないけど、本当の事は隠して近づいて来る。罪悪感はないのだろうかと思ってしまった。
でも人の優しさに弱い自分もいる。
優しくされると心を許してしまう自分もいる。
寂しいとき人肌恋しい時もある。
これはちょっと違うかな…。
孤独な時、人の優しさが妙に身にしみる時がある。
色んな人がいるものだ。。。
子供が産まれたばかりの頃、子供の教材の勧誘がうちに来た。
この子が大きくなった時、指導内容が変わって今の計算式や考え方が変わること。今からやってないとついていけない。早い段階で始めた方が有利だという。英語も小さいうちから聞かせておいた方がいい。
とにかく短時間で色々、言葉巧みに言われ、不安になった私は5教科プラス英語の教材を契約した。
自分の貯金から払えばいい…。
逆にこれで小学校入学までの期間を補えれば安い方じゃないかとさえ思った26才。若かった。
その金額30万円越え。日に日に引き落とされる日が近づくと不安になった。一気に30万が無くなる。欲しい気持ちとお金が無くなる不安。
色々考えた結果。
“ やっぱり辞めます。”
思いきって電話をした。まだクーリングオフの期間内だった。
“ もう発注も東京にかけたので無理ですよ ”と言われた。“ でもやめたいんです ” “ 契約書もあるので無理です ” とも言われた。
“ じゃぁ、英語をやめて、5教科10万円だけにしましょう
” と提案された。クーリングオフのやり方がその時、はっきり分からなかった私は結局、営業の方におされて5教科分支払う事に。
しばらくすると、購入した教材が届いた。
開けてビックリ。
あまりにショボい教材だった。産まれたばかりの子にはまだまだ早い教材。小学入学前、小学生用。
おまけで教材を収納する赤い棚を頂いた。これが購入した中で一番使えた(笑)
結局、この教材使う事は1度もなかった。
毎回気にはなるものの。部屋の片隅に大事にしまっていた。子供達も中学生になり絶対使う事のない教材。
引っ越しの時も持って来た。
10万以上もした。誰かに譲ろうかとも考えたけど、見れば見る程、ショボい。。。
物置部屋を掃除した時、思いきって処分した。
やっと捨てれた。
色々思う事はあったけどなんだかやっとスッキリした。
とにかく高い勉強代だった。そんな時代(とき)もある。少しずつ生きていく術を覚えていく。
時には高い勉強代を払う事もあるだろう。
今も赤い棚は健在だ。ガラクタを詰め込むのに便利な棚。10万もした棚。大事に使いたいと思う(笑)
皆さんどうぞ、お手柔らかに。。。