【One Worlder】 旅立ち ⑥
ラーメンを食べ終わって、二人は駅の外に出た。
外と言っても、そこは正確に言うと駅の二階の広場。ペデストリアンデッキと言われている。仙台駅は、一階の外の部分がバス発着所とタクシー乗り場と車の駐車場でほぼ占められていて、その二階部分が広場のようになっている。通常歩いている人たちはこの二階のペデストリアンデッキを利用して、仙台駅から、駅の外へ向かうのだ。ペデストリアンデッキは、広い空間で、いくつものベンチがあるし、横長の花壇もある。特別な花が植えられているわけではないが、目の前に緑と花があるだけで、行き交う人々にとっては、少しほっとさせる癒しの空間になっている。
ところどころのベンチで、恋人らしきカップルや仕事の打ち合わせをしているのか、サボっているのかわからないサラリーマン風の数名が花壇のヘリに腰掛けて、何やら話して笑っている。
そんな広場に出てから、忠司が花壇そばのベンチに聡を座らせて言った。
「さとちゃん、今から青葉城址に案内するよ。仙台の街並みが一望できるから」
「青葉城址? いいね。天気もいいし、仙台の街の見納めって感じかな」
「見納めって、もう二度と戻ってこないようじゃん」
「まぁ、日本列島をどんどん南下していく感じだから、しばらくは仙台に戻れないと思う」
「よし、わかった。早速下の駐車場に行こう」
「いいよ」
聡はそう頷きながらも、立ち止まって、このデッキで、しばらく人波を眺めていたいとも思った。もうこの仙台の街と人に永遠に会えなくなるような気がしたのだ。
「さとちゃん、何か心配事でもあんのが?」
「いや、なんとなくこの場所を離れるのが、寂しい気がした」聡は苦笑しながら人波を目で追った。
「哀惜感、半端ないね。その感情を飛ばしてあげるから城跡、いこ」
「青葉城址で何かイベントでもやってるのか」聡は忠司に尋ねた。
「ちがう、ちがう。俺の新曲を聞かしてやるんだよ」
「新曲できたんか?」
「そう。車にギター積んでるから、仙台の街並みを見下ろしながら、弾き語り聴かせてあげる、しかも無料でね。特別だぞ」そう言って忠司は笑った。
「忠司の歌を聴くのは、ほんと久しぶりだな。1年ぶりぐらいかな?」
「あぁ。牧野石の仮設でどんちゃんライブしてからだから、約一年だな」
「花蓮とデュエットした歌、よかったなぁ。ええと、中島みゆきの糸」
「糸な、俺と花蓮の糸は、もう切れてしもたぁ~、オワコンじゃなくおわ恋」忠司は笑った。そして聡を見つめた。聡は見つめられて、少し戸惑った。
「あの頃は、俺は花蓮が忠司と本格的に付き合うんかと思ってたけどな」
言い訳するように聡が呟いた。
「さとちゃん、ホンマにお前は恋心というものを知らない堅物イケメンだな」
「イケメンじゃ、ないよ」
「いや、イケメンはどうでもいいけど、恋心というか女心を知らないね、ほんとに」
「そうかな。。。知ってたけど知らないままに~って感じだった。正直に言うとね」
忠司はそう言った聡の表情をしばらく見て、そうだったのかぁ、と呟いた。そして、もう一度聡の顔を見つめた後、何かを吹っ切るように歩き始めた。
「さとちゃん、下に行くぞ」
「おお、わかった」聡は急ぎ足で歩き始めた忠司の後を追って、階段に向かった。
~~⑦へ続く~~