10話
ーーパキッ
私の中で何かが割れる音がした。
ガラス玉を落としたような優しいものじゃない。
例えるなら、ペンを握り潰すようなものだ。
この3ヶ月
私は努力を重ねてきた。
星を掴むためにずっと積み上げていた。
お姉ちゃんに、あなたの好きな人になりたくて。
「そっか」
聞きたいことはたくさんあった。
言いたいことはたくさんあった。
でも、ようやく口に出来た言葉は小さな肯定だった。
現状を受け止められないまま、肯定するしかなかった。
「瑠璃は、瑠璃だから」
「うん、もう大丈夫。大丈夫だから、歩こ」
カサブタを剥がすようなものだった。
そのカサブタはまだ治りかけで、剥がした時に痛みが走る。無理に剥がすよりは、そのまま放置して治癒するのを待った方がいいと思った。
だから、そそくさと傷口を塞いだ。
聞きたくないと、知りたくないと私は耳を塞いだ。成瀬くんの手を取って。
「やっぱり敵わないんだ」
「瑠璃?」
往来の中、成瀬くんを引く手にもう震えはない。
家に飛んで帰って泣けるほど私は強くない。
人知れず泣けるほど、お姉ちゃんほど私は強くなんてなれない。
分かっていた、知っていた。それでも。
握った手を離せるほど私は…
「次どこ行こっか」
街を包む蝉時雨。
腹立たしいほど青が澄み切った空に瑠璃(わたし)の居場所はないみたい。
私には眩しすぎる、夏は。
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