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第7話

”会いたい”。
なんてそんな大それた願い事でも無いはずなのに、七夕でも、クリスマスでも、神社にいる神様でも、そんな俺の願いを叶えることなんて出来なかった。

「あなたは……」

胸が締め付けられそうなくらいに、思い出すだけで苦しくなる。
その人とそっくりなアイオライトの瞳が太陽に反射して、俺を捉えた。

ああ、もう……。

まるで走馬灯みたいに、あの人の記憶が溢れて止まらなくなって、
俺は――。

一番抱き締めたい人を抱き締めることのできなかったこの無力な両腕で、気が付けば目の前の彼女を抱き寄せていた。

「えっ......あの」
「ごめん、でも
もう少しだけ、このままで」

抵抗する彼女の耳元で震える声でそう呟いて、しばらくの間腕の中の彼女の温もりだけを感じていた。
彼女にしてみれば、きっとわけがわからないだろう。
きっと、俺の事は知らないから、そんな初対面の男に突然抱き締められて。
叫んだり、もっと抵抗したりしても良いような状況で、彼女はそうはしなかった。ただ、俺の背中を左手で優しくトントンと子供をあやす様に叩いていた。

「……大丈夫ですか?」

彼女を強引に腕の中に閉じ込めてから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
落ち着きを取り戻した俺はそっと彼女から離れ、立ち上がる。すると彼女も俺の動きに合わせるように立ち上がって俺の頭に「葉っぱが」と言いながらそれを取り除いてくれた。

「ありがとう......ごめん、急に変なことして」

彼女の目を見て話すことが出来なかった。
もう一度、俺の中にアイオライトが蘇ってしまったら、たぶん俺は感情を抑えられなくなる気がする。

「いえ、大丈夫です
だって、あなたは……」

彼女がそう言いかけた時、また俺たちの間を強い風が吹き抜けていった。

「お姉ちゃん……?」
「え?」

その言葉に思わず顔を上げると、彼女は不思議そうに風の通り抜けていった方を見つめていた。
そしてまたこちらを向いた時、目が眩んでしまいそうなくらいの太陽の光が彼女を照らして、一瞬だけど、ほんの一瞬。

「羽衣……っ......」

羽衣がそこに居たような気がした。
でも、それは本当に勘違いか見間違いかと思えるくらいの一瞬の出来事で、再び俺を捉えたのは羽衣と同じ色の瞳を持つ彼女だった。


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