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勝ち負けよりも大事なもの

6月3日土曜日。甲子園。この日はセリーグ首位の阪神とパリーグ首位のロッテの試合だった。
僕は大阪なのに千葉ロッテが好きという変わった人だ。ただ関東は遠いので主に京セラドームのオリックス戦を見に行くことが多い。

しかし今回は交流戦ということでセリーグとパリーグが激突する。2年ぶりにロッテが甲子園にやってくるのだ。僕はこの試合を阪神ファンの友達2人と見に行った。

ロッテの先発は防御率2点代の種市選手。阪神は防御率0.40と驚異的な数字を残す日本No.1のピッチャーとも言われる大竹選手。さらにオールスターの投票では殆どのポジションで阪神の選手が1位を獲得し、セリーグ選抜やのに殆ど阪神の選手という事態も起こっている。W杯で本田圭佑がフランス代表のことを世界選抜だと言っていたが(僕はそんなことはないと思う)阪神は名実共に実質セリーグ選抜といっても過言ではないだろう。

今年のセリーグ選抜チーム

勝つのは恐らく難しい。そう思って迎えた試合。

初回。種市選手が阪神の4番、大山選手に3ランホームランを浴びて3点を先制される。さすが首位を独走するチームの4番。勝負強すぎる。初回に3点。相手は3試合投げて1点しか取られないピッチャー。普通のチームならこれで試合が決まったと言っても過言ではないだろう。
そして案の定2回以降は防御率0.40の大竹選手がほぼ完璧に抑え、7回まで全く危なげない投球を見せる。対する種市選手も、2回以降は特に危ないシーンもなく6回を投げ切った。

ただ7回、1アウト1塁で元気担当代打大下誠一郎。2ストライクに追い込んだ後のストレート。完璧に捉えた。ここまで圧倒的に無双していた大竹選手から2ランホームラン。吉井監督の采配が当たった。大竹選手が失点してるのを初めて見た。そして大竹選手はここで降板。6.1回を2失点。防御率は0.71にまで上がった。(それでも充分化け物やねんけど)

3-2で迎えた8回。吉井監督が送り込んだのは澤村選手。しかしこれが大誤算。フォアボールとボークでピンチを招き、中野選手のタイムリーと爺さんの犠牲フライで2点を失った。5-2。

そして迎えた9回。3点差。相手はWBCで日本代表にも選ばれた湯浅選手。現在38試合連続無失点。防御率は0.00。これは勝負あった。誰もがそう思った。

しかし9回、先頭打者の山口選手に対し木浪選手がエラー。これが痛かった。今までの阪神もエラーは多かったが、それ以上にピッチャーが圧倒的だったので、そこまでエラーにならなかったのだろう。続く佐藤都志也選手はヒット。ノーアウト1.2塁。ここで代打で出てきた池田選手は来翔フライ。1アウト1.2塁で1番、岡選手。3塁線を破った。38試合無失点の湯浅が遂に点を失った。5-3。なおも1アウト2.3塁で藤岡選手。1.2塁間を破る。ここでなんと2点タイムリー。これまで無双し倒してた湯浅選手が遂に崩れた。実に11ヶ月ぶりの失点。ロッテファンが歓喜に湧いた。ここまで大竹選手、加冶屋投手、岩崎投手、湯浅投手と防御率0点台のNPB最強リレー。この鉄壁4人から5点も取れる事が奇跡だった。1回、大山選手の3ランホームラン。誰もが敗北したと思った試合。でも追いつく事が出来た。流れが一気にロッテに傾いた。諦めないことの大事さを教えてくれた。ここで追いつけるのは本物の強さ。僕としてはロッテが追いついて素直に嬉しかった。

しかし、ふと隣を見ると僕の友達の阪神ファンは悲しい表情をしていた。絶対的守護神の湯浅選手が打たれ絶望的な顔をしていた。それを見た時、同点になって追いついた時に喜んだことを少し後悔した。
9回裏、先頭は先ほどエラーした木浪選手。ロッテのピッチャーはパリーグホールド王のペルドモ。しかしヒットで出塁。ただ代走で出てきた植田選手はまさかの牽制死。阪神の流れは最悪だ。友達の顔も徐々に生気を失ってきていた。
そして試合は延長へ。10回表。及川投手から山口選手のヒットと友杉選手の盗塁で1アウト2塁のチャンスを作る。そして今日当たっている佐藤選手。ロッテのチャンステーマが流れる。しかしここで打ったら自分の大事な友達が更に落ち込むことになる。そう思うとこれ以上はロッテを応援することはできなかった。頼む及川。抑えてくれ。佐藤選手は空振り3振。よし。次は代打田村選手だ。打率は2割を切っているが、勝負強いバッター。2球目。打ち上げた。ライトフライ。苦しみながらも及川投手が何とか抑えてくれた。

そして試合は11回裏。先頭バッターは佐藤輝明選手。ロッテの投手は廣畑投手。大事な先頭打者。佐藤輝明頼む。なんでもいいから塁に出てくれ。綺麗なヒット。ライト前へ弾き返す。次の代打は東京オリンピック日本代表にも選ばれた、ここぞに強い梅野選手。このチャンスをモノに出来なかったら更に大事な友達が落ち込むことになる。なんとか繋いでくれ。バントの構え。しかし上手く行かず、2ストライク。そしてヒッティングに変える。これがズバリはまった。センター前ヒット。さすが梅野。ここでチャンスを大きく広げる。サヨナラの大チャンスだ。気がついたら、ロッテを応援していた筈が阪神を応援していた。そして最後は小幡選手がサヨナラヒット。阪神が接戦を制した。サヨナラの瞬間、阪神ファンかの如く喜んだ。友達は周りの阪神ファンとハイタッチしていた。自分もハイタッチしたい気分だったが、さすがにロッテのユニフォームを着ているため自重した。

ロッテは負けたのに嬉しかった。正直友達が落ち込んでるのを見たくなかったというのが強かった。結果、気がついたら阪神を応援していて、最後は喜んだ。仮にロッテが勝ってしまったら、ロッテよりも大事な人が悲しむことになるので喜べないことは目に見えていた。そして最終的には隣に座っている友達も最後は笑顔になった。それが見れただけでも正直良かった。応援しているチームの勝ちなんかよりも(勿論それも大事だけど)自分の大好きな人達が笑顔でいることがよっぽど価値がある。考えてみれば当たり前のことなんだけど、9回表の自分はそれを忘れていた。でも延長戦に入って改めて再認識することができた。
そして自分がそういう風に思えたのが凄く嬉しかった。前までの自分ならただロッテを最後の最後まで応援し、勝てば友達が落ち込んでいても喜んでいたかも知れない。でも最後の最後は大事な友達を優先できた。そういう自分になれたんだなと思って本当に嬉しかった。

結局プロ野球って勝つか負けるかも勿論大事だけど、勝敗は2の次3の次で、それ以上に見に来た人を笑顔にさせることの方が遥かに大事だと思う。もちろん0に抑えるピッチャーもカッコいいと思う。ただ最後廣畑選手は打たれはしたが、大切な友達を笑顔にできたので、それもカッコいいと思った。ロッテ打線もほぼ負け確の状態から意地を見せて追いつけたのでカッコいいところを見れた。最後にみんなが笑顔で終われる試合。そういう意味では、今シーズンのベストゲームだったかも知れない。
勝ち負けよりも大事なことがある。そんなすごく当たり前のことを一度は忘れていたけど(恐らく忘れている人は僕だけじゃないはず)もう一度思い出すことができたので、今回は改めて記事にしようと思いました。


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