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PrayForKyoani

貴兄貴姉 へ。

 世界が、変わってしまいました。

 昨年の今日付(2021年7月18日付)のネット上で、八田英明社長のプレスリリースを、小生も拝読しました。株式会社京都アニメーションの代理人弁護士・桶田大介先生がTwitterで発信されたものなので、真性のものと受け取っています。今(2022年7月18日)はその苦しみを乗り越えようとされておられるかもしれませんが(たとえば、#anime_eupho の2023年・2024年)、「新作をつくれない」という旧情報をもとに、下記のように、お手紙をしたためます。

 拙稿の上部にある写真は、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(TV・番外編)のBlu-rayの映像の一コマ―――「一コマ」というのは、アニメーターというプロフェッショナルの方々の使う意味での、「一コマ」ではなく、市井で使われる素人の用法だとご放念ください―――です。

 この一コマの解釈は、一年前には、こういうものであったと思います。それは、戦場から帰ってこない恋人を待つ一人の女性であったり、戦争が終わったのにあの人は帰ってこないという社会の真空を「歌」で満たそうという一人の歌姫であったり、・・・・・・つまるところは、一人の人間を表現するのに多くの語彙を費やしても、それは、「CV:日笠陽子」によって演じられた一人のキャラクターをめぐる物語を描くために使われた「一コマ」でした。

 今、そのBlu-rayを再生してみるとどうでしょうか。

 貴兄貴姉の皆(みんな)が、あの忌まわしい出来事が起きる前、生きておられた頃。この「一コマ」は、なに一つとして変わっていません。ですが、この「一コマ」の出典を明示せずに取り出してみれば、鑑賞する人々の圧倒的大多数が、この「一コマ」を見て心に思うことが、すっかり変わってしまったのです。

 釈迦に説法ですが、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』では、戦争が終わった後にも誰もが戦争の傷をおっていることが、社長のセリフの中に登場します。

「物語は完結しました。でもまだこの世界(神谷註:ヴァイオレットの音楽世界)に関わっていたい」

 これは、ヴァイオレット・エヴァーガーデン 音楽プロデューサー 斎藤滋 氏による、ライナーノーツの一節です(2022年発売CD、アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』ピアノアレンジアルバム『Though Seasons Change - Violet Evergarden Memories -』)。

 貴兄貴姉のお名前は、筆者の把握している情報では、一人の例外としてなく、「外伝」のエンドテロップの字幕にクレジットされています(2019年10月18日八田英明社長記者会見)。その後、「劇場版」によって、物語は完結しました。

 しかし、現実世界は、残酷です。

 誰も望まなかったであろう、「つづき」が、人類の歴史に刻まれています。

 マックス・ウェーバーという泰斗の講演が、たとえば、岩波文庫で日本人にも広く読まれています。

「政治にタッチする人間、すなわち手段としての権力と暴力性とに関係をもった者は悪魔の力と契約を結ぶものであること。さらに善からは善のみが、悪からは悪のみが生まれるというのは、人間の行為にとって決して真実ではなく、しばしばその逆が真実であること」

マックス・ウェーバー著(脇圭平・訳)『職業としての政治』1980年3月17日第1刷(筆者手元は2002年4月15日第39刷)p.94。同じく筆者の手元にある同著・同訳者2020年9月15日改版第1刷では、p.108。いずれも岩波文庫。

 2022年2月24日正午頃(日本時間)。
 青空とひまわりの「一コマの絵」は、ロシア・ウクライナ戦争において、ウクライナ支持をあらわす立場の表明へと、その意味するところを大きく変えました。ロシア学徒の筆者自身も、ウクライナ支持を表明する一人です。

筆者は何者か。
大阪府警外事警察(ロシア担当)協力者(2006-2018)です。
ロシアの情報機関員とのやりとりを、カウンターパートの警部補に情報提供していました。口止めをされていましたが、インテリジェンスの世界は、公開することで市民の知るところになるように、潮流がかわっています。そんな潮流を読んだわけではないのですが、2020年10月に下記の拙著を出していました。
ペルソナ・ノン・グラータ(ここでは、日本政府によるロシア外交官8名追放)の「8名」の選定には、筆者が拙著で記した活動の延長線上になってい・・・・・・るのかな。

 上記リンクは、「ロシア大使館員」などを主体に描き、
 下記リンクは、警察内部の暗闘を主体に描いた拙著です。


 再掲します。「政治にタッチする人間、すなわち手段としての権力と暴力性とに関係をもった者は悪魔の力と契約を結ぶものであること。さらに善からは善のみが、悪からは悪のみが生まれるというのは、人間の行為にとって決して真実ではなく、しばしばその逆が真実であること」。

「本書のもとになったマックス・ヴェーバーの学生団体向けの講演は、一九一九年一月末にミュンヘンのある書店のホールで行われた」(『職業としての政治』2020年改版所収p.141。引用部分は同書解説者・佐々木毅の文章)とあります。『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』の世界は虚構のものであるという前提で申し上げますが、第一次世界大戦後の、「戦勝国」のライデンが主たる舞台となっています。TV放送分では戦争終了のために、主権国家どうしの対等な条件で、しかも、第一次世界大戦が第二次世界大戦へとドイツがたどることとなったとされる事象を排除した上で、和平交渉が成立します。しかし、百年を経て、場所を変えて、マックス・ウェーバーの言葉が、現実の国際政治の中で悲劇的な形で起きてしまったのです。アイリスの故郷は争奪の対象となる資源が「何もない」村だという設定でしたが、(たしかにウクライナは世界の農業大国ではありますがそれではない要因によって)「戦争」が起きてしまったのです。

 人は、言うでしょう。

「アニメと現実を混同するな」

 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の物語が完結したと斎藤滋氏が表現するには、「TV放送のあとの『外伝』、そして『劇場版』の間には戦争がなかった」ということが間接的に描かれていると、筆者は解釈しています。

 実際の世界史では、第一次世界大戦のあとに第二次世界大戦が勃発し、その間の大戦のなかった時期は、「戦間期」として刻むことに、異論はなかったことでしょう。もちろん、いくつもの「戦争」はありましたが、2022年2月24日正午(日本時間)からは、主権国家の正規軍どうしによる、市民を巻き込んだ、「戦争」です。

 この「戦争」によって、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の鑑賞者の多くの認識する「世界」が変わってしまったのです。月を見て、その欠けたるところに白い花を重ねて思いをはせることは、戦時にあっては、きわめて困難な営みです。王女も、十歳の誕生会の月下の庭園での出会いの後に、戦争が始まって結婚どころではなくなったと語っています。

 貴兄貴姉の「愛」する方の身を案じられるかもしれません。
 
 筆者は、ロシア学徒として、言論によって、「国益」を守る立場になりそうです。キョンが『劇場版涼宮ハルヒの消失』の最後の部分で、「オレは『こっち』の世界を守る側の人間になっちまったようだ」と語っていますが、朝倉涼子は俺の嫁を標榜する筆者は、こちらの「国益」を守ることにしました。

 株式会社京都アニメーションという豊かな土壌から、アニメーションという形で、「世界」へと発信しつづけることを祈念して。一ファン(門外漢)として、多くの人が絵や文章や解釈とともに #PrayForKyoani  をかかげるように、筆者も祈りを捧げます。


2022年7月18日11時0分(註)
                                           東京都町田市 
                                                                   神谷 英邦 KAMITANI Hidekuni 拝

(註)京都アニメーションのYouTube公式チャンネルにあわせて拙稿をアップすると、黙祷の時間を重複してしまいます。Noteの投稿予約は30分単位で行われますので、祈りを捧げる時刻を終えた、最初の「30分」である11時0分に設定しました。

【追記】
2024年1月3日。改めて拙稿を読んでみると、数字の半角・全角のバラツキが気になりましたので、改めました。ついでに、2023年に追加した拙著のリンクを追加しました。

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