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月が綺麗ですね。

 「月が綺麗ですね」。
 
 中野貴文「古典との出会い方」荒木浩 編著(2020)『古典の未来学』(文学通信)pp.397-405 に、冒頭の言葉を手がかりにした論文がある。「論文」というよりも一般読者向けに書かれた「エッセイ」というべきかもしれない。
 
「今、あなたと同じ月を見ている」。
 
 貴君は、2019年12月13日に会った、一次会会場から二次会会場へと行く道すがら、筆者にこう言った。
 
「神谷(かみたに)君が、博学だということは、よくわかった(笑)」。
 
 『古典の未来学』を購入した筆者は、ひょっとすると、教養というものが、他者との優越性を誇示する時代の、時代遅れの人間だということを証明しているかもしれない。ちなみに、中野(2020)の論旨は、正反対である。次回放送で最終回を迎える大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の「原作」は、『吾妻鏡』だという。たとえば、壇ノ浦の平家滅亡(安徳天皇入水)のシーンでは、『平家物語』ではなく、『吾妻鏡』の記述にもとづいた描かれ方をされているとされた。
 
 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は「三谷幸喜」氏の作品だということについて異論を唱えるかもしれないが、三谷(みたに)さんと苗字の音がちかい、筆者(神谷:かみたに)にとっては、ちょっと悔しい。なぜならば、筆者は古典を権威づける(他者への優越を誇示するものとして使う)生き方をしてしまい、三谷幸喜氏は『吾妻鏡』という古典を使って多くの人々を楽しませるものとして作品に昇華させたからだ。
 

 
 承前。上記にリンクをはった拙著には、セリフの中で、九条道家という人物が登場する。大学日本史では、「九条道家」の名前がどこで出題されてもおかしくない。筆者の前職である家庭教師を今でもしていて、日本史を選択する大学受験生であれば、必ず、「九条道家」の名前を刻みつけることだろう。なぜならば、彼または彼女にとって、他の多くの受験生よりも秀でているということを答案用紙に反映させるためには、『日本史用語集』(山川出版社)の読み込みが不可欠だ。
 
 こうして文章にしてみると、大阪府警外事課の協力者(スパイ)としてロシアに関する情報を(時としては手段を選ばず)収集していた顔の方を、表の顔にした方が良いかもしれない。
 
 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。序盤では、『曽我物語』が基調となっていた。「原作」が『吾妻鏡』だと見抜いた方であれば、同時代の文学史・歴史に登場する『平家物語』よりも、『曽我物語』を前半の主流に見抜いたのではないだろうか。
 
 『鎌倉殿の13人』では、こうだった。
 京都大番役から伊豆へ帰ってきた北条時政と伊東祐親。北条館に、工藤祐経が不衛生でボロボロになってやってくる。工藤は、伊東祐親から受けた仕打ちをわかってもらおうと自らの貧窮を訴える。やがて、伊東祐親の嫡子・河津祐泰を殺害する。河津は、曾我兄弟の父親。
 
 後年、曾我兄弟は工藤祐経を討って「仇をとる」ことになるが、『鎌倉殿の13人』では(本当は鎌倉殿・源頼朝を討とうとしたが)、鎌倉殿(源頼朝)への謀反なんてありえねえ、ということになって、「仇討ち」ということで処断された。本当に狙ったのは源頼朝のクビだという大陰謀だったのに、源頼朝(大泉洋)の毅然たる演技の前に、「違う!」と叫んだ曾我の動揺した表情(見事な演技)は、総集編からははずされるのかな。
 
 「鎌倉殿」という権力・権威を中心として、名将が次々と粛清や非業の死をとげる、「人の情」や「人知」をこえた物理が働いていた。和田義盛にいたっては、「鎌倉殿」(源実朝)との仲も良好であったのに、粛清された。
 前段のパラグラフを、本日(たとえば、2022年12月13日)すらすらと読むことのできる方のうち、たとえば来年の今頃(2023年12月13日)にすらすらと読むことができるのは何割くらいだろうか。
 
「私は、日本史ではなく世界史(地理)を選択したので、わかりません」
 
 という方がおられたならば、フランス革命(1789)期の政治闘争を例にした方が理解してもらえるかもしれない(そうでもない、か。汗)。筆者は、それで別にそれで構わないと思う。「知っている」ことを自らの優越性を採点官にわからせるには、そうすることでしか自らの能力と意欲を証明することのできない「受験」という世界だけのことだからだ。現に、中学受験の星座の暗記でいやけがさして「空を見上げる」ことに苦手意識を植え付けられたのが、筆者自身である。
 
「月が綺麗ですね」。
 
「今、あなたと同じ月を見ている」。
 
 2022年11月8日。皆既月食・天王星食で、多くの方が、「同じ月を見ている」時に、筆者は何をしていたか。
 
 その1週間前にはノーマークだった(アーニャも知らなかった)アニメ『SPYxFAMILY』で早見沙織さんの演技に感銘を受けて、CD4枚を注文し、そのCD4枚を友人にLINEで自慢していた。今は、早見沙織『Awake』を iPodTouchに同期して、この曲を再生させながら眠りについている。
 
 3年前の今日・2019年12月13日。
 
 3年前も、今も、筆者は、小説を執筆している。
 ネタバレすると、日本史のちょっとマイナーな知識を、トリックにする。

【追記。当時執筆していた小説は下記リンク。アマゾンkindle(電子書籍)。今のところ、トリックにした「日本史のちょっとマイナーな知識」を誰にも気付かれていないもよう。(2024年2月27日)】


 
 二次会の宴が終わる会計の時のこと。
 
 お釣りの2,000円を、貴君は渡してくれましたよね。
 
「定期、持ってないやろ?」
 
 という、誰もが納得できる、やさしい、言葉をつけて。
 
 いつか、きっと。
 
 みんなに会えるのを楽しみにしています。
 
 私は、ここにいる。
 
 3年前の七夕も、3年前の今日も、今日という日も、東京都町田市に。
 
 2009年12月12日(13年前の昨日)。東京都町田市に住民票をうつしたのですが、いまだに、スカイツリーにもお台場にも東京ディズニーランドにも東京ディズニーシーにも行っていないのだけれど。まぁ、いっか。個保販で大阪出張にからめて彼女はUSJ(大阪市)に行ったけれど、個保販で営業拠点の大阪をまわっていた、大阪生まれ大阪育ちの筆者は、実家は今も大阪市内にあるけれど、USJに行ったことがないのだから、数学的帰納法という名の「演繹」をもって、観光地には縁がないことを「証明」される人生も、悪くはないよ(結構楽しい、よ?爆)。


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