見たら買え:『南北朝武将列伝(南朝編)』

 亀田俊和・生駒孝臣 編『南北朝武将列伝(南朝編)』(戎光祥出版)は、見たら買え。

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2021年3月1日発行でしたが、「2021年3月1日」には入手困難をうったえる発言がTwitterで観測されました。3月8日に「重版」が決定しましたが、週刊少年ジャンプで北条時行を主人公とする連載漫画が登場するなど、入手困難になることが想定されます。価格は、定価:2,700円+税。筆者は高額転売に否定的な立場をとっていますが、古書店等がアマゾンに出品して定価に配送料と手数料を購入者負担とするのは、書籍市場と出版社・書店・消費者にとってプラスだと考えています。

 ここでは、本書が市井に出回った意義が最も大きいと思った、「四条隆資」について述べます。お手元に『南北朝武将列伝(南朝編)』があることを前提に書いている点はご了解ください。

 「蟷螂の斧」とは何か。蟷螂(とうろう)とはカマキリのこと。その項目を探すと、「『とうろう(蟷螂)が斧をもって隆車に向かう』に同じ」とあり、当該項目を読むと、「(カマキリが、前足をふりあげて、高く大きい車に立ち向かうの意)弱者が、自分の力をかえりみないで、強者に立ち向かう。無謀で、身のほどをわきまえないことのたとえ」とあります(日本大辞典刊行会編集(1975)『日本国語大辞典 第十四巻』小学館)。

 祇園祭とは何か。元大阪人の筆者が京都の祭りについてデタラメを書くのは、さすがにはばかられます。デタラメとは、自分の生い立ちに関わる事象について親しみと敬慕をもって洒脱な文章を書くことです。ここでは東京大学入試問題を引き合いに出しましょう。

 「京都の夏の風物詩である祇園祭で行われる山鉾巡行は、数十基の山鉾が京中を練り歩く華麗な行事として知られる。16世紀の山鉾巡行に関する次の(1)―(4)の文章を読んで、下記の設問に答えなさい。(中略)(3)上杉本『洛中洛外図屏風』に描かれている山鉾巡行の場面をみると(中略)蟷螂山、傘鉾があとに続いている」(東京大学2020年(前期)日本史第2問。筆者は『2021―駿台 大学入試完全対策シリーズ 東京大学<文化> 前期日程・上(2020-2016)』、いわゆる駿台の青本(過去問)からの引用を行いました)。

 亀田俊和・生駒孝臣『南北朝武将列伝 南朝編』の四条隆資の項目で執筆者の花田卓司先生は「隆資の事績については、すでに平田俊春氏の研究に詳しく[平田一九七二]、新たに付け加えるべきことはほとんどない」としていますが(p.285-286)、話の枕の「蟷螂の斧」「祇園祭」だけでも筆者は上記3段落を書き加えることができるという冗談はスルーして、花田卓司先生(1981生)や筆者(1980生)の生まれる前の文献を市井に送り出されたことを、非・歴史学徒の一人として心より御礼申し上げます。

研究業績にはカウントされないかもしれないですが(←「科研費」など周辺語句で検索すると研究・教育を取り巻く厳しい環境を忖度いただけると思います)、大河ドラマ『太平記』(1991年放送、2020―2021再放送)で足利高氏(のち尊氏)と後醍醐天皇との初対面の場面に居合わせながらも、大河ドラマで描かれなかった活躍が、これだけまとまって世に送り出されたことは特筆するべきことだと思います。

 週刊少年ジャンプで北条時行に出会った小学校低学年。彼(彼女)が北条時行について知りたい、と思った時に本書が市場から姿を消しているかもしれない。そんな時に備えて、○年後(そう遠くないでしょう)のサンタさんが、今のうちに「見たら買え」を実践するのも有効。2021年5月には「北朝編」刊行される予定だそうです。北朝編に「土岐頼遠」が大活躍していると、お子さんの知的好奇心を大きく刺激することでしょう。

子どもの成長は、親にとっては残酷なほど「はやい」らしいですよ。

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