「岬の兄妹」を観てきました。
「身体障害のある兄が自閉症の妹に売春をさせて生活する」。
この前振りだけで、相当な勇気と覚悟がいったのですが、
知人の映画関係者が揃って絶賛するので、
覚悟を決めて新宿バルト9のレイトショーに行ってきました。
ただ、大前提として、私は「当事者」なので、
おそらく確実に、一般の人とは見方も、受け止めたものも違うと思います。
私について箇条書きにするとこんな感じ。
・19歳の一人息子が軽度の自閉症と知的障害を持っている。
・息子と死んだら楽だなと思ったことは一度や二度ではない。
・障害児の母になって16年の間に
親子の心中事件や、生活保護を受けられずに餓死した人たちの
報道記事をかなり積極的に読んでいる。
・それらの報道について、ただ自分と同じような人たちが、
ひとりふたりと「脱落」していっただけだというような認識を持つ。
・自分たちも今日を無事に終えるので精一杯、
言わばだましだましで16年生きている。
ただ…当事者とはいえ、私の子は男の子です。
私がこの映画の前半の売春の描写を正視できたのは、
子供が男だったという点は大きいと思いますし
これは、女の子の障害児を持つ親御さんには、
耐えられる映画ではないように思います。
この映画は当事者に向けて作られてはいない。
なので当事者は無理に観ないで良いようにも思いました。
この私のあまり一般的ではないポジションからの感想になってしまいますが、少しメモしてみたいと思います。
「健常者だけの世界」で生きている人に。
世界はたまに病気をする程度の健常者が大多数で、
障害のある人については「小学校のときに何人かいた」程度にしか
接点がない人が多くいます。
とくに、成人した重度障害者は家の中で過ごすことが多いので、
特別に福祉に目を向けない限り、日常には見えない存在です。
そんな彼らの日常生活が、貧困の光景とともに、容赦なく描かれていました。
・意思の疎通が少ししかできない。
・成人した彼らの全裸に日常的に触れる。
・成人して力が強くなった彼らに暴れられたら
全力で押さえつけ、ときに暴力を用いないと制御はできない。
・行方不明になり、探しまわり、保護されて見つかる。
・徘徊しないように家の中に鎖に繋いで閉じ込める。
・性被害の痕跡を見つける。
「健常者だけの世界」で生きている人には、
このへんの「彼らの日常」の描写だけで衝撃的かもしれない。
日本の映画作品としてみても、ここまで描いた作品はないように思います。
私にとっては、息子とは比べものにならないほど重たい障害を持つ
息子のクラスメイトたちやその親御さんと接して見てきた経験から、
すべて「あるある」でしかなく、そこは特別胸を痛めることはなく観れました。
まあ、現実ですね、と。
「健常者だけの世界」で生きてきた人の中には、
この映画で描かれるこの現実を「地獄だ」と感じる人が多くいると思います。
たしかに地獄かもです。
でも、私がこの映画を観終わったとき、最初にぼんやりと思ったことは、
「強姦は "魂の殺人” と云われるほどの最低最悪の行為なのに、
望んだ相手とするそれは、人の体温を感じて幸福を受け取れる
最高の時間になる、その不思議さ」についてでした。
売春という形ではあるけど、
妹は男性たちとのそれをけして嫌がっていないんです。
(少なくともこの登場人物は。)
本人は嫌がっていないのだけど、
兄も、友人の警官も、診察する医者もみな、胸をひどく痛める。
そこにある「倫理観」は、
健常者の感覚で培われたものにすぎないということ。
これが、この映画の核心の部分のように、
当事者家族である私は思いました。
障害者の性については踏み込むことが怖い領域の問題で、
これが正しいという結論など出せるものではないです。
正直前半の売春の性描写はえぐくて、
観始めたことを後悔するレベルでしたが、
ある登場人物が現れた瞬間に、映画の空気が変わります。
それが、私が日本の映像の中で初めて観たであろう、
小人症の俳優さんの登場シーンです。
ここから先は、映画を観ていただいたほうがいいので、
ネタバレをこのへんにしておきますが、
序盤の「地獄」のような光景が、
映画を観終わったときに、本当に地獄だろうか…?と自問してしまう、
そういう不思議な後味の作品でした。
日本の映画として。
これを映画関係者の方が絶賛する理由は、
やはり表現の自由さからだと思いました。
今の日本の映像業界は、映画は委員会制で、ドラマもスポンサーありき。
携帯会社がスポンサーのTVドラマで、
携帯電話を破壊するシーンがNGになった話や、
煙草を吸う描写への市民団体からの猛烈なクレームの話、
障害者は清らかな存在として描くのがギリ、
ほかにも、残酷な子供の死体を写してはいけなかったり
(綺麗な死体か、足だけ)、
破天荒な性格の登場人物が車の後部座席で
シートベルトをちゃんとしてたりと、
とにかく、バカバカしい表現規制が山ほどある現状の中で、
それらに辟易している日本の映像関係者が、
この映画を絶賛しないわけがない。
(なので…映画関係者からの賛美は、
少し差し引いて読んだほうがいいかなとも思うぐらいでした。)
「岬の兄妹」には題材も含め「日本の映画界として衝撃的」な描写が
多くあり、それはとても喜ばしいことなのは確かです。
1本の映画の感想としては、
「これは現実に起きていることで、”あるある”だ」
私は少なくともそんな感じです。
だけど、知っている人が少ない”あるある”なのは間違いないので、
こうして映画の形で、多くの健常者の方の前に差し出されたことを、
とてもすごい一歩なのだろうと思っています。
とはいえ、2回観たい映画ではないです(苦笑)
簡単に人に勧められる感じでもない。
韓国映画を見慣れてる人なら大丈夫でしょう。
剥き出しのいのちは、無様で、美しい。
そんな感じです。
上映期間が短そうですが、興味を持たれた方は映画館で是非。
追記:2019.3.14
多くの健常者の方々は毎日たくさん働いて、
たくさん納税することで、すでに十分に社会に貢献しているので、
必要以上に「こっちに目を向けて」と言うのは
私個人の考えとはちょっと違うのですけど、
観られた方の感想の中に、
「生活保護や障害者年金は?」
「行政が介入してないのがリアリティがない」
「寓話的」って仰ってる方を見かけたので、一応こういう実際の出来事を。
▼姉(42歳)は失業中で病死(脳内血腫)
知的障害のある妹(40歳)は姉の死後に凍死
http://mamastar.jp/bbs/comment.do?topicId=2050545
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