舞台「幸福な職場」
谷口賢志くん出演の舞台「幸福な職場」を観てきました。
はじめにお話しておくと、私の一人息子は現在17才で、
特別支援学校の高等部に在籍しています。
軽度の自閉症と知的障害があり、
身体的にはてんかん発作と重度の不整脈があります。
障害は3才のころに正式に診断されたので、
私は障害児の母としては14年目、14才です。
障害者を雇用した会社の物語…という前情報を見て、
正直、ちゃんと観れるかどうか不安がありました。
「ちゃんと」とは、障害児の母になって14年経つ私でも、
自分の感情を閉ざして、ある程度ブロックしておかないと、
心が壊されそうになるような危ないもの(事件・ニュース)が、
この世には一定数あるからで、
でも、せっかく役者さんが目の前で頑張っているのに、
それを感情を閉ざして観たくはない。
「ちゃんと」開いて観たい。
はたしてこの作品は、最後まで観れるかな…。
そんな不安を抱えながら、客席につきました。
始まって、養護学校の先生が土下座をしたあたりで、
「ああ、無理かも(辛すぎるかも)」と一瞬感じましたが、
それ以降、物語は当事者の心を "過剰に" えぐることなく、
過激な表現や、残酷な表現を避けられるだけ避けるようにして、
温かく、優しく進んでいきました。
観客を号泣させるような、目を背けたくなるような、
しかしこの世のあちこちで確実に実際に起こっている悲劇を、
入れようと思えば入れられただろうに、
そうしない脚本と演出を、いいなと思いました。
感動ポルノではない、
実在する会社の物語を、過剰に味付けせず、ただ伝える。
"引き算"を重ねた、上質な仕上がりのお芝居でした。
舞台上で専務が気づいて彼女のために整備していく
彼女をサポートするための職場作りの方法論(最適化)は、
現代の、現役で障害者をサポートしている当事者にとっては、
既知のものではありましたが、
新幹線が開通する前という時代背景を考えると、
あの会社の経営者の方が、彼女をサポートする方法に
"手探りで" 辿り着いたことは、まさに奇跡のような出来事で、
こうして物語にするに値する素晴らしい歴史だと思います。
余談ですが、
彼女にラベルを貼る仕事を教えているシーンで、
「その教え方じゃ、シールは上から重ねて貼ってしまうよな…」
と思って観ていたら、やはりそのようになって、
ちょっと笑ってしまいました。
うちの息子も、シールの上にシールを次々貼ってたなと、
思い出して、懐かしく思いました。
それはまぎれもなく障害がある証拠の1つなのだろうけど、
私は、それを愛しい思い出として笑えるぐらいには、
息子の障害を受け入れ、息子との人生を愛せているんだなと、
これを書いていて、改めて思いました。
ただ悲観することしか出来ない時期もありましたから。
ちょうど明日、息子は就労先の候補の1つに面接に行きます。
今は、多くの企業が障害者雇用を進めてくださっていて、
「最適化」の進んだ環境が整っていることも少なくありません。
演劇では馴染みの深い「カンフェティ」さんの折り込み、
劇場で受け取るあのチラシの束も、
障害者支援事業として、福祉施設で作られています。
https://longrun.biz/csr.html
「幸福な職場」のあの専務さんのような人の志は、
現在とても多くの方が、引き継いでくれています。
障害のあるなしに関わらず、
生き辛い時代になってしまっていますが、
世界に、これから先も、
すべての人に「居場所」があり続けますように。
このお芝居の温かさに触れ、改めてそう願います。
関連…ではないですが、
このテーマに取り組んだ他の作家さんのまなざしも、
ご紹介したいと思います。
障害者施設を題材にした宅間孝行さんの戯曲を、
堤幸彦監督がそのまま映画化した「くちづけ」。
泣いちゃうんですけど、おすすめの作品です。
https://www.amazon.co.jp/dp/B00E4MSV3I/
少し古いですが、山田洋次監督の「学校III」が、
huluに入ってましたので、こちらも。
http://www.hulu.jp/watch/824273
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