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セリフ頼り


いきなり宣伝ですが、11日に俺の新作漫画「恋と夏」が載っている別冊少年チャンピオン4月号が発売されたので買って読んでください。

地道にYouTube活動をしてきたからか、今回はいつもより感想を多く頂けている。みなさんあざっす!

昨日の夜、信州読書会の宮澤さんの雑談配信でも感想をいただけた。一ページ目の夕立のシーンを良かったと言ってもらえて安心した。しかし、セリフがいらないんじゃないかという意見も貰ってしまった。

勿論、自分でも完璧な漫画だとは思っていなかったが(実際、雑誌が届いて改めて自分の漫画を読んでみたら物足りなさを感じた)、今回の漫画はなんとかセリフも的確に、展開も上手い事いったと思っていたので、ぐらりと来た。納得いくような、そんなこともないような気持ちになり、とりあえず深夜だし、酔っていたので寝た。

今日の夕方、志賀直哉の「好人物の夫婦」という短編を読んだ。

志賀直哉は最近になってやっと読み始めた。難しそうで今まで一切読んだことがなかったが、読んでみると文章がとてもスッと入ってくる感じで意外と読みやすく、内容もめちゃくちゃ面白かった。最近小説をほとんど読んでいなかったけど、志賀直哉の短編を読んだら、やっぱり文学が好きだなという気持ちにさせてくれた。(まだ「佐々木の場合」「城の崎にて」「好人物の夫婦」しか読んでない)

今日読んだ「好人物の夫婦」は、浮気しないで欲しい奥さんと、浮気しちゃうかどうかわからないよ?という態度とっちゃう旦那さんの関係が書かれている短編だった。ネタバレだが、中盤で女中の滝が悪阻(つわり)をしているのが発覚して、夫婦に緊張の関係が起こる。良人は、滝との不倫の事実はなかったが、恋の一歩手前のドキドキ感情は持ってはいた。良人は自分から細君に滝となにもなかったことを伝えた。そして夫婦は緊張から解放され、細君は涙を流して、体をブルブル震わせていた。終わり。というような話だった。

派手な話ではないが、夫婦の微妙な関係と、二人の命のある感情が書かれていてとてもグッときた。会話が会話だった。行動も感情も言動も自然だった。大げさかも知れないが、これが文学か、という気持ちがした。

自然に書くことは、文学作品はみんなできているから、創作では当たり前感あるが、自分の創作で全てを自然に書こうと思うと本当に難しい。

この短編を読んだあと、自分の漫画と、昨日の宮澤さんのアドバイスを振り返った。そしたら少しだけ自分の漫画の物足りなさがわかってきた気がした。

俺は、セリフの多さや、構成の悪さよりも、自然な人間が描けていないのが根本的な問題なんだと思った。人間に対する認識が弱いので、説明的で無駄な印象を与えるセリフを入れてしまい、寒い感じになっちゃう。そんな気がした。

「好人物の夫婦」の最後の方に、良人が細君に女中との潔白を伝えるシーンがある。それを伝えられた細君は俯いていた顔を上げ、良人の眼をじっと見つめ、しばらく黙りこむ。良人に「おい」と強く言われると、ようやく「ありがとう」と言い、じっと見開いた目から涙がとめどなく溢れる。

間や仕草や言動と涙が全部自然で、「ありがとう」だけで細君の心がわかるシーンだった。

そのあとはお互い緊張から解放されてほっとし、思っていたことを言いあいだす。そして凄く緊張していた細君は安心からか体が震えだし、震えながらお湯を飲む。終わり。

この細君の身体が震えてしまうところも、細君がどれだけ強いどんよりした恐怖感みたいなものを持っていたのかが伝わってくる、何とも言えないシーンだった。

下手なセリフは、人物の感情を単純にしてしまうのかもしれないなと思った。人間は、感情と行動と思考などなど全然一致していなくて、そういう複雑でゴチャっとしたものに人間的なものを感じる。そういう矛盾した状態が、自然の人間の姿なのかもしれない。

説明的なセリフはそういう人間的な複雑さを消して、単純なリアリティのないものにしてしまうのかもしれない。「好人物の夫婦」のように、複雑で自然な言葉や行動や思想が全て重なったものになれば、読者に刺さる、頭に残る作品になるのかもしれない。

全部かもしれない、という感じで確信は持ててないが、今のところそんな気がしている。自分の漫画の物足りなさを、志賀直哉の作品や、宮澤さんのアドバイスを通して、俺はそんな風に解釈した。

自然な人間を意識して、不自然で説明的な無駄なセリフを書かない!

一つ大きな課題が出来たが、逆に具体的な課題がある方が、注意深く冷静に創作できると思う!たぶん!でもなかなかいきなり上手くは描けないと思うので、あまり意識しすぎないようにじっくり頑張る。

俺は人間がまともに描けないから、セリフに頼っているのだと思った。人間をちゃんと描けないから、説明的で無駄なセリフを書いてしまうんだと思った。セリフに頼れば、一応は何か情報は伝えられるからだと思う。自然な人間を描けるようになれば、自然と他の構成とか画力とかが後からついてくると思う。理由は特にないが、そう思う。

俺の好きな小説はどれも全部、登場人物がそれぞれ色んな考えや生活があって生きていて、そうやって生きている結果、事件が起き、わけわからない一つの大きな展開になっていく。物語とはそういうものだとは思うが、なんか俺の好きな小説はそれが全部上手く絡まって作られている。しかも作者の強い思想みたいなのがあって、それがその物語によってガツンと伝わってくる。不思議だ。

なんかごちゃごちゃと難しく余計なふうに考えている気がしなくもないが、とりあえず頑張って描きます。

俺は普通に漫画で売れたいし、妥協もめちゃくちゃする。だけど多少のプライドと大きな憧れは持っている。俺も頑張って、生きている人間を描きたい。説明できないゴチャゴチャな感情を描きたい。


















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