実家の母(76)に初めて藤井風を聴かせた大みそか

なんか、実家の親に彼氏を紹介するかのようなタイトルになってしまってるが、ほんとにその通り、私も中学2年生の息子も、藤井風にハマり切ってる自分たちの状況をどのように故郷の母に伝えたものか、帰省してからというもの、なんだかそわそわ落ち着かなかった。

普通に「今、藤井風っていうアーティストに二人ともはまっててなー」なんてつまんない伝え方はできないし、「『彼』はレコード大賞には出ないんかな」「今その話する時じゃない」とかやたらひそひそこそこそ話してる私たちのことを、母も何となく不審に思ってたと思う。

一度、我慢しきれなくなった息子が、車の中で「HELP EVER HURT COVER」(藤井風による洋楽ピアノ弾き語りカバー集)をかけたんだけど、普通に素敵な洋楽のアーティストだと思ったようで、母からは特に何のコメントもなかった。

ところが。12月31日の朝。
「ま、紅白歌合戦見たらわかることだから」と、鷹揚に構えてた私たちに業を煮やしたのか、天からの贈り物としか思えない出来事が起こったのだ。
3人で朝食とってた時に流れたのである。あの。
10月頃によく流れていた、最近はとんと見かけなくなった、docomoのCMが。唐突に。

「ええええーーーーっっ!! 出たよ、出たよ、風くん!」と大騒ぎする私、慌ててテレビにくぎ付けになる息子を見て母も「何よ、どないしたんよ」と不快感をあらわにする。
さあ。覚悟を決めて、カミングアウトする時が来た。

「実はこうこうこうで……」とおどおど説明する私をよそに、さっさとスマホで「藤井風」を検索する母。
まず第一声は「イケメンやねぇ~💛💛💛 完璧に整っとうやんかー、もう出来上がっとうなあー、異国の人みたい💛💛💛」
出た。イケメン頂きました。
母は、ものすごくわかりやすい面食いだ。サッカー選手なら永島昭浩や川口能活。最近の俳優なら林遣都。ものすごくわかりやすい濃いめの美男が好みなのだ。
初めて藤井風を認識したとき、私も、私好みではないにしても、あまりにも「うちの母好みだ……」とは思った。まんまとその通りになったわけだ。
そして、言うに事欠いてこう宣った。
「あんたにしちゃ珍しいねえ」
は!? それは聞き捨てならんぞ。するってえと何かい、私の歴代推しは皆、容姿的には今ひとつだとでも!?

ほどなく、docomoのCMのロングヴァージョンにたどり着いた母。
美しい容姿から飛び出す一人称「わし」にかなり好感を持った様子。

てな感じで藤井風との初対面(?)を果たした母だが、あまりにもテンション高く紅白を待ちわびる私たちに呆れて「私は別に風とやらには興味ないもん」などと通常運転でお正月の準備を進めていた。
「風とやら」って……w まあ、紅白を見ればその凄さがわかるさ、と、私たちも夕食と入浴をとっとと済ませて、リモコン握りしめてその時を待った。

紅白歌合戦を見た方ならお分かりかと思うが、想像のはるか上を行く、本当に、本当に、渾身のステージパフォーマンスだった。

母「凄いねえ………………」

その夜の三年日記に「娘の推しの藤井風を紅白歌合戦で見て圧倒される」と書きつけた母。
さらに、お友達のLINEグループにまで、「よいお年を! 紅白見てます。娘の推しの藤井風を見て圧倒されました」と書き送った母。
前日まで藤井風の存在すら知らなかったのに、若いアーティストを知ってすっかりウキウキしてしまってる母。

10歳頃から常に誰かしらを推してきた私と違って、母は「誰かを推す」ということがとんと無いタイプの人だ。
本人の分析では、人に楽しみを与えてもらうより、自分で楽しみを生み出したいタイプだから(料理や手芸や、絵をかいたり陶芸したり織物したり)誰かに入れあげるということがないのだと。
これからも多分、私がどんなに自分の推しを勧めたところで、母が彼らを推すことはないと思う。
ただ、少なくとも、音楽といえばいまだに自分の若い頃の反戦フォークや歌声喫茶あたりで止まってしまってる母の心に、きらり✨と輝く一つの新しい星が誕生したことは確かだ。

年が明けて1月3日、またしても車中で「HELP EVER HURT COVER」をかけた息子。
すでにそれが藤井風の歌であることは承知している母、「アメリカ人みたいなきれいな発音やねえ。なんでこんなに上手にピアノも英語も出来るんやろ?」とうっとりしていたが、
突然「え?」。
私「何?」
母「この歌あれやん、♪だーれのせいでもありゃしなーい みんなおいらが悪いのか♪ やん!」
そう。アニマルズ「Don't let me be misunderstood」を尾藤イサオが日本語でカバーした曲「悲しき願い」。
母の世代だとそっちなんである。
そっかー、そっちかー……。

というわけで、藤井風を母に紹介(?)することに無事成功した年末年始。
「何もそんな持って回った紹介の仕方しなくても、ふつーにストレートに言えばいいのに」と思われるだろうが、大切な大切な推しだからこそ、変なイメージをつけず、出来る限り、私が彼を思う気持ちに近いものを母に受け取ってほしかったのだ。
何しろ私にとっても、新規の推しができるのは実に20年以上ぶりなもので。

あけましておめでとうございます(遅い)。
今年もこんな感じで不定期に気まぐれに、気持ちが高ぶった時だけ、文章を綴っていきたいと思います。

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