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新作ミドルウォレット


着想と機能

ミドルウォレットの御注文を頂きました。
御客様の御指定は「革の色を黒で、あとはお任せします。」との事でしたので、以前から考えていた機能を盛り込む為に色々と調査する事から始めました。
その機能とはウォレット本体の固定方法です。
ReiLeatherのミドルウォレットに於いて基本的なデザインはバイク乗りに向けたものです。
因みに私自身の定義では「バイクに乗る人」の呼称はライダー、バイカー、バイク乗りというジャンルに明確に分けられるのですが、ここではその話は省略します。
(80年代~90年代にMr.BikeとかMr.Bike・BG誌を読んでいた方、漫画「キリン」を好きな方なら分かって頂けると思います)

話を元に戻しますと、所謂バイカーウォレットと呼ばれるものは本体を固定する場合にコンチョ付きのフラップ、若しくは差し込み式のベルトを用いるものが大半です。
オリジナルのコンチョを作られたりブランド名を有する固定方法等もあって作り手が創意工夫を競っている部分とも言えます。
外観上で最初に目に入る部分ですから御客様に対するファーストインプレッションとしても大事にしたい意匠です。
ReiLeatherでも今までのウォレットではコインコンチョを使っており、主に五銭硬貨を使用しておりました。
何故五銭硬貨なのかと申しますと、戦時中に「死線=四銭を越える五銭」として御守りに使用されていた歴史があるからなのです。
愛すべきバイク乗り達に路上の死線を無事乗り越えて欲しいという思いを込めて使用しておりました。
そして以前は容易く入手出来た五銭硬貨のコンチョも年々価格が上がっており、かくなる上は自作しかあるまいと五銭硬貨を買い集め、コンチョ作りの道具も揃えようかと思っている時にふと、以前見たある動画を思い出したのです。
「コインコンチョを使った固定方法はみんな勝手に真似してるけど、ウチが最初だ」と主張されている某ブランドさんの動画でした。
確かに...言われてみれば...
私自身も何も考えずにコインコンチョを採用していました。
「バイカーズウォレットとはこういうものなんだ」と疑う事もなく、使用するコンチョの種類でオリジナリティを演出しようとしていました。
また、私が革職人を目指す前にコンチョ付きのロングウォレットを購入して使っていた事もあるのですが、そのコンチョが頻繁に脱落していた事も思い出しました。
今考えると恐らく革が厚過ぎでスクリューの掛かりが浅かったのでしょうが、ねじロック剤を塗っても外れてしまうので困った記憶があります。

自分自身が未熟ながらも手縫い専門の革職人である以上、他の方が起源を主張されている技法を用いて今後もそれで良いのか?と自問し、新たな機能、新たなデザインを模索する事にしました。
ここで断っておきますが、これはあくまでも私自身の個人的な葛藤でして、他の方がコンチョを使われる事を批難する意図は全く御座いませんので御了承下さい。

そしてああでもない、こうでもないと脳みそが煮えてしまう程考え込んでいた時にふと着想を得たのがあるバイク用品でした。

それはビンテージのモトクロスブーツです。

これはネットから拝借した画像なのですが、アルパインスターズのスーパービクトリーというブーツです。
旧いモトクロス用のものですが、激しい使い方にも耐えられるタフさをヒシヒシと感じる逸品です。
個人的にずっと欲しいと思っているのですが、なにしろ良いお値段がするのです...
それから初代のマッドマックスに出てきたグースという警官も似たようなブーツを履いておりました。

こちらもネットから拝借した画像です。
彼のブーツはロジャー・デコスターという名ライダーが履いていたもののレプリカでデコスターブーツというモデルのようです。

いずれのブーツも一本のピンとガイドを備えたバックルを有し、ベルトをサッと通して固定し、外れる可能性も低いという機能的な固定方法です。
このディティールだけでも私自身に刺さりまくりなのです。
これを何とかウォレットに組み込む事は出来ないだろうか?と調査・検討を始めました。
まず最初に実際にブーツに使われている金具を入手出来ないかとあれこれ時間を掛けて調べてみたのですが、ビンテージブーツの金具を扱うショップなど見つからず、ブーツそのものを入手する事も考えましたが、コストが掛かり過ぎるので断念せざるを得ませんでした。
実際、入手出来たとしてもウォレットに適するサイズであるか不明です。
次に似たような金具で同じような使い方が出来るものを探してみるうちにコンウェイバックルというものが使えるのではないかと思い取り寄せてみました。

数種類のサイズがあったので一通り揃えてみました。
そもそもこのバックルを思いついたのは、以前レザークラフト教室の生徒さんがこれを使ってバッグのショルダーベルトを作りたいと仰って持ち込まれたのを覚えていたからでして、それまでその存在を知らずにいたので生徒さんに感謝している次第です。
そして実物を手に取って考えると、ピンを挟んで前後に存在するループの部分をどう処理するか悩みます。
ウォレットを手早く開閉する為には二箇所のループ部分は邪魔になります。
一箇所はカットするとして前後のどちらを残すか、ベルトの革の厚みはどうするか...色々な要素を検討する必要がありました。
床革を使って幾つかパーツの試作を行った結果、中央ピンの前部分を切り離して使用すれば良さそうだという結論になりましたが、実際に計算出来る部分と、作ってみなくては分からない部分が混在するのが革製品でもあります。
完成まで致命的な不具合が出ないように祈りながら作り進める事にしました。
今回のウォレットに限らず、幾ら試作を重ねても新作の開発からリリースまでは胃が痛いのもまた日常です。


各部の御紹介

なんと導入部分だけで2300字も費やしてしまいましたが、それだけこのウォレットに込める気持ちが熱いのだと思って頂ければ幸いです。
では各部の詳細を画像と共に解説致します。
まずは全体像から。


コンウェイバックルの根本から始まったベルトが途中ウォレットロープ用のD環を挟んでぐるっと一周するデザインです。
完成するまでベルトの抜き差しが想定通りスムーズに実現出来るか不安でしたが、思っていたより良い仕上がりでとても使いやすいものになりました。
デザイン優先でも機能優先でもない、素晴らしいバランスです。
その秘訣はコンウェイバックルのサイズ感、ピンの後ろ側のループの立ち上がり寸法にあります。
これにベルトの厚みを入念に調整して合わせてあげれば抜き差しがスムーズ且つ不意に外れる事のないベルトとバックルの理想的な組み合わせになるのです。
容量が増えた場合にはベルト穴の位置を変える事も出来ます。
ベルトの脱着の動画も撮影してみました。


素材ですが、革は栃木レザーのブラック、ステッチは自分でライトグレーに染めたリネンを使っています。

開いて左側には三枚分のカードポケットを有します。
二段目の革だけイタリアンレザー・アリゾナのブラックを使って素材表面のコントラストを演出しています。
また、一段目から三段目までポケット口元のラインが微妙に異なります。
これは口元のラインがバイクのタンクからテールカウルに向かう滑らかなラインを表しており、それをずらして配置する事によって走り去るバイクの姿を表現したいという意図があります。

そしてこのポケットの裏側にもポケットがあります。
カードでしたら表裏で合計5,6枚程度を収納可能です。

札入れは一箇所のみですが、御注文頂ければ仕切りを追加する事も可能です。

開いて右側は大容量の小銭入れです。
マチ付きで大きく開くので硬貨の確認も容易です。

ホックには真鍮挽き物のプリムを採用しています。

コーナーガードも新デザインとしました。

表からパーツを張り付けるのではなく内側にアンコを仕込み表面を盛り上がらせています。
これも私物のミドルウォレットを使用した上での改良点です。
内側から加工する事で表面に余計な分割線が存在せずスッキリとして見えるので好きなディティールです。

背面のD環は左右に多少の移動が可能です。
この金具はよりコンパクトなものを見つけたので今後は変更予定です。

ウォレット本体をぐるっと縫い合わせているステッチは表面から完全に沈み込むように加工しています。
リネンが摩擦によってすり減ってしまう事を防ぐためです。
コバもいつも通り丁寧に磨いて仕上げています。

手に持った時のサイズ感です。私の手の平より若干大きい程度でコンパクトです。

ベルトホルダーとウォレットロープも作成しました。


私物のミドルウォレットと比較してみます。

大きさは同じですが、コンチョの有無とコーナーガード、背面のD環の固定方法が異なります。


こちらはイタリアンレザー・エルバマットで作成したもので、使用開始から1年程度ですが徐々にツヤが出てきました。
バイクに乗る時に使っており、コバは多少荒れていますがリネンのステッチの摩滅は一箇所も無く、まだまだこれからも長く使えそうです。
そしてこのウォレットと常に一緒に使っているのがウォレットホルダーです。


バイクに乗る時にバックポケットにウォレットを収めると内部のカードが曲がってしまったりウォレット自体が変形してしまうというデメリットがあります。
このウォレットホルダーに収めてベルトから下げておけばその心配は不要です。


また、このホルダーにはもう一つのメリットがありまして。

ウォレットの内側にはスマホを収納出来るのです。
仕切りを設けているのでガタついたり出し入れに手間取る事もありません。
近場のツーリングや手軽に走りたいときにはこれだけをベルトから下げてサッと出かける事が出来ます。
また、車の運転や電車、バス、飛行機等に乗る際も何ら気を遣う事無く座れるので実は日常での使用もオススメなんです。
全て私自身の実体験によります。
空港の保安検査場だけは取り外しの手間が必要になりますが...

御注文頂ければ御客様の使われている機種に合わせてサイズを調整します。

このホルダーに新作のウォレットを収納してみました。

革とステッチと真鍮の金具。
三つの要素が集合して複雑なラインを織りなす様に見惚れてしまいました。

根底に流れるもの

全てのウォレットをチェックした訳では無いので断言は避けておきますが、このバックルを使用したウォレットは未だ他の方は作られていないと思います。
モトクロスブーツから着想を得た金具の採用が自分でも驚くほどハマったウォレットです。
バイクに乗って36年。
その間に培ったバイク好きとしての無数の知識が今回の成功に繋がったとするならば、表面的な意匠を模倣されても私自身の職人としての自信、そして生み出した作品が揺らぐ事はありません。

モニター販売について

という事で、このウォレットはReiLeatherを代表する作品として大事に作り続けていくべき存在にしたいと思っています。
その為にはより多くの御客様に手に取って頂く必要があります。
現時点でウォレット本体の価格は33,000円、ベルトホルダー及びウォレットロープとのセットで37,000円を想定していますが、今回モニター価格としてウォレット+ベルトホルダー+ロープの3点セットを25,000円にて販売したいと思います。レターパックプラスでの送料込みです。
名入れも無料で承ります。

セット内容は上に添付した画像の通りです。
(ウォレットホルダーは含まれませんが、別途オーダーで受注可能です)
現在革の在庫をチェックしておりますが、数種類から選んで頂く予定です。
モニターをお願いする事になりますが、購入された方が負担に思われるような内容ではありません。
限定数は企画の反響次第ですが、出来る範囲で頑張ろうと思っています。
詳細は明日noteに掲載しますので暫くお待ち下さい。

お知らせ

下記ECサイトでは革製品を販売中です。
オーダーメイドや革製品の修理の御相談はreileater@gmail.comまでお願い致します。

https://reileather.thebase.in/


過去の制作物は旧ブログを御覧下さい。

ツイッター、インスタのアカウントは@reileatherです。

最後までご覧いただき有難う御座いました。














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