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サカキの科の和名の謎


※ note でフォントをイタリックにしたり下線を引いたりする方法がわからなかったので,学名が立体になっています.

発端

 サカキ Cleyera japonica Thunb. について調べようと,色々なサイトをサーフィンしていた.けれどサイトごとにツバキ科 Theaceae,ペンタフィラクス科,モッコク科,サカキ科と表記が分かれていて混乱した.分類体系でこんなにも分かれるものなのかと.

分類体系での違い

 とりあえず Wiki に飛んでみると,クロンキストなど伝統的な分類体系ではツバキ科 Theaceae のモッコク亜科 Ternstroemioidea とされていたが,APG II では異なる科 Pentaphylacaceae へと分子系統的に分類されたようだ.

Pentaphylacaceae の和名問題

 しかし Pentaphylacaceae に対して和名では ペンタフィラクス科,モッコク科,サカキ科と3通りで表されている.なぜか.理由は『日本植物園協会誌 第49号』(2014;日本植物園協会)の APG 分類体系の特集において詳しい. 

 2009 年から 2012 年にかけて、日本語による APG システムの解説が相次いで出版された(米倉 2009、2013、大場 2009、伊藤ら 2012)。これらの科では新たに設立されたり 認識されたりした目や科の和名が必要に応じて提案されているが、特に米倉(2009)と大場(2009)は独立に編纂されたために和名に若干の不一致が生じる問題が生じた。(米倉, 2014)

 その後,伊藤ら(2012)で和名の統合を図ったようだが,万事うまくいくことはなかった.

 さらに,それらを出典に書かれた図鑑やウェブサイトなどでは,一部の和名だけであったり,複数の和名が併記されていたりと不明瞭な状況になっているようで,これに自分も惑わされたという訳である.

今後どうなるのか

 SNS で反応を見てみても,混乱の有様が窺える.

 Y リストとは植物和名ー学名インデックスのこと.米倉氏,梶田氏により提供されている.

 米倉(2014)は「将来的には日本植物分類学会の責任でまとめられた後者の和名が優勢になっていくであろうと考えられる」と書いているが,現2021年7月時点でどういう見解がなされているのか自分には分からなかった.ご存知の方がいれば教えていただきたい...

※ちなみに前述した伊藤ら(2012)は日本植物分類学会監修のものだが,統一見解ということではないらしい.

最後に

 明治期の和訳に振り回される,というのは誰しも経験したことがあると思うけれど,そんな問題は現在でも常に隣り合わせなのだと実感した.外国語で得た知識を自国語で広める重要さと,実際試みるうえでの難しさがある.個人的にも分類学会の手で統一できないのかなと思ってしまうところ.

※ちなみに2016年に APG IV が発表されているが,これは III 以降に蓄積された知見をもとに分類を見直したもののようで,大きな変更には至っていないという.Pentaphylacaceae にも影響しない.

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