【創作】(仮)偏差値=寿命の世界
■2話 博士
この街には頭でっかちな博士と呼ばれる人がいた。
普通なら大学で教授にでもなれば、とてつもないお金を稼げるかもしれない。この世の中は偏差値が全てだ。勉強することが直接長生きにつながるんだ。そりゃみんな大金を払ってでも長生きがしたい。
しかし、博士は人に教えるということをしない。
そんな時間がもったいないからだ。「すべての事を追求し、この世の謎を解き明かしたい。」探偵漫画にでしか出てこないようなセリフだが博士の口癖は”それ”だった。
博士は朝起きて体に寄生させた虫の研究をする。自分の体も実験台の一部だ。擬似体液なんてモノが存在するが、彼にとってはすべてが偽物でしかない。
昼になると化学薬品を混ぜて涙目で換気を行う。漫画でよくある爆発なんてことはしないが、新たな化合物は生体とどのような反応を起こすかわからないらしい。博士の部屋には救命装置がずらっとならんでいる。
夜になると星を眺める。自分で打ち上げた衛生が…自分の発見した星が…どのような発見をもたらしてくれるのか日々チェックしないといけないらしい。
そんな生活をおくっている博士も今年で90歳を迎えようとしていた。
厚生労働省の定めた寿命診断テストというものがある。
ほぼ100%の確率で、偏差値を診断する。つまりその数字が診断者の寿命なのだ。
博士には人間ドックの依頼のはがきと同じ数の寿命診断テストの受験票がポストにはさまっていた。
それは博士の実験への興味、そして寿命への興味のなさをあらわしていた。
夏も終わり始め、セミの死骸を実験の対象物にしようとしていたころ
博士は自分の異変に気付いた。
毎日見ていた顕微鏡があわないのだ
「目が霞んできた…」
理由に気づくのはあっという間だった。いわゆる天才と言われる博士にも”寿命が近づいている”のだ。
毎日研究し、様々な知識をいれたとしてもいつかは寿命に追いつかれる。
「いい人生だ…」
何年座っていないのかもわからないほこりのかぶったソファに腰をかけ、汚いマグカップに、賞味期限がとうに過ぎたコーヒーを注ぐ。
「もう味覚もほとんどないんだな…」
毎日実験の繰り返しの博士にとって、久々に自分と向き合った瞬間であった。
何年も拭いていない窓から空を見上げる。
窓からさす一筋の太陽の光には部屋のホコリがキラキラと舞っているのが見えた。