ヨーロッパリーグ1/8Final VueltaガラタサライSK戦のバルサ観戦ノート

 ちょうど1週間前の10日(木)、バルサはカンプノウにガラタサライを迎えての初戦を戦い、チャビがローテーションを採用したことを始め、かつてペップ・バルサで分析官として共に戦っていたテクニコのひとり、ドメネク・トレントが指揮官としてチャビの前に立ちはだかったことが大きく、バルサはゴールレスのエンパテで1週間後のイスタンブール決戦を迎えた。

 チャビと同じ哲学のもと、プレーの概念と価値を共有する"ドメ"は、バルサのポジショナルプレーの要諦を押さえたバルサ対策を講じている。

 プレーを旋回させるピボーテを徹底的に抑えて自由を取り上げてボールの発進基地にせず、ミドルサードに守備ブロックを構えてインテリオールにはマンマークで前を向かせず、その中盤の劣勢に自動的に加担してラインを下りる偽の9番は放置しても中央レーンを封鎖し、エストレーモにディアゴナルの動きで背後への侵入を防ぎ、捨てる場所と人を作っても絶対に譲らない場所を堅固に守るやり方でチャビに対抗した。

 再建過程にあるチャビ・バルサだが、1月のスーペルコパのマドリー戦に延長戦の末に2-3で敗れ、コパ・デル・レイ1/8Finalのアスレティック戦にも延長戦の末に3-2で敗れて以降、1月下旬から10試合負けなしの7勝3分で3月中旬まで戦ってきている。

 しかし、このイスタンブールのアリ・サミ・イェン・スポル・コンプレクシはヨーロッパでは地獄のスタジアムと呼ばれる場所だ。

 バルサにとって2003-04シーズン当時のUEFAカップ以来18シーズンぶりのヨーロッパリーグ出場であり、グループステージでないノックアウトトーナメントを熱狂のイスタンブールで戦うのは難易度を極めた。宿泊しているホテルでは睡眠を奪う朝まで花火大会、スタジアムではずっと敵愾心剥き出しの口笛と憎悪の雰囲気と、タフな戦いを求められることになった。

 チャビは7日前のガラタサライとの初戦から3選手、4日前のオサスナ戦から3選手を入れ替えてきた。3日後にはサンティアゴ・ベルナベウでのクラシコが控えている状況とはいえ、このイスタンブール決戦に勝利しなければ1/4Final進出の切符は得られず、ミュージアムに存在しないトロフィーを獲得する夢は潰えてしまうわけで、チャビは現状ベストな11人を送り出した。


 予想通りドメネク・トレント率いるガラタサライはコレクティブにミドルサードに14231の守備ブロックを構え、セントラルのひとりを自由に振る舞わせ、その分ピボーテのブスケツにはマンマークで自由を取り上げ、ドブレ・ピボーテはインテリオールのフレンキーとペドリにマンマークで前を向かせず、劣勢の中盤の支援のために下りるオーバメヤンは捨てる代わりにゴール前の中央は固め、両エストレーモにはラテラルと中盤の両サイドが帰陣して質的劣勢を数的優位で補完し、両インテリオールを押し出すことで両ラテラルの進入する場所を消してきた。

 それを織り込み済みのバルサは、左セントラルのエリックがコンドゥクシオンでプンタのゴミスの脇を持ち上がり、ブスケツ番のチクルダウを横目にラインを越えた。バックステップを組み込んだステップワークでマークを外そうとするペドリも僅かな時間と場所を作るも制限されたもので、支援に下りてきた自由なオーバメヤンに預けることが目立った。

 オーバメヤンのポストプレーから前向きのブスケツ、フレンキー、ペドリがボールを受けるも、何れも場所は狭く時間は短く容易にボールを捌けない。オーバメヤンが100%正確に落とせればいいが、雑なボールもあって流石のセントロカンピスタも苦しいプレーが続いた。

 ピッチを拡げるエストレーモは、右サイドのアダマはアイソレーションしたいが、左ラテラルのアーンハルトが心中マークで対応、カウンター攻撃の起点となるアクテュルコールも帰陣してアダマの質的劣位を数的優位で補完、左サイドのフェランもボエに執拗にマーク、逆サイド同様にバベルが帰陣して後追いで内側への侵入にも対処してきた。

 ラテラルが加担しようにも立ち入る場所が制限されて味方のスペースを狭めないバルサのプレー原則に忠実なラテラルは効果的にプレーに関与できない。エリックがドライブでボールを前進させてオーバメヤンにつけるも、そこからの展開がサイドの狭い場所で圧縮されて詰まるという同じ展開が再現された。

 ガラタサライは攻撃的なポジションの選手にもコレクティブに守備のタスクを課すことでカウンターの起点は必然的に低い位置になる。それでもボールを奪った場所から手数を掛けずにロングボールを前線に届けた。中央であればプンタのゴミスのフィジカルバトル、サイドであれはバベルのスピード、アクテュルコールのテクニックに懸けてきた。攻撃のために陣形を崩すバルサだったが、セントラルとラテラルの対応にインテリオールの帰陣で被カウンターを防いだ。

 アイソレーションさせたアダマを活かすためにはフレンキーが離れることの一方、デストがブスケツと同じ高さの内側でプレーすることが必要に感じたが、フレンキーもオーバメヤンを越えて走り込む場所がなくスペースが狭くなることを避けたデストは外側の低い場所に追いやられてしまうことが多かった。

 オーバメヤンがラインを下りて中盤に加わることでガラタサライのセントラルはラインをコントロールしやすく、それによりラテラルも積極的に内側を絞ることでアダマとフェランにセントラルの背後に侵入させることを制限したことで、裏への侵入が読まれやすくなり、バルサ対策により膠着した展開のまま、けたたましいスタジアムに呑み込まれる既の所で藻搔いた。

 圧倒的なスタジアムの後押しを受けてガラタサライもカウンターが鋭い。27分過ぎ、バベルのカウンターから得たサケ・デ・エスキーナからバルサは先制を許してしまう。右からアウトスイングで入れられたボールにマンマークのバルサはニアサイドに4人程度引っ張られてポッカリと空いた中央にマルカォンがフェランの前に体を入れてカベッサで流し込まれてしまった。

 厄介なスタジアムでバルサを知り、チャビのメソッドを知ったドメネク・トレントのバルサ対策で容易でないガラタサライに先制を許したバルサだが、ここから冷静にポジショナルにプレーした。

 そして36分過ぎ、デストが内側の高い位置でのプレーを起点にガラタサライの守備ブロックが綻び、バルサは左サイドに展開、ハーフスペースに侵入したフェランが左寄りに移動して前向きのフレンキーに預け、フレンキーはセントラルとラテラルの間に抜け出したペドリにスルーパスを入れた。誰よりも冷静沈着なカナリア諸島出身のセントロカンピスタはゴールに向かってシュートアクションでデフェンサをひとりふたりと倒してから右足でイニャキ・ペーニャの守るゴールを破って1-1のスコアに戻した。

 このゴールでバルサは勇敢にプレーすることが対策を講じてきたガラタサライを破る手段だと確信、エリックは迷いなく自信を持ってコンドゥクシオン、デストとアルバも背後のスペースのリスク管理に後ろ髪を引かれつつも勇敢にボールを運んで捌いた。このプレーに前線の選手はボールを失わない、ゾーン2での優位性をゾーン3で活かすためのプレーが求められた。

 敵愾心に満ち満ちたスタジアムの影響もあり、今シーズンからのレギュレーションでフエラでのゴールに倍の価値を持たないゲームは緊迫感のある展開のままハーフタイムを迎えた。

 後半開始から"ドメ"の対策に抗うため、チャビは修正を施した。アダマに替えてデンベレを投入した。

 アダマは武器である縦突破でラインを破ってボールとアタッカンテを同一視野に捉えられない状況を作るチャンスメーカーだが、ガラタサライにとっての質的劣位を数的優位と位置的優位で対処されたことで、チャビは両足を遜色なく使えて縦方向にも横方向にも斜め方向にもプレー可能なデンベレに切り替えることでガラタサライの守備の対応を曖昧にしようと試みた。

 チャビの狙い通り、デンベレは右ハーフスペースに曖昧に侵入、対峙するアーンホルトを悩ませ、デンベレにどこまでもついていけばフレンキーがスペースを狙い、デストも高い位置でプレーできた。縦を切られれば内側へ入り、内側を閉められれば縦へ抜けるプレーはガラタサライを動かし、フレンキーとデストのプレーをシンプルにした。

 前半のアダマが不出来なわけでなく、アダマの質に対してガラタサライはチャビが思った以上に数の論理と場所を制限してきたことにより、アイソレーションさせていたはずがアイソレーションさせられてしまったことにより長所を発揮できなかった。アダマ対策を見たチャビはデンベレにシンプルなタスクを与え、選ぶべきプレーを指図した。

 アダマのアイソレーションを活かすためにスペースを専有させるためにもスペースを共有するタイプのフレンキーではなくペドリだったような気がする。ペドリならばデストと場所も入れ替わって役割も交換できたはずだし、逆にフレンキーも左側でスペースを共有するタイプのフェランとの方が相性がよく、アルバとも場所を入れ替えて役割も交換することが可能であり、2列目から前線に飛び出していく長所が活かせたような印象を持った。前半でフレンキーとペドリが限定的にも入れ替わることもなかったから余計にそう感じたのかもしれない。

 デンベレ投入により待たされていたボールを能動的に持つようになったバルサは48分過ぎ、逆転ゴールを奪った。左サイドから押し込み、ブスケツが狭い場所へのパスよりシュートを選んでミドルシュートがイニャキ・ペーニャを強襲、弾かれたボールをペドリが狙うも再度セーブされ、溢れたボールにフレンキーが飛び込んでシュートからパスに切り替えて頭で折り返し、最後はオーバメヤンが右足で押し込んでネットを揺らした。

 スコアを引っ繰り返されたガラタサライは後重心から前重心に変更せざるを得なくなり、ブスケツ番がいなくなった。ブスケツが自由を取り戻すと配球が容易になり、リズムとテンポを上げていくことになった。

 しかし54分、アクテュルコールと競争になったデストがボールを奪ったものの左腿を傷めて(肉離れか)ピッチを退くことになった。代わりにアラウホが右ラテラルに入り、これまでのやり方と変更しながらゲームを進めた。

 アラウホとのマッチアップを嫌ったアクテュルコールが逆サイドに回ったことで被カウンターの脅威が減り、ブスケツがボールを動かすことでアルバが内側に入ってのプレーでブスケツの孤立を防いで支援、アクテュルコールも守備に回ることが多くなった。

 相乗効果でブスケツとアルバが配球の起点になるとインテリオールも前を向いてのプレーが容易になり、ビルドアップではなくライン破壊のためにライン間からデフェンサの背後を狙う動きが多くなった。前掛かりなチームの後方はコンドゥクシオンで持ち上がる必要のなくなったエリック、ピケ、アラウホの3枚が固く守った。

 クラシコを見据えて67分過ぎにフレンキーに替えてガビが投入された。右インテリオールに入ったガビはオーバメヤンの横で前からのプレッシング、プレスバックでブスケツを助け、デンベレの仕掛けに連動してポジショナルにプレーした。

 ガラタサライも選手交代で唯一のゴールの可能性があるアクテュルコールを再び左サイドに戻してアラウホ、ガビ、デンベレのサイドからカウンターを狙ってきた。

 バルサも80分過ぎにピケに替えてラングレ、オーバメヤンに替えてメンフィスを投入してゲームの仕留めと3日後のクラシコに向けた仕上げに入った。後半はデンベレの相手を曖昧にさせるプレーをキッカケに逆転、プランの変更を見逃さずにブスケツがコントロールして静的な布陣での前進とバイタルエリアの攻略で主導権を握った。

 90分が近づくと熱狂のスタジアムは興奮してサケ・デ・バンダのアルバに物を投げ入れてきた。水の入った紙コップだからよくて、ビールの入った瓶だからよくないわけではない。ピッチはプレーする場所でスタンドは応援する場所だ。物を投げ込むことは応援ではなく暴力になるが、イスタンブールのスタジアムは昔から変わらない。ヨーロッパリーグを戦うことはチャンピオンズリーグを戦うのとは別のタフさも求められる。イスタンブールの町、イスタンブールのスタジアム、イスタンブールに後押しされたチームを攻略できたのは価値がある。

 最後までブスケツが緩急とプレーをコントロールしてデストの負傷という代償はあったものの無事に1/4Final進出の切符を得ることができた。ガラタサライの倍にあたる682本のパスを88%の成功率でプレーに組み込んで2ゴールを挙げての勝利は価値あるものだ。カンプノウでの94分とアリ・サミ・イェン・スポル・コンプレクシでの96分、チャビとドメが知略を巡らせ、選手たちが激しく熱く冷静にプレーして難しいゲームを得たのは大きい。

 僅か3日後となるが、順位も調子も無関係で、クラブの矜持と選手たちの意地だけが全てを決めるクラシコに切り替えていこう。

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