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第2回難民・移民フェス レポート

写真/文 南 阿沙美

 雨。11月23日は一日中雨の予報。難民・移民フェスが東京の練馬ではじめての開催となった6月は、梅雨の雨続きの中その日だけ晴れという好天に恵まれた。未知だった来場者の数も想像以上で、どんどん売り切れる各国の食べ物や手作り品に参加した難民や移民の笑顔は太陽の光を跳ね返しピカピカだった。
 今回は「在日クルド人と共に」の方達と協力して、クルド人が多く住む埼玉県川口市での開催。映画「マイスモールランド」の舞台にもなっている街だ。
 数日前からスタッフの間では、どうやらこの日は寒くなるらしいとざわざわしはじめて、そこまでは仕方ないと思っていたが、天気予報では雨マークも登場した。晴れてくれよな……とてるてる坊主を作ったりして、とにかく願うしか無かったが、予報通りの完全な雨の朝を迎えた。
 どのくらいの人が来てくれるんだろうか。お客さんが全然来なくて、作ってきたものがたくさん残って、雨に濡れながらしょんぼりした姿を見ることになってしまうのか。その時は私も買えるだけ買って帰ろう、と思っていた。
 11時のフェス開始の時間。なんと、会場には大勢の人の姿があった。傘をさして、長靴を履いた人もいて。状況(雨)と現実(たくさん人が来ている!)がちぐはぐでおかしな夢を見ている気分!スタッフと顔を合わせて「すごい!すごい!」と喜び、感動しました。興味をもっている人がこんなにいるということ、雨など関係ない、何か協力したい、知りたい、というお客さんの気持ちにあっという間に包まれた。

 前回に引き続き2度目の参加の人、今回参加の人も併せて全部で25ブースほど。
 全部回って全部食べて食レポをしたいくらい全部おいしそう。どうしよう。写真を撮りながらうろうろ。前回売り切れ続出だったのでセーブしなくては。しかし遠慮ばかりしていては、「おいしそう」という見た目の証言しかできないのもどうかと思い、まずはアフリカ出身ミセスRさんのチキンビリヤニを食べた。おいしい!ビリヤニとは簡単にいうと炊き込みご飯だが、スパイシーながらも優しくて、おかわりし太郎になりそうだった。またすぐにでも食べたい。それからロレックス。時計のイメージが強すぎる名前とのギャップがすごくあるけどおやつにちょうどいい、チャパティで卵や野菜を巻いたもの。
 今回は川口での開催で、クルド料理の魅力がより際立った。ドルマ、エキメッキ、高原スープ…… ? 聞いたことないけど見ると美味しそうなものばかりだが列が長いのでまた次回。
 雨の中どこも盛況だったが、ミャンマーの日焼け止めのタナカを顔にした人は見かけなかったのでさすがに今回は出番なしだったのかもしれない。とてもとても可愛いので、次回暖かい日の開催にやってみたいと思います。ミャンマーのたまごカレー食べたいな、しかも200円!?と思ってたら案の定はやめ売り切れてしまった。バナナセモリナケーキはおしとやかなピンク色。
 コンゴのガレットは甘すぎないホクホクの懐かしい味。こういうの好きなんです。
 アフリカ出身のJさんが作るバッグは、今回はシルクスクリーンをほどこしたものも登場して進化!初めて描いたというネコの絵が、あやしくて気になる。私はTシャツを買いました。
 ウクライナの「ディドゥフ」という麦で作る伝統的な飾りを作るワークショップを覗くと、麦ってこんなに可愛らしいんだと再発見。
 チリの料理人はプロならではの素晴らしく美味しい料理だけではなく、クリスマスリースもたくさん制作していて私はブルーのリボンのかけられたミニサイズのものを一つ買わせてもらった。
 その隣のスリランカの方のブースでは、コロッケが美味しそう揚がってくるたびに、写真を撮りながら、おいしそう!カシャ、おいしそう!カシャ、と騒いでしましました。
 ポルベニールブックストアさんは今回も出店。雨で本が濡れないように、ほかのブースよりしっかりと半透明のビニールで入口を囲っていたので、ここだけ外の見えない個室のようになっていた。難民、移民関係の本をどっさり持ってきてくださり、お客さんは今回もたくさん買ってくれたようだ。

 前回、仮放免の方と、来場者が、なんとなく会話ができるような場所を作りたい、ということで設けられた歓談スペース“チャイハネ”。雨ということもあり、自ずと絶好の雨しのぎスポットとなっていたが、無料のイラン式のお茶が飲めて椅子に座って語らえるその場所では、様々な人が席に着いた様子。 TBSラジオ「荻上チキ・Session」を聞いて知った人がいらっしゃり、ミャンマー出身の方から仮放免について色々話を聞いたり、そうしている間に別の方も話に加わったり。入管に収容されたこともあり現在も仮放免の方もいらっしゃり、お茶を飲みながらそこで初めて会った支援団体の方とお話をしたり、日本人の見知らぬ者同士もお茶を手に立ち話になり、こんな天気なのにどうして来たんですか?自分もですが、、、と会話が始まるという場面も。初めての試みだったのだけれど、担当したスタッフの顔からとても有意義な時間であったことがズシンと伝わり、この場所はきっとまたあるといいと実感しました。

 ステージでは、クルドの子どもたちが小指をつないで、民族舞踊を踊る。この時は小雨だったけど、元気いっぱいで可愛らしい。
 主催の金井真紀さんと高谷幸さんと、サヘル・ローズさんのお話。イラン出身で戦争により孤児となり、日本にやってきたサヘルさんから聞くお話に、賑やかな会場でしんと集中した空気となった。前回に続き大澤優真さんのお話では、この楽しいフェスと隣り合わせの仮放免となっている人々の現実を、つらくも知ることから逃げてはいけないと思い知らされる。お話の後は大澤さんの元に資料をください、という人が列を成した。
 ゴスペルなどの歌もあり、ステージの最後は伝統的な技術の師範資格を持つギニア出身の方とトークも愉快な仲間が演奏。楽しくなってテントのない真ん中のスペースに、踊る人が二人現れて演奏のリズムもより力強くなったが、日本人は誰も出てこず傘の中で肩を揺らしずっと見ているが、踊りたそうにしている雰囲気がわかる。もじもじ。出てこい出てこい出てこないかなーと、私は踊り出たいが、カメラを雨から守りながら、写真を撮り続けた。
アフリカ出身の、日本語のジョークもめちゃくちゃうまい彼が、日本語やフランス語や色々な国の言葉で、ありがとうとジャンベを叩きながらありがとうと言っていたのが印象的だった。

 フェスは15時までの予定だったが14時半までということになり、すでに売り切れのブースもあったがまだ品物があるブースではラストスパート。お客さんもラストスパートで何か欲しい、彼らに何かさせてもらいたい、と会場を回る。私も最後に、今回初出店のアフリカ雑貨のブースでかわいいバッグを選ぶ。
 本当に、ずっと雨だったけれど、ずっとお客さんで賑わっていた。傘で皆視界が狭くなっているが、時折開けた場所から見渡すと、人の奥に人、人、人。
 私はオフィシャルのカメラマンとして1日撮影をしたが、来場者の方へのお願いとして、本人が特定できる形での撮影、本人の許可なくカメラを向けることは禁止としている。難民のなかには、居場所が知られることで本人や祖国に残っている家族の命に危険が及ぶ可能性がある。公式の写真についても同じ理由で、細心の注意と、個別に確認をとっている。本当にそれぞれ事情が異なる。写ることが怖い人もいれば、メディアなどにも顔を出して現状を訴えたい人もいるのだ。
 1回目の開催からこの2回目までの間、厳しい状況は変わらない難民の方がほとんどなのだが、長年かかってやっと在留資資格を得られたり、時々希望のある出来事も起きる。誰にでも等しく喜ばしいことが起きればいいのだが、なんともバラバラと、はっきりとした順番もなく、訪れたり、訪れなかったりする。
 ロシア、ウクライナの報道も減ってきているが、辛い報道が減って気持ちの負担が減って楽になってしまっている自分がいることに気がついた。報道のボリュームや日頃の習慣、何を知る知らないで、個人の理解や行動も変わってしまう。
 自分も含め、どうか、実は近くにいる他国から日本にやってきた人のことを知ることをやめずに、暮らしていきたいと思うのでした。


南 阿沙美(みなみ・あさみ)
写真家。1981年北海道札幌市生まれ。2014年キヤノン写真新世紀優秀賞受賞。2019年、写真集『MATSUOKA!』『島根のOL』を発表。2022年、初のエッセイ集『ふたりたち』を刊行。

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