Michal Urbaniak (Poland) Part 1

1970年代のポーランドのヴァイオリニストと言えば、若くして亡くなったZbigniew Seifertと双璧なのがMichal Urbaniak。1943年生まれのUrbaniakは、現在は音楽活動の第一線からは退いたようですが、長きに渡る音楽活動で彼がプログレファンの注目を引く種類の音楽を演奏していたのは1970~1980年代辺り迄と思われます。今回は、その時代を中心に彼の作品(一部関連作も)を紹介してみたいと思います。


Michal Urbaniak's Group - Live Recording
(Polskie Nagrania Muza – 01902 9 59601 2 4, CD, Poland, 2016, orginal1971)

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 Suite - Jazz Jamboree 70 (Tr.1-3)
1.  North Ballad  (6:40)
2.  EJ Blues  (6:01)
3.  Spring  (8:58)

4. Crazy Girl  (7:16)
5. Body and Soul  (5:29)
6. Jazz Moment No.1  (5:35)

Michal Urbaniak: Amplified Violin, Soprano, Tenor & Baritone Saxophone
Adam Makowics: Piano, Hohner Clavinet
Pawel Jarzebski: Amplified Bass
Czesław Bartkowski: Drums

Recorded live at the Warsaw Philharmonic, Warsaw, Poland, January 1971

本作の前にUrbaniak自身の名を冠したバンドでのアルバムは1960年代に2作品あります。オリジナルアルバムのUrbaniak Orcestra - Same Title (1968)と‎もう一枚はUrszula Dudziak & Michal Urbaniak Quartet名義で参加したコンピ盤VA - ‎JJ 69 - New Faces In Polish Jazz (1970、録音は1969年)の計2作品です。つまり、オリジナルのリーダー作品としては本作はUrbaniakにとって2枚目のアルバムとなります。因みに筆者が所持しているのは2016年の再発CDですが、オリジナルLPは1971年のリリースです。一般的にはヴァイオリニストとして名が通っているUrbaniakですが、本作でもそうですが、特に70年代前半位迄はサックスもかなり演奏します。また、これが中々良いので困ったもんです。また、偶然かと思いますが、Urbaniakと同じポーランド出身の鬼才ヴァイオリニストZbigniew Seifertもキャリアの初期はサックス奏者だったのですねぇ。これには何か意味があるんでしょうか?

で、本作、Tr.5スタンダード曲ではオールドタイムな雰囲気ですが、その1曲を除いてUrbaniakの自作曲とTr.4(ポーランドジャズ伝説のピアニストであるKrzysztof Komedaによるナンバー)では、メンバー達の新しい音楽の創造への意欲が漲ります。具体的に申し上げれば、ThirdからFifth辺りのSoft Machineからの強い影響を見て取れます。アルバムのオープニングは3部構成の組曲ですが、パートを追う毎にSoft Machine化。3つ目のパートのSpringに至っては、ドラマーCzesław BartkowskiRobert Wyattを意識した如きシンバルワーク。そしてこの曲の序盤ではヴァイオリンからサックスへスイッチして演奏するUrbaniakElton Deanが乗り移ったような熱演です。ロック色の強いリズムセクションと知的に野蛮にソロを取るヴァイオリンやサックス。鍵盤奏者Pawel JarzebskiMike Ratledgeばりのソロやバッキングは恰もいぶし銀の如し。初のリーダー作で、ここまでやれば及第点でしょう。何歩も前を行く英国のジャズロック系に追いつけという強い意気込みを感じます。これは、この時代に共産圏のポーランドに於いても新時代のジャズへと向かう力強い動きが有った事の記録でありますな。


Michal Urbaniak Group - Paratyphus B
(Spiegelei – 28771-4 U, LP, Poland, orginal1973)

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A1.  Paratyphus B (3:40)
A2.  Valium (12:36)
A3.  Irena (3:26)
B1.  Winter Piece (3:39)
B2.  Sound Pieces (14:57)

Michal Urbaniak: Electric Violin, Soprano Saxophone, Tenor Saxophone, Flute
Adam Makowicz: Electric Piano
Czeslaw Bartkowski: Drums
Pawel Jarzebski: Electric Bass
Branislav Kovacev: Congas
Urszula Dudziak: Vocals, Percussion

Produced by Peter SpringerWolfgang M. Schmidt

Urbaniakを含む前作のメンバー4人に更に2人補充。厳密に言えば前作がUrbaniak's Group名義だったのですが、本作からはバンド名がUrbaniak Groupとなりました。まあ、何かの意図があって変えたワケでは無さそうですけど。で、コンガ奏者とパーカッション兼務のボーカリストが新加入しました。リズム面の強化は、ジャズロックバンドにとっては良い事づくめですね。複雑なリズムも自由自在。それよりも今回問題なのは、ボーカルの方。当時Urszula DudziakUrbaniakの奥さんだった女性ですが、この人がとても一筋縄では行かないボーカルを聴かせます。インプロヴィゼイション込みの強烈なワードレスボーカル(スキャット)なのです。まさに英の歌姫Norma Winstoneに外連味を300%増量した状態。このアルバム以降、彼女の強力なボーカルはUrbaniakの作品には欠かせないモノとなります。

1曲目からUrszula Dudziakの自由奔放なスキャットが炸裂。彼女のワードレスボーカル作法は完全に東欧の民族音楽由来のものと思っておりました。これに関しては、恐らく半分程はそうなのだと思われます。それでは残りの半分はどこから来たのか? あくまでも個人的な考察ですが、それはRobert WyattSoft MachineMatching Moleで盛んに行っていた例の謎のボイス パフォーマンスを手本にしたものと確信しております。Michal Urbaniak Group以前の彼女の参加アルバムは3作品あります。まず前述の1968年発表のUrbaniak's Orchestra Same Title、それから、これまた先に述べた1970年のVarious Artists - JJ 69 - New Faces In Polish Jazz、それと3作品目はUrszula Dudziak & Adam Makowicz - Newborn Light (1972年)となっています。そして、この3作の内60年代に録音された2枚(録音は1968年と1969年、リリースは1968年と1970年)でのDudziakのヴォーカルは、その時点に於いては、まだオーソドックスなスタイルだったのであります。特にUrszula Dudziak & Michał Urbaniak Quartetで1969年10月にワルシャワで行われたInternational Jazz Festival (Jazz Jamboree 69)に出演した際の演奏が収められたライヴ コンピレーション アルバム”JJ 69 - New Faces In Polish Jazz”に収められたスタンダード曲”Misty”での表現力は特筆に値します。それは彼女が正統派ヴォーカルスタイルでも十分勝負になる事を証明しています。ところがその2年後、上記のAdam Makowiczとの共作1972年作”Newborn Light”に於いては、既に本作でも披露されるフリー・スキャットスタイルを取り入れております。つまり、1960年代はオーソドックスだった彼女のボーカルスタイルがフリースタイルに変わったのは1970年代に入ってからと思われます。それは折しもRobert Wyattがライヴを中心にボーカル・インプロヴィゼーションを大々的にやらかしていた時期に符合するワケですね。Urszula Dudziakの衝撃的なヴォーカルに触発されてと言うワケでもないのでしょうが、バンドも前作と比べるとコレクティヴなインプロヴィゼーションの含有率が大幅にアップ。また、東欧的な色合いのメロディをも取り入れつつ民族アイデンティティの主張。この路線で彼等独自のオリジナリティが芽吹いて行くワケです。


Michal Urbaniak Group - Inactin
(Asfalt Records – AR-W97, LP, Poland, 2012, orginal1973)

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A1.  Inactin  (6:54)
A2.  Alu  (4:55)
A3.  Ekim  (5:43)
A4.  Silence  (4:28)
B1.  Fall  (7:39)
B2.  Groovy Desert  (5:00)
B3.  Lato  (8:00)

Michal Urbaniak: Violin, Soprano Saxophone
Adam Makowicz: Fender Rhodes, Hohner Clavinet
Roman Dylag: Electric & Acoustic Bass
Branislav Kovacev: Congas
Czeslaw Bartkowski: Drums
Urszula Dudziak: Voice, Percussion, Effects

Produced by Peter Springer
Recorded at Horst Jankowski-Studio, Stuttgart

この名義での3作品目。楽器の編成は変わりませんが、前2作のベース奏者Pawel JarzebskiからRoman Dylagへの交代があります。バンドの目指す基本的な方向性には前作と大きな変化は無いものの、若干気になっていたUrszula Dudziakのスキャットヴォーカルとバンドの演奏との間の乖離感が上手くこなれつつある様相を呈しております。女性のスキャット系ボーカルがフィーチャーされたバンド、英国だとNational HealthAmanda ParsonsTurning PointPepi Lemer辺りが思い浮かぶと思います。注目点として、上記2つのグループの場合はいずれもバンドの音楽性をリードするキーボード奏者がバンドに居た事があります。National HealthだとDave StewartTurning PointBrian Millerですね。実のところAmanda ParsonsPepi Lemerのスキャットは、かなり作編曲された部分の比率が高かったものと思われるのです。この2人の優秀な鍵盤奏者の手に掛かれば、一見即興に聴こえるスコアを著す事も容易な筈ですな。それに対してUrszula Dudziakが、Michal Urbaniak Groupで行っているスキャットは、かなりの割合で彼女自身の裁量で好き勝手にやっているモノと思われます。まあ、バンドリーダーで当時は夫でもあったMichal UrbaniakでさえもUrszula Dudziakをコントロールするのは困難だったような気もしますが。何と言うか、これはある種”野放し状態”ですかねw まあ、Michal UrbaniakUrszula Dudziakの暴走に依るハプニングを期待しているとも取れるのですが。勿論、聴き手側としてもスリリングではあります。まあそれでも、そんな事を言いつつ、最初に書いた通りバンドの演奏とUrszula Dudziakのフリーヴォーカルの相性は以前と比較して随分と良くなりつつありますけどね。また、ベース奏者の交代については、個人的には良い人選をしたと思います。例えばB1でのアルコ弾き。ヴァイオリンとのデュエットでゆったり始まり、ボーカルを含め他パートが加わってフリーフォームな展開を見せる。ベーシストの力量が光る1曲です。

1973年のポーランド。Mahavishnu OrchestraReturn To Foreverが米ジャズ界を席巻していた時代に、共産圏であった東ヨーロッパにも実力では本場アメリカに勝るとも劣らないバンドが存在していたワケです。まあ、この時代には世界各地で様々な民族性を持ったジャズロックバンドが同時発生していた事実はあります。これは、いわゆるシンフォ系プログレがまだ世界的に伝搬する前の事なんですね。実はプログレジャンルでは、まずはジャズロック系がシンフォ系よりも一足早く世界的な広がりを見せていたという事実があるのです。恐らく英、仏、伊の3ヶ国を除けば、ほぼ全ての国々にプログレが発生してからの暫くの間はジャズロックがシンフォニック系よりも優位に立つ現象は余り語られないですな。一般的にはシンフォニック・ロックがプログレとして成立するには、作品コンセプトが必要だからですね。作品もですが、その背景をキッチリ構築する必要があります。つまり、クリムゾンならピート・シンフィールドが行ったような作業が無いと余り評価されないワケです。ジャズロックのように、その日からすぐ演奏って事は出来ないのですw


Michal Urbaniak Constellation – In Concert
(Warner Music Poland – 01902 9 56807 6 3, CD, Poland, 2018, orginal1973)

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1. Bengal  (17:40)
2. Spokój  (3:37)

3. Lato  (8:05)
4. Seresta  (9:42)
5. Theme  (3:03)

Michal Urbaniak: Electric Violin
Adam Makowicz: Fender Rhodes, Electric Bass
Wojciech Karolak: Hammond & Farfisa Organ
Urszula Dudziak: Vocals, Percussion
Czeslaw Bartkowski: Drums

Produced by Wojciech Piętowski
Recorded live at the Warsaw Philharmonic, Poland, May 1973

ここでメンバーチェンジが発生。ベース奏者とコンガ奏者が脱退し、キーボード奏者を増員しツインキーボード体制となり、元から居る方のキーボード奏者がベースと掛け持ち演奏をします。バンド名もConstellation (星座の意)に変更。しかし、音楽の方向性はさほど変わりません。Urbaniakは本作ではサックスは吹かずヴァイオリンのみを演奏。上記の通り専任のベーシストが居りません。特に本作はライヴ録音盤であることもあって、フェンダー・ローズ兼ベースのAdam Makowiczはかなり忙しそうです。この手はボトムの良し悪しで傑作にも台無しにもなるような種類の音楽でありますので、本来はベースに関しては専任が望ましいところなんですけどね。それを犠牲にしても、オルガン(Wojciech Karolak)とエレクトリックピアノ(Adam Makowicz)のコンビネーションであるツインキーボードは、実に見事な絡みを見せます。2人の相性はスタイルこそ違えど、往年のNational HealthでのオルガンとエレピのレジェンダリーなコンビであるDave Stewart & Alan Gowenに勝るとも劣りません。前作迄は天然系の演奏家の勢力が強い感じでしたが、この2人の鍵盤奏者のタッグに依って構築の度合いがアップしていますね。それと、本作ではコンガ奏者も居なくなったのでUrszula Dudziakもかなり本気でパーカッションを演奏しており多忙です。勿論本作でも、彼女の本業であるイっちゃってるような強烈なフリー・スキャットも健在です。ドラマー(非常に上手い)の演奏スタイルとの合わせ技でRobert Wyattの完成です。全体的に見ると、メンバー全員のモチベーションはMichal Urbaniak Group時代から本作迄の4作品の中で最も高いように感じます。単なる辺境物のフリージャズだと思ったら大間違いです。民族音楽由来のある種プリミティヴなファクターと構築系が高度な合体を果たした凄い1枚です。間違いなくZAOあたりが好きなプログレファンなら気に入る事を請け合います。


Michal Urbaniak Constellation – Historic Concert Live at Warsaw National Philharmonic Hall 1973
(UBX Urbaniak Masters Series – UBX1006, CD, Poland, orginal1997)

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1.  Bengal  (17:35)
2.  Spokoj  (3:30)
3.  Lato  (8:00)
4.  Seresta  (9:40)
5.  Jazz Jamboree 70 Suite  (21:12)
6.  Crazy Girl  (7:00)
7.  Body and Soul  (5:30)

(Track 1 - 4)
Michal Urbaniak: Electric Violin
Adam Makowicz: Fender Rhodes, Electric Bass
Wojciech Karolak: Hammond & Farfisa Organ
Urszula Dudziak: Vocals, Percussion
Czeslaw Bartkowski: Drums
(Track 5 - 7)
Michal Urbaniak: Amplified Violin, Soprano, Tenor & Baritone Saxophone
Adam Makowics: Piano, Hohner Clavinet
Pawel Jarzebski: Amplified Bass
Czesław Bartkowski: Drums

(Track 1 - 4)
Produced by Wojciech Piętowski
Recorded live at the Warsaw Philharmonic, Warsaw, Poland, May 1973
(Track 5 - 7)
Recorded live at the Warsaw Philharmonic, Warsaw, Poland, January 1971

本作品はライヴ・コンピレーション作品。収録音源は全て既発表で上記の2作品から収録。残念ながら未発表テイク、未発表曲等はありません。Track 1 - 4はMichal Urbaniak Constellation – In Concert (1973)からの4曲、そしてTrack 5 - 7はMichal Urbaniak's Group - Live Recording (1971)からの3曲。リマスターされているようで、若干音圧が上がっているように思えます。


今回のPart 1は、Michal Urbaniakのポーランド時代。自己のアイデンティティに基づく最も力強い音楽を演奏している時代とも言えます。そして、プログレッシヴです。Zbigniew Seifertと共にもっと評価されても良い音楽ですね。本文の中でも書きましたが、Soft Machine影響下からスタートしてオリジナリティ溢れるスタイルを確立した時期。続くPart 2では、遂に彼も米国でのデビューをする事となり、世界的に知名度も上がっていく時期の作品を紹介する予定です。

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