XL (Finland) part 2


元Wigwamでフィンランドプログレ界の第一人者だったPekka Pohjolaのバックアップの元、クリエイティヴな音楽を作り続けたバンドXL。Part 2は、その2000年以降の活動についてです。

XL - Surreal
(Pohjola Records – PELPCD 14, CD, Finland, 2002)

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1. PlimPlomLePetitBonBon (5:33)
2. Sir Real (2:16)
3. Surreal (2:25)
4. Hitta Någon Att Tycka Om (4:04)
5. Evil Spirit (4:40)
6. The Dark Lord (4:21)
7. Oktober (4:04)
8. Elohopeaa (3:24)
9. Avanto (7:59)
10. PlimPlom II (3:15)
11. Toledo (6:57)
12. YouAndTheStarsAndTheMusic (4:05)

Arttu Takalo: Midivibes, Sequencer
Jarmo Saari: Guitar, Sampler
Tuure Koski: Bass
Tomi Salesvuo: Drums, Percussion
DJ Bunuel: Sound Effects, Narrator

The XL Orchestra:
Maija Linkola: Violin I
Pekka Kuusinto: Violin I
Manna Lahti: Violin I
Eriikka Maalismaa: Violin II
Kaisa Lauria: Violin II
Anna-Leena Haikola: Violin II
Marjut Kortehisto: Viola
Heidi Toivonen: Viola
Paivi Ahonen: Cello
Eeva-Maria Nurmi: Cello
Mikko Kujanpaa: Double Bass
Patrik Stenstrom: Clarinet
Mika Paajanen: French Horn
Sam Parkkonen: French Horn
Johanna Nousiainen: Harp (tr.10)
Kari Vehmanen: Harp
Alexandra Grimal: PlimPlom Voice

2002年第5作。前作のLive Balletの項で書きましたが、本作よりDJ Bunuelが5人目のバンドメンバーとして正式に名を連ねています。新加入の彼がグループ内で担う役割については、同じく前作の項で少々触れました。それでは、バンドは彼の参加によって実際にどのような影響を受けたのかを見つつ、音楽性の変化が見られるケースが多いと言われるライヴ作品リリース後の初作品である本作全般について書いて行きたく思います。

DJ Bunuelは、その音楽キャリアを、所謂DJとして、1970年代の後半にスタートさせたとあります。XL加入以前の音楽経歴では、良くも悪くも飛び抜けて有名だったという訳でもなかったようです。グループにとっての彼の加入前と後での一番の違いと言えば、一般的に言うところのクラブミュージック的な音作りを施した曲の増加でありましょうか。と、言ってもダンスミュージックではありません。あくまでも曲の構造の話です。まあ、DJが加入した訳ですから、これは誰もが予想する範囲でしょうけど。一方、毎作品でゲスト参加している演奏家達。今回は、なんと!The XL Orchestraと名前を冠して17名のミュージシャンが駆け付けました。擦弦楽器の集団以外にフレンチホルン、クラリネット、ハープ等々。Compose・Arrange担当者にとっては、腕によりを掛けて作編曲する甲斐のありそうな豪華な一団ですよね。Tr. 3、5、6、11等はハンガリーの怪物 After Cryingの近作から近未来色を抜いたような佇まい。バンドの高い演奏力、クラブ ライクな音作り、そしてオーケストラの3本柱が混然一体となりそそり立つような壮観を浮かび上がらせます。しかし、アルバム全体で見た場合、まだまだ未消化な部分が目立つ曲も存在します。

基本的に本作ではバンド(XL)の出自であるジャズの要素は薄まっております。個人的な思いですが、アーティストが立ち位置をジャズの範疇に取った場合、ジャズ以外の音楽テリトリーへの越境が難しいのではと思っております。それでは他の音楽の影響を受けたジャズとは何ぞやという疑問があります。それは一般的には影響を与える側の音楽のイディオムをジャズ側に持ち込んだ状態なのではと思うのです。例えばマイルスのジャック ジョンソンはロックの精神をジャズ側に持ち込んだモノと理解するのが最も分かり易いかと。これは、マイルスが今迄と同じようにジャズの陣地に立ち位置を取り、そしてそこからロックなるものに手を伸ばすという図式では無いと思えるのです。マイルスは権威に胡坐をかく事無く、ロック ジャンルに一時的でも身を置くフットワークの軽さが有ったのではと。つまり、新しい音楽を作る為には、つまらない見栄や躊躇い等は無意味だと。結果、彼はロックなるものの真髄を彼のジャズへと持ち帰ったワケです。偉大なミュージシャンは音楽の質の向上の為になら、どんな苦労も厭わないのではと思うのです。

XLは本作に於いて、自分たちのルーツであるジャズのテリトリーから脱出を図り、様々な音楽要素との接触を試みたと思われます。しかしながら、彼らの場合は収集した様々な音楽イディオムを彼らの本拠地であるジャズのテリトリーへ持ち帰ることはせずに、言わばノンジャンルの地にて花を咲かせたと言えますな。これは、彼らの師匠であるPekka Pohjolaの採った手法に一脈通ずるものではないかとも思えます。しかし前述のように本作では、その音楽を形成する様々な要素のこなれ具合の不完全さを感じる曲もまだ多いかとも思われます。改善の余地はありますな。まあそれでも、一方ではXLの音楽の最終完成形が見えてきた感も有ります。これは次作が増々楽しみになってまいりました。


XL - Visual
(Pohjola Records – PELPCD 15, CD, Finland, 2003)

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1. 6/4 (6:04)
2. Karlekstorst (3:36)
3. Rip (3:53)
4. Summer Song (5:57)
5. Le Baiser Sous La Pluie (2:11)
6. Glam (5:18)
7. Kobolt (5:11)
8. All Ways And For Ever (3:14)
9. Always And Forever (3:57)
10. Amor (5:24)
11. Mrs (2:59)

Arttu Takalo: Vibraphone, Celesta, Marimba, Glockenspiel, Piano, Tublar Bells, Rhodes, Sampler, Percussions
Jarmo Saari: Acoustic and Electric Guitar, Chromaharp, Metallophone, Programming, Synth, Percussions, Bass, Vocals
Tuure Koski: Acoustic and Electric Bass, Percussions
Tomi Salesvuo: Drums, Percussion
DJ Bunuel: Sound Effects, Voice, Vocals, Percussions

Laura Hynninen: Harp (tr. 8)
Alexandra Grimal: Voice (tr. 8), Tenor Saxophone
Kari Vehmanen: Bassoon, Contrabassoon
Jussi Chydenius: Vocal (tr. 6)
Speedy Saarinen: Percussion
Lolo Krusius-Ahrenberg: Voice (tr. 1)
String Quartet:
Pekka Kuusisto: Violin 1
Eriikka Maalismaa: Violin 2
Riikka Repo: Viola
Timo-Veikko Valve: Cello

Produced by Jarmo SaariDJ Bunuel
Recorded at Degerby Ungdomslokalen, Ekenas and Sibelius Academy, Helsinki, at the end of May 2003.

オリジナルアルバムとしてはラストとなった2003年第6作。前々作(4th)のライヴ盤を除けば、前作(5th)と前々々作(3rd)ではオーケストラ並みのストリングスセクションがゲスト参加していましたが、本作では人数を大分縮小したストリングスカルテットの参加に留まったのです。これによって、前作の項でも述べましたが、バンドの持ち味である 超人的な演奏力+クラブチックな音作り がオーケストラと一体となり、EL&Pの「Pirates」発祥、そしてAfter Cryingが受け継いだ、つまりオケ入りプログレの王道スタイルとでも言うべき作品になる筈と予想した本作だったのですがねぇ・・・w 

元々はXLはジャズに出自を持つミュージシャンの集合体ですが、大方の欧州の音楽家は程度の違いはあれ根っ子にクラシックの素養を持つ事が当然と言えます。そしてズバリ言えば、この件がヨーロッパのジャズと米国のそれとの最も大きな違いと言い切れます。XLのメンバーでも、特にArttu TakaloJarmo Saariの2人はクラシック音楽に関する深い造詣を有しているものと思われます。実際、彼らにとってはオーケストラ入り楽曲の作編曲もお手の物です。

そんな事もあってXLは自らの足場を、その初期の音楽活動に於いては重きを置いていたジャズの範疇から、自由で捉われが無いニュートラルな地平に移動します。そして様々な音楽の素材を多様なジャンルに求めつつ、それらをヨーロッパの伝統的なクラシックの手法でまとめ上げる。更にクラブ音楽の味付けをプラス。それにより出来上がった汎欧州的楽曲。結果として、個人的にはそれらがAfter Cryingの向こうを張る存在への萌芽と感じたのです。しかし、予想は外れますwww

どういう事かと言えば、本作品で、彼らはジャズを素材として持ち込んだのです。先に述べた通りジャズは彼らのルーツである特別なジャンルの音楽ですが、ここではあくまでも本作の音楽を形成する素材としての利用です。とは言うものの、彼らは楽しんで演奏したものと思われますねぇ。そしてその分、相対的に(クラシカルな)オーケストラの必要性が薄くなったと思われます。そびえ立つ巨大な音楽、例えるなら交響曲。それが室内楽クラスに縮小したと言うw それでも、彼等は自らの出自たるジャズに再びスポットライトを当てつつ、本作を彼らの最後のアルバムとしたところはミュージシャンの性(さが)と言ってもいいんじゃないでしょうかねぇ。


XL - Cinematic Fantasies: The Best Of XL
(Pohjola Records – PELPCD 16, CD, Finland, 2012)

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1. Sir Real (2:16)
2. Surreal (2:25)
3. Hitta Någon att Tycka om (4:04)
4. Young Blood / Uutta Verta (4:08)
5. (Wish You Were) Mine / (Tyttö Kuin) Toukokuu (5:27)
6. NM (7:10)
7. 6/4 (6.03)
8. Kärlekstörst (3:35)
9. Balls / Pallot (6:13)
10. Milou (4:31)
11. Toledo (6:57)
12. In Dirt / Pohjalla (6:27)
13. Nocturne II (6:40)
14. The Palace of the Great Vizir of Angst / A.S.P. (10:51)

Arttu Takalo: Midivibes, Keyboards, Samples, Percussion
Jarmo Saari: Guitar, Keyboards, Autoharp
Tuure Koski: Bass
Tomi Salevuo: Drums, Percussion
DJ Bunuel: Sound Effects, Voice, Vocal, Percussion

Michael Brecker: Tenor Saxophone (tr. 4)
Pekka Pohjola: Bass (tr. 12)
Kie von Hertzen: Guitar (tr. 12)
Sonny Heinila: Tenor & Soprano Saxophone (Tr. 9, 10)
Alexandra Grimal: Tenor Saxophone (tr. 7)
with
Many Players: as member of Orchestra or Strings Sections

2012年に編纂された彼らの14曲入りベストアルバム。1995年リリースの1stアルバムから2003年の6thアルバム迄のライヴ盤も含む6作品から選曲されております。残念な事に、未発表曲や未発表テイク等は含まれておりません。以下 収録曲の初出アルバムを記します。

1st (Xlent 1995年): Tr.9, 10
2nd (Jukola 1998年): Tr.4
3rd (Jeti 1999年): Tr.5, 6
4th (Live Ballet 2001年): Tr.12, 13, 14
5th (Surreal 2002年) Tr.1, 2, 3
6th (Visual 2003年) Tr.7, 8

全て既発音源ではありますが、リマスターが施された事でそれなりに音質の向上が認められます。それと、現在、特に1stアルバムはレーベルが異なる事もあり他のオリジナルアルバムと比べて若干入手が困難です。2曲だけではありますが、1stからも選曲されておりこれらの収録曲によりデビュー盤の雰囲気を想像する事も可能です。因みに筆者も1st (Xlent 1995年)は所持しておりませんが、本作に収められたXlentの収録曲であるTr.9と10を聴く限りではかなりジャズ~ジャズロックっぽい演奏ですね。予想通りグループはジャズを出発点として立ち位置を移動しながら、その過程で様々な音楽要素を自身に取り込みつつその音楽性を変容させてて行ったものと思われます。


UMO Jazz Orchestra & Special Guests: XL, Lenni-Kalle Taipale, Raoul Björkenheim - Same
(Rytmi - UMOCD 103, CD, Finland, 2000)

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1. UMO vs. XL - NM (7:12)
2. UMO feat. Lenni-Kalle Taipale - The Crunch (7:08)
3. UMO feat. Raoul Björkenheim - Monkey Dance (part III from the Primal Mind Suite) (5:42)

Track 1 - Arttu Takalo: Compose, Conductor
Recorded at the Tavastia Club, Helsinki 25th September, 1998

2000年発行のRytmi-Magazine # 7 (恐らく音楽雑誌と思われる)の付録として世に出たCD。これはかなり入手困難だろうw かつてPekka Pohjolaとも共作でアルバムリリースしたこともある北欧No.1のビッグバンドであるUMO Jazz OrchestraとXLのコラボレーションが、このCDのTr.1として収められております。作曲、オーケストラ指揮にはXLArttu Takaloが当たりました。残念ながら盤を所持しておらず、サブスク、Youtube等にも音源は見当たらずで未聴の為コメント出来ません。因みにTr.2のLenni-Kalle Taipaleはフィンランド人鍵盤奏者。Tr.3は知る人ぞ知るアヴァンギタリストRaoul Björkenheim。それぞれ、UMOとの共演曲が収録されております。


今迄、誰もまとまった形でレヴューした事の無いだろうXLについての記事を、初めてnoteにアカウントを取得した記念で書いてみました。元々XLについては特に思い入れが有る訳では無かったのですが、今回ある程度真剣に聴いてみて気付く所も多いもんです。それなりに興味深いですな。まあ今後も不定期にではありますが、気が向けば、このような誰もレヴューしないようなアーティストのまとまった記事を書こうかと思っております。もし、希望のアーティスト等有れば基本的にリクエストは受け付けますが、不可能な場合もあります。全く知らないアーティストも存在しますから。悪しからずです。宜しくお願い致します。 Mill Reef

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