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みんな猫になる

スーパーで買い物をしていたら、
友達の松本さんとばったり会った。

久しぶり!どっかでお茶でもどう?

と私が誘って、いつも行く喫茶店へ行った。
しばらくして

あー、もう行かなくちゃ。夕飯の支度の時間だわ。

と、松本さんが面倒くさそうに言った。
私が

ねえ、今日の夕飯何にするの?

と尋ねたら、

うちは、みんな好き嫌いが多いから、
毎日変わり映えのないメニューだよ。

と、松本さんはかったるそうに答えた。

毎日毎日、夕飯の献立を考えるのは面倒で、
たとえ今日をなんとか乗り切ったとしても、
また明日がある。終わりなき苦しみ。

私もまた、同じ苦しみとスーパーの買い物袋を抱えながら、在宅勤務で、自宅にもうひと月以上、自宅の居間をホームオフィス代わりに使っている主人と、春休み中、バイトも行かず、自室に閉じこもりっきりの大学生の息子の待つ自宅へ戻るのだった。 

ただいまー。

いつも通り、何も返事なし。
居るんだったら、おかえりくらい言え、
と思いつつ、玄関先に目をやると
見たこともない猫が2匹座っている。
玄関のドアは閉まっていたし、
一階のドアも閉まっているのに、何処から入って来たのだろうか?
とにかく猫を外に出さないと。うちの犬と喧嘩になったり、ノミを置いていかれては大変。
扉を開けて、シッシッ!と2匹を追い払らおうとしたが、2匹は出て行くどころか知らん顔をしている。
外から激しい雨の降る音がしてきた。今夜はうちに居させてあげよう。もしかしたら明日、飼い主が探しに来るかもしれない。そう思い、私が玄関に上がると、2匹はリビングに向かってパタパタと走り出した。

リビングに入ると、2匹はテレビの前に置いてあるソファに乗っかっていた。2匹は同じ模様をしていたが、片方はあまり毛艶がなく、もっさりした感じだった。もっさりした方は、床にお腹を出して転がりはじめ、もう片方じっとテレビを見ている。

へー、猫って、なんだか人間みたい。
お腹出して寝てるところなんか、
旦那にそっくり。

思わずぷっと吹き出してしまう。時間押せ押せの夕方、ちょっと心が和んだ。
それにしても、旦那と息子は何処に行ったのか。もし二人が帰って来て、この猫達を見たらなんで言うだろうか。兎に角明日、この子達の飼い主さんを探さないと。

近所のスーパーで猫達の餌を買って
うちに帰る途中、また松本さんに会った。

ねえねえ、聞いて。うちに帰ってたら
リビングに猫が3匹もいたんだよ。
ちゃんとドア閉めて出たのに、何処から入ったんだろう?


彼女も猫達の餌を買いに来たらしい。

猫って、餌を作らないでいいから
食事の用意楽だよね。うちの旦那や子供達とは
大違い。

そう互いにいい合って、私達は別れた。

うちに戻ると、いつの間にか愛犬も混じり
猫2匹と仲良く遊んでいた。うちの犬は猫が嫌いなのに珍しいな、と思いながら夕飯の支度。
二人、何処に行ったんだろう。スマホも部屋に置きっぱなしだ。

夕飯の時間になっても帰って来ない。
猫達が騒ぎ始めたので餌をやった。
それにしても遅い。だけど二人がいないと
静かで落ち着いてご飯が食べれる。こんなに落ち着いた時間は久しぶりだった。

お風呂にゆっくり入って
出て来ても、二人は帰って来る様子はなかった。猫達は犬を真ん中にして、主人のベッドで眠っている。
もう時計は12時をまわった。とりあえず今夜は寝よう。あの二人を探すのも明日でいいや。もう少し、私は一人の時間を楽しもう。

ていうか、このまま一人でもいいかな・・・

そう呟いたとき、眠っていた2匹の猫が、
急に起きあがって私を見つめた。

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