赤い公園全曲考察60「木」(猛烈リトミック)

この曲は、個人的に本当に本当に特別な曲で、「ふやける」も「交信」も「きっかけ」も神曲だし、他にもまだまだ特別な曲はあるんだけど、それらのどれをも超える特別さがあります。それはもちろん、ずっと何だかわからなかった黒盤白盤のインタルードの謎という伏線を回収する曲だからでもあるし、黒盤の「塊」の最初で開けた扉を本当の意味で閉めてしまうような曲に感じるっていうのもあります(津野さんもライナーノーツで、本を閉じる時のパタンっていう無機質な音を表現したかった(要約)と言ってます)。でも、それだけでは片づけられないような魔力がこの曲には備わっていると思います。何度聴いても震えるもん。

当然、黒盤白盤以前に作られた曲なわけで、歌詞も当時の難解で分かりにくい頃のまま。ただ、「今更」や「交信」に通ずる「SOS感」と、「くい」や「お留守番」に通ずる「幼少期感」のイメージはどうしてもくっついてきます。ここからは本当に勝手な妄想をさせてください(この後、何度も「病」という言葉が出てくるけど、特定の病気のことを指すわけでもないし、津野さんが病んでるとかそういうことを言いたいわけでもないのでご注意を)。

「病は気から」って言うけど、本当は「病は木から」の間違いで、病って木みたいな自然から発生するもので、自然に人間にうつっていってしまうものなんじゃないの?それに、そのうつった病も、せっかくバンドエイドを貼って治りかけてたのに、はがしちゃったら治らなくなっちゃうよ。

つまり、この子はなりたくもないのに自然と病にかかってしまって、せっかくそれもバンドエイドを貼って治りかけてたのに、はがして治らなくなっちゃった。だから応急手当てをしてほしいんだと思うんです。でもなんで治りかけてたのにわざわざバンドエイドをはがして洗っちゃったんだろう?治りかけのバンドエイドが汚くなっちゃったのか、治ったかどうか様子を見たくなったのか。でもそれはきっと、この子が病を治さないほうがいいと一度は判断したからじゃないかと思います。何のために?きっと、その病は音楽を作るために必要だった。

だからこの曲は、これまで目を背け、蓋をしてた過去の嫌なことに音楽を作るために向き合い、それを受け入れる歌だと思うのです。もちろん黒盤白盤の時からその決意表明はしたかったけど、その頃だとまだ時間尚早で、ただのSOSソングに聴こえてしまう。だから来たるべき時のために細切れにして入れておいたんじゃないかなって思うんです。それがようやくここに来て「助けて」って言うだけじゃなく、過去とか病を受け入れることができるようになった。歌詞にも「誰みたいに 何みたいに なれたかな なれるかな」ってあるように、ようやく「誰かみたいになれた」んだと思います。「木」はそういう決意の曲なんじゃないかなと思うんです。違う?考えすぎ?そうかもしれないけど、ま、捉え方は人それぞれでいいじゃないですか。

一応津野さん本人の発言も貼っておきます。「これはデビュー前に書いたもので、それこそ、“病は気から”って言うけれども、気とかじゃなくて普通にポンポン病がくる感じが自分はしていて。まあ、今はそんなこと考えないですけど。それをどうにか歌詞にしようと思って、でも、そのときはCDを出すとか出さないとか、そんな話もなかったぐらいの頃だから、まあいいやーってなって。なんか、それこそさっきちーちゃんが言っていたような、絵本を説明する、じゃないけど、とりあえず木の絵を描いて、それをじっと見ながら歌詞を書いていたんですけど(笑)。で、これ、自分にしかわからないような、自分でも言葉で説明するのが難しいような歌詞だから、ずっと曲として出せなかったんですけど……出せなかったんですけど、今回、アルバムの最後にぴったりなんじゃないかと思って、持ってきました」

あながち間違ってない気もする(でも言葉にするのが難しいって言う歌詞を、本当はどういう歌詞なのか、インタビュアーにはもっともっとしつこく聞いてもらいたかった気もする)。こういうとてつもないメッセージを、めちゃくちゃな理論のめちゃくちゃカッコいい曲に載せて、はるか前から用意してたっていうんだから、赤い公園は本当に本当に恐ろしいバンドだと思います。この曲が最後にあるおかけで、「猛烈リトミック」はどこか遠いところ、深いところは連れて行ってくれる作品になってると思います(最初の試聴会の感想にもそう書いた)。

そんな歌詞のことも考えられたのか、考えられてないのかは誰にも分からないけど(誰も考えてないと思う)、「猛烈リトミック」という作品は第56回 日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞します。受賞の瞬間は飲み屋でワイワイやったなあ。本当おめでとうございました。アルバム単位で見ても、この作品は本当に本当にとてつもない作品だと思います(語彙力…)。


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