赤い公園・津野米咲さんと僕⑬

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2019年3月。下北沢ガレージで、たまたま知り合いのバンドのライブを観に行って楽屋に挨拶しにいったら、つのさんがポツンと事務所にいてタバコを吸っていました。遠くの町に引っ越して現場以外で会うこともなくなっていたからか、その時はせきを切ったようにいろんな話をしてくれました。新しい家のこと、最近のこと、なぜか恋の話になり、「男のバンドマンなら出会いはたくさんあるけど、女性バンドマンは出会いがないんだよ!」と笑いながら怒ったりもしていました。それから「Twitterを辞めようと思ってる」という話もしてくれました。「なんで?」って聞いたら、「なかなか言いたいことが言えなくなった。気軽に呟けなくなった」とだけ言っていました。それ以上詳しくは聞かなかったけど、フォロワーも増えてきて、あれは、何か気軽にツイートしただけで反対意見の人を傷付けちゃう、みたいな意味だったのかなと思います(例えば、の話ですが、「いちごおいしい!」と呟いただけで、いちご嫌いの人を傷つけちゃうかもしれないし、その人から何か言われてしまうかもしれない。ひいてはそれがバンドの評判にも直結してしまう……みたいなことだったのかな、今にして思えば)。それに、未成年で元アイドルのメンバーが入ったわけで、昔のように誰とでも距離が近いままでいるわけにもいかず、SNSの使い方も変わらざるを得なかったのかなとも思います。昔だったら無条件で、「えー、そんなのやだよ、寂しいよ」なんて言ってたと思いますが、その時は何となくつのさんの気持ちを理解しました。結局、つのさんは最後までTwitterをやめなかったけど、以前のようにファンにリプライをくれるなんてことは無くなっていったし、その後、更新頻度は明らかに減っていきました。でも、バンドが大きくなるっていうのはそういうことだと思うので、しょうがないと思っていました。

その直後、新体制後初のツアー「Re: First One Man Tour 2019」がスタートします。初日は先日つのさんに会った下北沢ガレージで、赤い公園を近くで観れるのは嬉しいけど明らかにキャパが間違ってました(きっとそれも、日頃お世話になっていたガレージへの恩返しだったんじゃないかな、と思います。ガレージはバベルに次ぐ赤い公園の第2のホームだったと思うので)。セットリストも新曲が多くて、「赤い公園変わったな!」という感じ。特に1曲目の新曲の歌詞がめちゃくちゃ良くて、サビの「片道切符で僕ら未来に行こう」というフレーズは頭から離れませんでした(後にそれは「HEISEI」という曲だと判明します)。

アンコール後のMCで理子さんがグッズ紹介をしていると、急にひかりさんから「今回のツアーのタオルはなんで片道切符なのかな~。気付いた人いるかな~」とクイズが出ます。誰も答えないので、思わず「1曲目の歌詞に出てきたから!」と答えたら、メンバーみんなから「記憶力良すぎ!」「頭の回転早すぎ!」「もしかしてiPhoneとかで録音してるの?」と言われました(録音なんてしてないけど、してたとしても初日なのにいつ聞き返すんだよー笑)。たった1回の演奏で、誰もそこまで歌詞なんて聴いていないかもしれないけど、自分にとって「HEISEI」はそれくらい印象に残る曲でした。このツアーではグッズ売り場にメンバーが出て来てファンと挨拶を交わしていて(そんなこと何年ぶりだったろう。理子さんにお客さんがどんな人たちなのか見せるためだったのかな)、友達と並んでいると、つのさんが理子さんに「こいつはこないだ紹介したね。こいつらいつも前の方にいるやつらだから。アイドル時代にもいたでしょ、そういうファン」と笑いながら言っていました。無表情のスタッフがどんどんファンをはがしていて、本当、アイドル現場みたいになったもんだと思いました。

後の4月30日に、当時未発表曲だった「HEISEI」の歌詞を知りたい、とTwitterでつのさんにリプライを送ったら、全員宛に素敵な手書きの歌詞を載せてくれました。Twitterのリプライに反応してくれたのはこれが最後だったかもな。そう、この日で平成が終わりました。

あ、その後しばらくして、ライブの予定もないのに「ゆうパラ」がお察し会(お休みのため前週に2回分収録する)になったので、久しぶりにDMで「もしかして扁桃腺の手術?」と送ったら「なんで分かった!?すげえな!」と返ってきたことがありました。ちょっと心配だったけど、すでに手術は終わっていて「今日は朝から超元気!」と経過は良さそうでした。曙ブレーキ事件以来ずっと続いていたDMでのやり取りは、これが最後になりました(2019年7月)。

つづく

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