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味のしない記憶【幽霊船日記】

・書きたいことはいくつかあったが書くには至らず、「早く書かなきゃ」と思うのも無駄に気が逸るだけなので、しばらく日記はいいかと置いたままにしていた。義務で日記をつけるのは本意じゃない。気が向いた時に書こう。

・気が向いたので書く。


・寝不足なまま出かけたので外出先で寝てしまわぬようにドライハードなミンティアを数粒摘んでいる。カフェイン。脱法の中毒性物質。化学的アプローチで人々を眠気から遠ざけてくれる物質。実際眠気は無くならないし、次に布団に入った時の眠りの質が悪くなるだけだと思っているが、お守りとして飲んでいる。個人差なのだろうか。

・ミンティアと私の歴史は長い。出会ったのは小学6年生のころだ。少ないお金で購入できて、電車の中でも食べることができるため、塾通いのお供としてよく買っていた。小さい頃の私はお金を使う対象が本しかなく、買い食いっぽいことをするのに憧れていたのもあるんだろう。多分叱られないだろうに親からミンティアの箱を隠していた。

・いろんなフレーバーのミンティアを買ってはそのパッケージを収集していた。今も実家の引き出しにびっしり入ったままだろう。新しい味が販売されると喜んでコレクションに仲間入りさせた。私が一番好きなフレーバーは「ベリーなんたら」だった。ビビットなピンクのパッケージでベリー系の果実のイラストが施されていた。口に放り込んですぐに噛み砕くのが好きだった。ベリーの甘酸っぱさの味と香りが一気に口内に広がり、鳥肌が立つような感覚になる。塾の宿題を家で仕上げながらそれを食べていたら、一晩で完食してしまった記憶がある。それくらい美味しかった。残念ながら期間限定物だったので今はもう売ってない。

・乗る電車の方面が同じ塾生とよく一緒に帰っていて、帰り道、私の買った刺激の強いミンティアで盛り上がった。名前はちゃんと覚えていないが、白いやつ、青いやつ、そして黒いやつ(ドライハード)が刺激の強いミンティア三人衆だ。白いやつは最弱、それでも初めて食べた時は舌が痛くなるほど痺れた。青いやつは白の上位版。ミント風味が強く鼻が一瞬で通るようになる。黒いやつ、今も食べているやつだが、これが間違いなく一番強い。青と比べてミントの感触は無く、刺激だけを鋭くした効率的な食べ物。味という味はわからない。ただ痛い(もう慣れたけど)。多分これが「ドライ」というものなんだろう、と私は思っている。こういった刺激の強いミンティアを友達と一緒に食べて我慢比べして遊んでいた。

・黒いやつは、口の中でかっ転がしていると舌が麻痺してきて、なぜか「甘み」みたいなものを感じるようになる。これが本当に味なのか脳の錯覚なのかはわからない。熱々の鉄板に氷を押し付けたときの接している面のようだ、と思ったが共感されたことはない。あと、黒いやつを食べた後に飲むお茶は美味しい。とってもcool。

・当時は一粒食べるだけで悶絶物だった。今じゃ全く苦しくない。これは経験的な「慣れ」なのか、それとも老化に伴って感覚がにぶくなっただけなのか。どうなんだろう。子供は味覚が鋭敏で、ピーマンの苦味が大人より強烈に感じられてしまう、というやつなのか。そうなのか。もうあの時のように、友達と舌見せ合って辛さの我慢比べはできないのか。したいと思わないけど。少し切ない気分になるし、別にどうでもいいなという気持ちもある。エンタメを求めて黒いやつを食べているわけじゃないので、カフェインがきちんと脳に届いてくれさえすれば味はどうでもいい。ドライハードだ。

・カフェイン摂取方法でエナジードリンクがあるけど、あれを私はいまだに嫌っている。なんか……嫌だ。エナジードリンクを飲むことにアイデンティティを見出している一定数の人に対する不信感も原因の一つだが、一番嫌なのは「体に悪いのに味が美味しい」ことだ。ミミックみたいなやつ。体に害しか無いのに、私はうまいですよ、舌が喜ぶ素敵な味してますよと近寄ってくる。しかも本能的な快楽だ。避け難い。怖い。中毒レベルで飲んでいるやつを見たことがある。どうなっているの。その点黒いミンティアは良い。美味しいわけじゃないし。中毒になったやつも見たことがない。極めてクリーンな体に悪い眠気覚まし。

・二粒食べたのに全然眠いが。眠気を覚ます一番良い方法は寝ることです。カフェインを摂取するとそこそこ長い間体に残存するので、午後、特に夕方以降は摂取するのを控えましょうね。



・良いね……


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