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メルカリの出品者のアイコンがマイメロだった

見知らぬ人との思わぬ出会いに、胸はときめく。

犬にたまたま懐かれて、散歩中の飼い主さんとたわいのない世間話をする時。

何気なく入ったコンビニのレジに佇む、かわいい店員さん。

天気雨に降られて、偶然にも同じ場所で雨宿りしている人。

そして今回は、メルカリの出品者とのやり取りで。

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先日、いきものがかりのバンドスコアを買った。

とはいえ楽譜といえども定価で買うとそれなりにお高いので、安直にお安くリーズナブルに中古品を購入できるメルカリでポチポチと探した。

商品の詳細を見てみると、なんと900円程度で「新品同様」のようだ。
これは買うしかないで???と思い、気がついたらボタンを押してた。

Newtralという楽譜を買った。出品者は花子さん。
アイコンがマイメロだった。

「いかにも」地雷のような雰囲気を感じつつも、お金の振り込みの話になるとびっくり。対応がめちゃくちゃ丁寧だったので、脳内で地雷と思ったことを訂正謝罪した。

何回も顔文字を使ってくれた(絵文字ではなく「顔文字」というのがポイント。)上対応も早く翌日には投函してくれたので、すごくスピーディーで思いやりのある人だな、と好感度が2くらい上がった。

単調に見えがちな取引メッセージだけでも、世代や性別によって個性が出るのは、なかなかに面白い。オモロー

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2日後、楽譜が届いた。

なかなか自分の住所と本名をマジックペンでびっちり郵送物に書く人なんてそんなにいない気がするので、包みを見てびっくりした。

しかも、驚くことに本名がメルカリの名義と違った。
本名、花子じゃないんかーい。花子なのに花も子もかすっていないやーん。

そしてピラピラめくって目次を見ると、なぜか数曲の項目に丸印がつけられてた。

バンドかなにかでこれらの曲を練習したんだろうか、一人で練習するために丸をつけたのか、なんでこの曲を選んだか。

そんなことを考えてたら、その楽譜はなんだか、自分の知り得ない場所で過ぎていった、時間と想いが濃縮されたもののように思えてくる。

届いた楽譜を見て、それはとても「新品同様」の商品とは言えなかった。

紙はくせで折り曲がってるし、髪の毛が挟まってるし。フィルターでもかかってたのかなと思うくらい、写真と実物は違っていた。



なんでこの楽譜を売りに出したんだろう。




それはもう手元に残しておくよりも、お金にして甘いものとか、美味しい物でも食べたほうがいいと思ったんだろう。

きっと花子さんにとっては、何事にも使えるお金の価値がその楽譜の価値より上回ったんだろう。

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価値はどうして作られたんだろう。

自分の願いや欲を満たしてくれる物に価値は生まれる。

私たちが欲しい物を手に入れるためには、その欲しいものの便利さと同じくらい便利なものとで交換しなければならない。

ここで私たちは意識しないうちに、あらゆる物に対して価値を与えている。

その必要性や有意性から、それらの道具にお金などによって価格を付け、私たちは取引している。

一方、価格がつけられない物の価値もある。

例えば、寄せ書き。 

一般的には、何処の馬の骨だか知らない人間の文字なんて一切の価値もない。値段もつけられない。

でも、当事者にとってはどうか。
自分という人間に対して、労力と感謝を込めて書かれた言葉を基本的に無碍にすることはない。
自分宛の手紙、激励の言葉、感謝の言葉が書かれているみすぼらしい紙っ切れだって、きっと捨てることをためらう。

それは、忙しない今に気を取られ、忘れがちな思い出に思いを馳せることができる数少ない道具だからだ。

時間は刻一刻と過ぎ去っている。でも、過去の行為は決して消えない。文字は意図的に消そうとしない限り、絶対に消えることはない。

その筆跡を見ることによって、今どこで何をしているかわからない後輩という人間の存在や、筆跡が辿ってきた卒業からのはるかな時間、自分の身に起こった時間の流れを認識できる。

有用性によって、物に値段という価値が生じるのは当然だ。でも、値段という価値が生じないけれども、どうしようもないくらいの大きな価値を持っている物も少なくはない。

それはいわゆる思い出補正によるもの。感情が揺れ動かされる、愛着のある物に対して人は価値を生み出す。

中学生の時に何回も読んだ小説、もう聞かなくなってしまった好きだったグループのCD、絶対に使うことはないであろうトミカの車。卒業アルバム。
捨てようにも捨てられない。(だから部屋が汚い)

値段はつかないけど、自分にとっては価値を孕んでいる。仮に意味がなかったとしても、身近な素晴らしさと遥かな思いにアンテナを張ることのできる人でありたい。



何かに想いを馳せたところで、別に何かいいことがあるわけじゃない。

でも、ちょっとだけ毎日が楽しくなる。気がする。


それだけである。


以上である。

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