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2021年クラウドを選別する視点

アプリケーションプラットフォーム市場(PaaS)における予測の視点。

2つの領域

1つは、Java EEや.NETといった標準フレームワークで構築されたアプリケーションの実行環境を提供する市場で、パッケージソフトウェアで言えば「IBM WebSphere Application Server」や「Oracle WebLogic Server」といったWebアプリケーションサーバに当たるもの。実行環境提供型のサービスとして、Googleが提供する「Google App Engine」をはじめ、Microsoftの「Azure App Service」やSalesforceの「Heroku」、Oracleの「Java Cloud Service」など。

 もう一方が、開発とランタイムを1つのプラットフォームに結合し、ドラック&ドロップや単純なスクリプトでアプリケーション構築できるGUIやビジュアルモデリング機能を備えたモデル駆動型市場。Salesforceが提供する「Lightning(旧Force.com)」を中心に、Microsoftの「Power Apps」、サイボウズの「kintone」、OutSystemsの「OutSystems」など。

実行環境提供型およびモデル駆動型の用途

PaaSを利用する際には、実行環境提供型およびモデル駆動型をそれぞれ使い分けていくことになる。

実行環境提供型の用途の1つは、企業がオンプレミスで構築してきた業務アプリケーションを、クラウドにあるJavaの実行環境に乗せ換えるケース。この場合、アプリケーション領域はそのままで、実行環境だけをクラウドにリフトするイメージ。もう1つが、クラウドネイティブにアプリケーションを構築するネットサービス事業者やモバイルゲーム事業者などがプラットフォームとして利用するケース。ただし、後者はプレイヤーが少ない。

モデル駆動型は、オンプレミスでBPMのパッケージソフトウェアやワークフロー系のソフトウェアをクラウドサービスにマイグレーションする際に、従来の業務システムをそのまま移行するのではなく、新しいビジネスプロセスを構築することが少なくない。この場合、ややバズワードとなりつつあるローコード/ノーコード機能を駆使して開発し、同じ環境で実行する使い方。単に乗せ換えるだけではないことが、実行環境提供型の活用イメージと異なる。

実行環境としてのクラウド利用が進む中、エンタープライズ分野においてGoogle App EngineやAzure App Serviceといったクラウドサービスの利用が拡大していることが、ポテンシャルの高い実行環境提供型市場における大きなトレンドの1つ。モデル駆動型については、以前はLightningがほぼ市場を占めていたが、ここ1~2年で大きな潮流となったローコード/ノーコードの流行を受けて、他のベンダーも大きくシェアを伸ばしている。

PaaS市場における予測

2020年はITシステムの開発や移行案件の中止、凍結などが実際に発生し、2019年度ほどの成長率は期待できない。それでも前年比成長率で13.0%と堅調な成長が続く。2021年以降は成長が加速し、2019年~2024年までの年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は17.7%と予測。

実行環境提供型の背景にあるのは企業のオンプレミス環境に業務システムが数多く残っていること。全ての環境がクラウドに移行するわけではないが、オンプレミスで動いているJavaや.NETの実行環境をクラウドにシフトする流れが加速しており、今後も増えることは間違いない。PaaSに業務アプリケーションが次々にデプロイされることでクラウドサービスの売り上げが拡大することからも、実行環境提供型の可能性は大きい。

モデル駆動型全体の売り上げにおける7割を超えるのがLightningで、旧Force.com時代から大きなシェアを持つSalesforceが30%の急成長を見せることは考えにくく、実行環境提供型に比べて低めの成長になる予測。ただし、Power AppsのMicrosoftをはじめ、サイボウズやOutSystemsなどが急激に成長を続けており、ベンダーによっては30%以上の成長率を見せているところもある。Salesforceの規模にまでは達していないものの、ローコード/ノーコード機能を武器に今後も高い成長率を維持することになるだろう。

テレワークへの移行を余儀なくされ、即席でアプリケーションを用意する必要に迫られた企業もある。出退勤管理アプリやリモート環境でも承認できるワークフローなど、柔軟な環境を整備するためにもモデル駆動型の需要が高まっている。

日本の実態

グローバルなプレイヤーが中心のPaaS。
GoogleやMicrosoftがシェアの上位にあり、全体の売上額ではSalesforceが依然として圧倒的なシェアを持つ。幾つかの国内ベンダーもPaaSを提供するものの規模はまだ小さい。Webアプリケーションサーバをパッケージで提供してきた国内ベンダーも、PaaSを提供するプレイヤーは少ないのが実態。

ユーザサイドもPaaSよりもIaaSを利用する傾向にあるのが実態。「Amazon Web Services(AWS)」や「Microsoft Azure」に自分たちが利用していたアプリケーションサーバのソフトウェアをそのまま搭載し、従来通りの使い方を選択する傾向にある。つまりクラウドへのリフトはするものの、単にオンプレミスの実行環境を載せただけで、コンテナのようなクラウドネイティブなモダン化されたアプリケーションへのシフトはされていないのが実態。
PaaSの実行環境にはJava EEや.NETの最新環境が用意されるが、日本の企業がオンプレミスで利用しているのは、カスタマイズしたアプリケーションを動かすための古いJava環境であるケースも少なくない。PaaSで自社のアプリケーションを動かすことができない事情から、アプリケーションのモダン化が遅々として進んでいない。

ビジネス環境の変化が激しい今、消費者に最新のサービスを提供しているB to C企業には、常に新しいサービスを短期間のうちに市場に投入し、アップデートをかけていくことが求められている。特に金融業界では消費者が求めるサービスの多様化に対応すべく、従来のモノリシックなものではなく、コンテナ環境で開発サイクルを速め、DevOpsによってサービス更新の迅速化を推進している。まさに消費者と直接ビジネスをするような企業からアプリケーションのモダン化が進みつつあるのが現状。いずれ製造業を中心としたB to B企業もビジネスの変化に追随することが求められる。

Power Apps
Microsoftはタスク自動化ツールとして「Microsoft Power Automate」の提供を通じてRPAによる自動化と「Power BI」を含めた一連のアプリケーションをパッケージとし、そのなかでローコード/ノーコード機能を生かしたモデル駆動型の展開を進めている。多くの企業が「Microsoft 365」を業務プラットフォームとして利用し、コラボレーションツールとしての「Microsoft Teams」の活用も進む。それらの機能と合わせて業務のワークフローやアプリケーションを構築することで、利便性の高い環境を整備できる。 その観点から、Microsoftに対するモデル駆動型の需要は高まるものと予測する。

OutSystems
開発のテンプレート化によって最小限のコーディングで従来の業務アプリケーションが実装できるプラットフォームを提供する。自社のエンジニアリソースでアプリケーション開発を迅速化する内製化を検討する企業が広がり、定型的な開発業務であればインテグレーターの手を借りずともアプリケーションが開発できるOutSystemsに対する期待は高まっているのが実態。

 Power Appsやkintoneはワークフローに絡んだアプリケーション開発に役立つもの、OutSystemsは業務アプリケーションそのものを手軽に開発できるものとして注目される。大手のSIerやコンサルティングファームがパートナーとしてOutSystemsを活用するケースが増えていることからも、今後の広がりが期待できるソリューション。

国産ツールでは、kintoneが注目。規模の拡大が見込まれる。

Googleは「AppSheet」と呼ばれるローコード/ノーコード機能を提供するベンダーの買収を通じて、「Google Workspace(旧G Suite)」の機能拡張を手軽に実施できる環境整備を進めている点も注目すべき動き。

Microsoftやサイボウズ、Googleは、日本におけるメールやコラボレーション系ソリューションの上位ベンダーだが、実は3社ともモデル駆動型が持つローコード/ノーコード機能で自社のソリューションを拡張する環境を提供する。ローコード/ノーコード機能をてこに、顧客のワークフローを中心とした業務基盤を自社のクラウドサービスに取り込んでビジネス拡大につなげたいという思惑が見える。

AWSを展開するAmazon.comもローコード/ノーコードに注力する。2020年に「Amazon Honeycode」の提供を開始している。

プラットフォーム選びの勘所(実行環境提供型を利用する場合)
・単なるオンプレミスの移行先としてだけではない。
・コンテナをはじめクラウドネイティブなアプリケーションがベース。
・他のアプリケーションやサービスと柔軟に連携する。
・新しいサービスを構築することを目指す。
例えばAIのAPIをうまく使って業務に役立てたい、次のステップではビッグデータアナリティスクのサービスを活用して新たな発見をしたいといった将来的な活用をイメージして選択するべき。
・自社のビジネスに必要な機能を幅広く捉えて、そのビジネスを強くするために必要なサービスは何なのかといった視野が求められる。

プラットフォーム選定時の考慮(モデル駆動型)
・ローコード/ノーコード機能を駆使することになる。
・部門のメンバーが使いこなせるかどうか検証が必要。
・社員自身がアプリケーションを開発する、いわゆる“内製化”につながる。
・実行環境だけでなく開発プラットフォームと一体が一般的。
・サービス事業者の環境に大きく依存することになる。
・もちろんデータ移行はCSVなどの抽出機能があれば比較的容易。
・一度構築したアプリを他の環境に移行することは基本的には難しい。

・一度構築した環境はなかなか移行できないのが現実。
・「Notes(現HCL Notes/Domino)」を利用し続ける企業が少なくない。

・モデル駆動型プラットフォーム自体を使い倒していくことが重要。
・ライセンスやサポート、パートナーの存在、事業者の成長性を見極める。
・自社の業務基盤として長く使えるかどうかを見極める。




Thanks

https://kinsta.com/jp/blog/cloud-market-share/

IaaS(Infrastructure as a service)
SaaS(Software as a service)
PaaS(Platform as a service)