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市販モーター慣らしオイルは本当に必要か ~身近な所に答えはある~

タミヤが”メンテナンスの為のモーター注油はOK”とグレーゾーンを少々明確にしたせいか、モーター慣らしに近年「モーター慣らしオイル」がオープンになってきて、便乗で多種多様な物が売り出されている。

以前”ケミカルモーター”は存在が否定的だったり、場所によっては禁止だったり、どちらかと言うと秘め事として扱われてきたのは、知る人は知る話だ。
先に言っておくが、私自身は今まで所謂「モーター慣らしオイル」は使ったことは無かった。

現在はモーター慣らしオイルを誰彼構わず沢山売り出してきてるが、それだけ持て囃され、普及するからにはその主成分は何かと気になり調べると同時に、自分なりにモーターに適したオイルとは何かと、興味本位で文献等からも調べてみる事にした。

色々調べているうちに、とあるオイルの成分が概ね分かったが、基本的には”WD40”を灯油で割ったものが主成分であり、ざっくり計算しただけだが、ある程度数作るとボトル代にもよるが製造単価は下手すると100円程度だろう。販売価格を見るとかなりの暴利とも言える。コレを使うと、あっという間にブラシが無くなりダメになるだろうね😌
他には、例えば”クレ666”が成分に使われていると思われるものや、施術済モーターなら脱磁+接点グリス等の物なども多い。
他にもまだまだ色々あるが、キリが無いので割愛する。

一部界隈では、ある意味「本物」のモーター慣らしオイルとセットの技術により、通常の範疇を大幅に越えた速度と持続力を維持するものも実際に存在する。異常に速いので、多分皆もその速度は何処かで目にしているはずだ。それだけ凄いので特許成分等のパクリ問題やモーターやオイルの横流しなど、話伺った特許元は被害も被ってるし、トラブルにも巻き込まれ、色々心痛めてるようだ。

モーター慣らしオイルと銘打って、「本物」と言えるのは私の知る限りでは極僅かで、その他ほとんどは根拠不明に”ただ回る”って話だけで、酷い場合は売ってる本人さえ成分がどのような効果のあるものか、モーターにどのような利害があるか等をろくに把握していない。ただ初心者等を食物にあぶく銭を得てると言っても過言ではない。

一部除き、高い金払ってまで本当にそんなオイルやモーターが必要なのか?
今回は、その部分に切り込んでいく。

ちなみに本件は、私個人が半年以上の調査・研究・実証実験を繰り返した結果の一部であるが、敢えて細かくは書かないし、私自身はレース等で使う気は特に無く、推奨する気もない事は付記しておく。

私は色々なモーターや機械、カーボンや金属等について文献を調べているうちに、「鉱物油」について色々読み解いて行くことになったが、機械が高精度ほど、純度の高い”ミネラルオイル”がベースに使われる場合が多い(機械等により一概には言えないが)。
また、カーボンを柔らかくするのに”灯油”系油脂が使われる事も元々有名な話ではあるし、金属等の削り出しには色々な”切削油”が使われている。

この内容から考察し、3パターン
○ ミネラルオイル+灯油系化合物
○ ミネラルオイル+切削油系化合物
○ ミネラルオイルのみ
を検証した。

では実際に何を使ったか。
実は、非常に身近な物で簡単に出来てしまう(そこに至るまでにはかなり労力を要してるが…)。

用意する物はオイル3つ+容器と計量器、モーターを回す機材。
今回用意するオイルはなんと
○ 100均にもある「ベビーオイル」
○ 100均にある「ライターオイル」
○ 薬局で買える「グリセリン」

、コストもめちゃ安だ。

ベビーオイルは、その名の通り、赤ん坊の肌に使える純度高めなミネラルオイルで、程よい粘度と適度な親和性を持つ。配合物に入手性等から灯油(ケロシン)の代わりにライターオイル(ナフサ)を流用したが、引火性の観点を考えると大量の使用は避けた方がいい。
グリセリンを用意したのは、金属(特に銅)を、例えば旋盤で削ったりする際に”切削油”を使い、摩擦を減らし放熱させて作業するのだが、切削油(特に銅用)の成分は、ミネラルオイルと「グリセリン」系の化合物であるので、配合オイルでの慣らし時の無駄な摩擦を減らし、放熱を促すことでチューン系等でのブラシ保護まで考えた結果である。

では、それぞれの実証結果に触れていく。
これを見て、もし自分で実験するなら、いきなり目処も無く混ぜるのは危険も伴うので、スタートラインとする配合だけは触れるが、
ベビーオイル10:ライターオイル1(:グリセリン1)
からが良いだろう。
あとは様子見ながら比率を加減すれば自分なりのオイルはできあがる。


○ ベビーオイル10:ライターオイル1
このオイルを使い、まず新品未開封のパワダで検証する。

開封直後の正転

開封直後の後転

低電圧で少々当たり出しした正転

低電圧で少々当たり出しした後転

DCモーターの予備知識 ~素性と方向性を把握する~」でモーターの状態に関する話に触れ、上記結果を見れば本来後転に慣らした方が一般的に伸びやすいのは分かると思うが、今回はあくまでオイルの能力を検証したいので、敢えて正転側に実験した。

このモーターに、上記オイルを軸受及びコミュに都度差し、通常電圧程度で任意で慣らしを入れていく。

慣らし後の正転

慣らし後の後転

ご覧のように、開けぽんからどちらも4000~5000回転が短時間で、かつ伸びにくいはずの正転側に慣らしを振り向けているのに顕著な伸びを示した。

○ベビーオイル10:ライターオイル1:グリセリン1
上記のとおり、切削油の体を為しているオイルであり、銅ブラシ(ライトダッシュ)とカーボンブラシ(スプリントダッシュ)の両方で実験する。

開けぽんのライトダッシュ正転

開けぽんのライトダッシュ後転

これを低電圧で当たり出しし、1000前後回転数上がった状態から、角電池と同じ9Vで短時間ずつ、オイルを差しつつ、後転側にシバキ倒してみた。
様子見ながら数回で約25000に達してたのだが、どこまでイケるかと追試験する。
10回を迎える前には回転数が22000切る程度まで落ちたので、エンドベルを割ってみた。
ものの見事に銅ブラシは完全に磨滅してコミュをブラシの柄で削っていた(ブラシの柄は綺麗に残っている)。
銅ブラシが硬いと言われるライトダッシュでコレはなかなか経験がない(普通はこうなる前に焼き切ってしまうかブラシが破損する)。

しかし、高電圧特有の焦げの様なものは無く、負荷を掛けてる時の高熱は抑えられなんとか手で持てるレベル(普通ならば熱すぎて触れない)であった。
つまり、高電圧下で”切削油”として効率は良かったと言えるだろう。

そしてカーボンブラシのスプリントダッシュでも実験してみる。

開けぽんのスプリントダッシュ正転

開けぽんのスプリントダッシュ後転

コレに同様の低電圧で当たり出しし、同じ要領で今度は7Vで複数回ぶん回してみる。
開始直後にすぐピークを迎え、その後回転数が落ち着いたので、3Vで計測して36000までは確認した。
(確認してなかったが、ピーク時は回転数から逆算すると定格40000回転以上と思われる。)
更に追い込みをかけてみるが、30000回らなくなる。
なので、エンドベルを割ってみる。

綺麗にカーボンブラシも瞬殺されたわけだが、ブラシ面は綺麗だった。

コレはこれで凄い結果で、このオイルは電圧や回数を加減すれば、難しいが短時間にライトダッシュ25000位やスプリントダッシュ40000クラスも作ることが出来ると言う事だ。
ただ、先の配合では切削油としての能力が優秀すぎるのも分かるだろう。敢えて初期配合率の結果のみで、ここから先は触れないが、慣らしが成功したなら、グリセリンを落とす為にも洗浄も視野に考えるべきなのは言うまでもない。

なお、ベビーオイル単品を軸にのみ差しても、慣らしとして効果がある事も確認していて、慣らし後の状態を維持するには、時折メンテナンスにベビーオイル単体の方が良いとも判断出来る。
また本件パターンで作ったモーターやベビーオイル単体で作ったモーターを、数回に渡っての試験走行で何度も走らせた感想は、”効果は概ね持続している”(各々期間が空いているので正確性に欠けるため上記の表現に留めるが、実際ある程度保つし速いw)。

以上の検証から、モーター慣らしにおけるベースオイルには、「ベビーオイル」でも充分に用を足す事を確認した。
あとは配合物と配合率の問題であり、必要ならそこは個々自由に試して欲しい。

ちゃんと勉強すれば、オイル無しでも同程度は慣らすことは出来るし、この結果からも分かるようにオイルは作ることも可能だ。
それでも訳分からないモーター慣らしオイルに手を出しますか?


私的には、勿論オイル等使わず、勉強して仕上げたモーターで正面切って競って欲しいのは本音だが、それが難しい現実も知っている。だから個人で使う事に否定も肯定もしないが、”オイル至上主義”のようにだけはなって欲しくはない。

「本物」と言える一部の物を除けば、一般的に手に入る”モーター慣らしオイル”と大差ない、または超えるレベルのオイルが、身近なもので簡単に実現出来る事を一部紹介したのには、賛否両論あるだろうが、中でも特に初心者ほど情報に流され色々な意味で損をしないで欲しいのと、乱立と乱用に歯止めを掛けなければいずれミニ四駆は廃れるであろうと、私だけではなく多数の方の同じ想いに、今回筆を取った次第である。

本件記事を見て、内心賛同しても批判しても、本人の自由なのでそれは構わない。
真似るのも良し、新しい物を生み出すキッカケになる人もいるかも知れないし、手を出さないと心決める人もいるだろう。
そう思い考えるのは少なくとも、公に批判しかしない者より志高く、ミニ四駆を真剣に大事に思ってると私は考える。

皆が情報に溺れず、大事なものを見失わないよう、素晴らしいレースを楽しめることを祈りつつ、本記事が考えるキッカケになって欲しいと思う。

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