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【まとめ】国家安全保障戦略を読む

令和4年度に発表された新たな国家安全保障戦略について、各項目ごとのまとめメモ。

Ⅰ戦略策定の背景と意図

全般的な国際社会の現状

  • 国際社会は、時代を画する変化に直面している。

  • グローバリゼーションと相互依存のみによって国際社会の平和と発展は保証されないことが改めて証明された。

  • 一部の普遍的価値を共有しない国が、経済的、技術的に発展し既存の国際秩序へ挑戦している。

  • 人類が過去一世紀近くかけてにわたって築き上げてきた武力行使の一般的禁止が、安保理常任理事国によって、あからさまな形で破られた。

  • また、海洋における一方的な現状変更とその試みも継続されている。

  • このような試みによって、途上国は地政学的競争に巻き込まれたり、あるいは追随しようとしている。

  • 一方で、国際社会全体で協力が不可欠な、気候変動、感染症などの課題が顕在化している。

  • 人類の価値観の相違と利害の衝突を乗り越えて解決すべき課題である。

日本周辺の現状

  • 戦後最も激しく複雑な安全保障環境である。

  • 東アジアにおいても、武力侵攻の可能性を排除できない。

  • インド太平洋地域においては、歴史的なパワーバランスの変化が起こっている。(アメリカ軍の優位の喪失)

  • サイバー領域、情報領域を通じた恒常的な攻撃により、平時と有事の境目は曖昧になってきている。

日本国内の状況

  • 少子高齢化・人口減少

  • 厳しい財政状況

  • 社会課題の解決と経済成長のために、貿易や人の移動など、国境をまたぐ経済・社会活動が円滑になされるような国際的な環境の整備が必要。

政策の方針

  • 厳しい安全保障環境の中で、平和と安全、繁栄、国民の安全、国際社会との共存共栄を含む我が国の国益を守っていく。

  • そのために、まず力強い外交を展開

  • 自分の国を自分で守りぬける防衛力を持つ。

本戦略の意義

  • 外交力・防衛力・経済力・技術力・情報力を含む総合的な国力を最大限活用して、国家の対応を高次元で統合させる戦略が必要。

  • 本戦略は、外交、防衛、経済安全保障、技術、サイバー、海洋、宇宙、情報、ODA、エネルギーなどの安全保障関連分野の政策に戦略的な指針を与えるもの。

まとめ

  • 2013年に策定された、国家安全保障戦略における国際協調と積極的平和主義のもとで制定された安全保障法制の枠組みの下で、日本の安全保障政策を実践面から大きく転換するもの。

Ⅱ 日本の国益

1.主権と独立

  • 日本の主権と独立を維持

  • 領域の保全

  • 国民の生命・身体・財産の安全確保

  • 豊かな文化と伝統を継承しつつ、存立を全うする。

  • 日本と日本国民は、世界で尊敬され、好意的に受け入れられる国家・国民であり続ける。

2.経済成長

  • 経済成長を通じて、日本と国民のさらなる繁栄を実現する。

  • それにより日本の平和と安全をより強固なものとする。

  • 拓かれ安定した国際秩序を維持・強化し、日本と他国が共存共栄できる国際的な環境の整備。

3.国際秩序

  • 自由・民主主義・基本的人権の尊重・法の支配といった普遍的価値の維持と擁護。

  • 国際法に基づく国際秩序の維持と擁護。

  • 特に、インド太平洋において、自由で開かれた国際秩序を維持・発展させる。

Ⅲ 日本の安全保障における基本原則

1.安全保障の方針

  • 国際協調を旨とする積極的平和主義を維持。

  • この理念を国際社会で政策として実行しつつ、将来にわたって日本の国益を守る。

  • 日本を守る一義的な責任は日本にあるとの認識のもと、必要な改革を実行し、能力と役割を強化する。

2.国際秩序への貢献

  • 戦後最も厳しく複雑な安全保障環境下においても、自由・民主主義・基本的人権の尊重・法の支配といった普遍的価値を維持擁護する形で、安全保障政策を遂行する。

  • それによって、先進民主主義国の一つとして、国際社会が目指すべき範を示す。

3.平和主義

  • 平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にはならない。

  • 非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない。

4.日米同盟

  • 拡大抑止を含む日米同盟は、我が国の安全保障政策の基軸であり続ける。

5.国際協力

  • 同志国との連携、多国間の協力を重視する。

Ⅳ 安全保障環境と課題

1.グローバルな安全保障環境と課題

  • 2013年の戦略策定以降もグローバルなパワーの中心が、インド太平洋地域に移る形で、変化している。

  • この変化は、中長期的に続き、国際社会の在り方を変えるほどの歴史的な影響を及ぼす可能性が高い。

  • 普遍的価値を重視しない国家が勢力を拡大し、世界最大の国力を有する米国やG7、国連などの国際的な枠組みが、国際社会におけるリスクを管理することは難しい。

  • これは、普遍的価値観を重視しない国家が勢力を拡大しているため。

  • 具体的には、他国の国益を奪う形で自国の国益を増大させることも辞さない、一部の国家が一方的な現状変更の試みにより、国際秩序に挑戦している。

  • このような動きが、軍事、外交、経済、技術等の幅広い分野での国家間の競争や対立を先鋭化させている。

  • その結果、現在の安全保障環境は各国の利害がモザイクのように入り組む複雑で厳しいものとなっている。

  • 具体的な、安全保障環境の複雑さ、厳しさを表す一例を示す。

    • ロシアのウクライナ侵略

    • サイバー空間における、重要インフラや選挙への攻撃、身代金の要求、機微情報の窃取等は、平時から国家を背景とした形で、行われている。

    • サプライチェーンの脆弱性、重要インフラへの脅威の増大、先端技術の開発競争など、経済的手段が必要とされている。

    • 国際貿易や経済協力などの手段を通じて、他国に威圧を加え自国の勢力拡大を図っている。

    • 先端技術の研究開発において、一部の国家はその情報を窃取したうえで軍事目的に活用している。

    • 国際社会のパワーバランスの変化や価値観の多様化により、国際的な課題を解決することが難しくなっている。

2.インド太平洋地域における安全保障環境と課題

インド太平洋地域の全般的な情勢

  • インド太平洋地域は、世界人口の半数以上を擁し、世界経済の成長の原動力となっている。

  • 同時に、核兵器を含む大規模な軍事力を持ちつつも、普遍的価値を共有しない国や地域が複数存在する。

  • 歴史的な経緯を背景とする複雑な関係が絡み合っている。

  • 東シナ海、南シナ海などにおける領域に関する一方的な現状変更の試み、海賊、テロ、自然災害の様々な種類と列度の脅威や課題が存在する。

中国の動向

  • 中国は、「中華民族の偉大な復興」今世紀半ばまでの「社会主義現代化強国」の全面完成を目標としている。

  • 早期に人民解放軍を「世界一流の軍隊」に築き上げることを目標としている。

  • 国防費を継続的に高い水準で増加させている。

  • 透明性を欠いたまま、核・ミサイル戦力を含む軍事力を急速に増強している。

  • 尖閣諸島周辺などの日本の領海侵入・領空侵犯によって力による現状変更の試みている。

  • 加えて、東シナ海、南シナ海の海空域においても力による現状変更の試みを強化している。

  • 日本海、太平洋などでも日本の安全保障に影響を及ぼす軍事活動の質や量を拡大させている。

  • ロシアとの戦略的な連携を強化し、国際秩序への挑戦を試みている。

  • 中国は世界第二位の経済力を持ち、世界経済の牽引や気候変動を含む課題への対処において、国力にふさわしい態度をとるべきである。

  • しかし、主要な公的債権国が参加する国際的枠組みなどにも不参加であり、途上国に対する融資の実態も不透明である。

  • また、中国への依存を利用した、経済的威圧を加えている。

  • 台湾統一について、平和的統一の方針は堅持しつつも、武力行使の可能性も否定していない。

  • 台湾周辺での軍事活動を活発化させており、国際社会全体で懸念となっている。

  • 中国が、首脳レベルを含む様々な対話で国際社会と建設的な関係を通じて、国際社会の平和と安定に貢献することが期待される。

  • 現在の中国の姿勢や軍事動向は、日本と国際社会の平和と安定、法の支配に基づく国際秩序に対する、最大の戦略的挑戦であり、日本の国力と同盟国・同志国との連携で対処するべきもの。

北朝鮮の動向

  • 北朝鮮は、国連安保理決議に従った、WMDと弾道ミサイルの廃棄を行っていない。

  • 現状も深刻な経済的困難に直面している。

  • 近年、弾道ミサイルの発射を繰り返し、その能力を急速に増強している。

  • 特に、ICBM・MRVの開発、鉄道・湖中・潜水艦などの発射プラットフォームの開発。

  • さらに、核戦力を質的・量的に最大限のスピードで強化する方針。

ロシアの動向

  • ウクライナ侵略のように、ロシアは自国の安全保障の目的達成のために軍事的手段を使う。

  • また、核兵器による威嚇を繰り返している。

  • ロシアは、北方領土での軍備を増強している。これは、戦略原潜の活動領域であるオホーツク海を防護するためである推測できる。

  • 中国とロシアは、艦艇や航空機の演習を継続的に実施しており、戦略的な連携を強化している。

  • ロシアの対外的な軍事活動は欧州での脅威であり、日本にとっては中国との連携と相まって、安全保障上の強い懸念である。

Ⅴ 安全保障上の目標

1.主権と独立の維持

  • 日本の主権と独立を維持し、政策を自主的に決定できる国であり続け、日本の領域、国民の生命・身体・財産を守る。

  • そのために、日本自身能力と役割を強化し、同盟国であるアメリカや同志国とともに、我が国及びその周辺における有事、一方的な現状変更の試みの発生を抑止する。

  • 万が一、我が国に脅威が及ぶ場合も、これを阻止・排除し、かつ被害を最小化させつつ、日本の国益を守るうえで有利な形で終結させる。

2.国際環境の改善と経済成長

  • 安全保障政策の遂行を通じて、日本の経済が成長できる国際環境を主体的に確保する。

  • それにより、日本の経済成長が日本を取り巻く安全保障環境の改善を促すという、安全保障と経済成長の好循環を実現する。

  • その際、我が国の経済構造の自律性、技術等の他国に対する優位性、ひいては不可欠性を確保する。

3.外交上の目標

  • 国際社会の主要なアクターとして、同盟国・同志国と連携し、インド太平洋地域に新たな均衡を実現する。

  • それにより、一方的な現状変更を防ぎ、予見可能性の高く、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を強化する。

4.国際社会の共存共栄

  • 国際経済や、気候変動、感染症などの地球規模の課題への対応、国際的なルール形成、において多国間での協力を進め国際社会が共存共栄できる環境を実現する。

Ⅵ 目標達成のための、戦略的なアプローチ

1.日本の安全保障に関わる総合的な国力の主な要素

(1)外交力

  • 国家安全保障の基本は、法の支配、平和と安定、予見可能性の高い国際環境を能動的に作り出し、脅威の出現を未然に防ぐこと。

  • これまでの活動の伝統と経験に基づき、大幅に強化される外交実施体制のもと、日本の立場への理解と支持を集める外交活動や、他国との共存共栄のための国際協力を展開する。

(2)防衛力

  • 防衛力は、日本の安全保障を確保するための最終的な担保。

  • 日本を守り抜く意思と能力を表すもの。

  • 国際社会の現実を見れば、この機能はほかの手段では代替できない。

  • 防衛力により、日本に脅威が及ぶことを抑止し、脅威が及ぶ場合には阻止し排除する。

  • 抜本的に強化される防衛力は、日本に望ましい安全保障環境を能動的に作り出すための外交の地歩を固める。

(3)経済力

  • 経済力は、平和で安定した安全保障環境を実現するための政策の土台となる。

  • 世界第三位の経済大国であり、開かれ安定した国際経済秩序の主要な担い手として、自由で公正な貿易・投資活動を行う。

  • グローバルなサプライチェーンに不可欠な高付加価値のモノとサービスを提供し、日本の経済成長を実現していく。

(4)技術力

  • 科学技術とイノベーションの創出は、日本の経済的・社会的発展をもたらす源泉である。

  • 技術力の適切な活用は、日本の安全保障環境の改善に重要な役割を果たし、地球規模の課題への対応にも、不可欠である。

  • 日本の高い技術力を、従来の考え方にとらわれず安全保障分野に積極的に活用していく。

(5)情報力

  • 急速かつ複雑に変化する安全保障環境において、政府が的確な意思決定を行うには、質が高く時宣にかなった情報収集・分析が不可欠。

  • 政策部門と情報部門との緊密な連携の下、政府が保有するあらゆる情報収集の手段と情報源を活用した、総合的な分析により、安全保障に関する情報を可能な限り早期かつ正確に把握し、政府内外での共有と活用を図る。

  • 安全保障上重要な情報の漏洩を防ぐために、官民の情報保全に取り組む。

2.戦略的なアプローチとそれを構成する主な方策

(1)危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化するために外交を中心とした取り組みの展開

  • 日米同盟の強化

  • 自由で開かれた国際秩序の維持・発展と同盟国・同志国との連携の強化

  • 我が国周辺国・地域との外交、領土問題を含む諸懸案の解決に向けた取り組みの強化

  • 軍備管理・軍縮・不拡散

  • 国際テロ対策

  • 気候変動対策

  • ODAをはじめとする国際協力の戦略的な活用

  • 人的交流の促進

(2)我が国の防衛体制の強化

  • 国家安全保障の最終的な担保である防衛力の抜本的な強化

  • 総合的な防衛体制の強化との連携等

  • いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤の強化

  • 防衛装備移転の推進

  • 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化

(3)米国との安全保障面における強化の深化

  • 日米同盟の抑止力と対処力を一層強化。

  • それによる核戦力及び通常戦力による拡大抑止の強化。

  • ACMなどの調整機能の発展。

  • サイバー・宇宙分野での協力深化。

  • 先端技術を使う・装備での協力の推進。

  • 日米のより高度かつ実践的な共同訓練。

  • 共同のFDO

  • 共同の情報収集・警戒監視・偵察活動

  • 日米施設の共同使用の増加

  • 情報保全・サイバーセキュリティの基盤強化

(4)我が国を全方位でシームレスに守るための取組強化

  • サイバー安全保障分野での対応能力の向上

  • 海洋安全保障の推進と海上保安能力の強化

  • 宇宙安全保障に関する総合的な取り組みの強化

  • 技術力の向上と研究開発成果の安全保障分野での積極的な活用のための官民の連携強化

  • 我が国の安全保障のための情報に関する能力の強化

(5)自主的な経済的繁栄を実現するための経済安全保障政策の促進

(6)自由、公正、公平なルールに基づく国際経済秩序の維持・強化

(7)国際社会が共存共栄するためのグローバルな取り組み

  • 多国間協力の推進、国際機関や国際的な枠組みとの連携の強化

  • 地球規模の課題への取組

Ⅶ 我が国の安全保障の支持基盤

1.経済財政基盤の強化

  • 日本が成長できる安全保障環境を確保しつつ、経済成長が日本の安全保障の更なる改善を促すという安全保障と経済成長の好循環を実現する。

  • 幅広い分野において有事の際の持続的な対応能力を確保する。

  • そのために、エネルギーや食糧等の確保、インフラの整備、安全保障に不可欠な部品等の安定的なサプライチェーンの構築のための官民連携強化。

  • 日本の経済は海外依存度が高いことから、有事の際の資源や防衛装備品等の確保に伴う財政受容の大幅な拡大に対応するためには、国際的な市場の信認を維持し、必要な資金を調達する財政力が極めて重要。

  • 日本の安全保障の礎である経済・金融・財政の基盤強化に不断に取り組む。

  • 防衛力強化の前提でもある。

2.社会的基盤の強化

  • 平素から、国民・地方公共団体・企業が安全保障の理解を深められるような取り組みを行う。

  • 諸外国に対する敬意と、日本の郷土愛を養う。

  • 自衛官・海上保安官・警察官など日本の安全と平和のために危険を顧みず職務に従事する者が、社会で適切に評価されるようにする。

  • これらの基盤となる、基地周辺住民の協力・理解促進。

  • 領土・主権に関する問題、国民保護やサイバー攻撃などの官民にまたがる問題、自衛隊・在日米軍の活動への理解促進。

  • 将来の感染症危機に備えた官民の対応能力強化。

  • 防災・減災のための施策。

3.知的基盤の強化

  • 安全保障分野における政府・企業・学術界の実践的な連携。

  • 偽情報の拡散・サイバー攻撃などへの冷静かつ正確な対応のための官民情報共有。

  • 日本の安全保障政策の国内外での発信力強化のための官民連携。

Ⅷ 戦略の期間・評価・修正

安全保障環境の重要な変化が見込まれる場合には、必要な修正を行う。

Ⅸ 結語

  • 歴史の転換期において、日本は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の下に置かれることになった。将来の国際社会の行方を楽観視することは決してできない。

  • 我々が築き上げてきた世界は、これからも経済的繁栄、魅力あふれる文化を生み出すことができる。

  • 我々は、このようのな希望を持ち続けるべきである。

  • 我々は今、希望の世界か、困難と不信の世界化のいずれかに進む分岐点にあり、そのどちらを選び取るかは、今後の日本を含む国際社会の行動にかかっている。

  • 日本は、対立する分野では総合的な国力を使って、安全保障を確保する。

  • 協力すべき分野では、主導的かつ建設的な役割を果たし続けていく。

  • 日本の国際社会におけるこのような行動は、国際的な存在感・信頼をさらに高め、同志国などを増やし、日本の安全保障環境を改善することにつながる。

  • 希望の世界か、困難と不信の世界かの分岐点に立ち、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境にあっても、安定した民主主義、確立した法の支配、成熟した経済、豊かな文化を要する日本は、普遍的価値に基づく政策を掲げ、国際秩序の強化に向けた取り組みを確固たる覚悟を持って主導していく。


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