引用 宮内勝典『善悪の彼岸へ』

 もちろんマインド・コントロールは解かねばならない。だがテレビの識者たちが正義感に溢れて言うように、単純に社会復帰すればよいというものではない。我々の社会はそれほど立派なものだろうか。
 この社会のありように失望して出家していった若者たちに、適当に遊んで、うまい物を食べて、なによりも金と出世のことを第一に考える。そういう社会に戻れということなのか。子供が帰ってくるのを待っている家族は別として、この社会には受け皿がない。それが悲劇の発端だった。リハビリや社会復帰といった正義を振りかざすほどに、私たちも、我々の社会も立派ではない。
 たとえば、私は小説家だが、オウムの信者たちは文芸書など見向きもせず、麻原彰晃の本を選んだのだ。文学者の一人として、私は敗北していると感じる。

宮内勝典『善悪の彼岸へ』集英社,p284

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