石壁

際限なくつづく石壁の
片隅に走る亀裂の最奥に
うずくまる影がある
薄暗い無音の底には
冷ややかな石の硬さと
隙間に覗くわずかな景色
どうやってきたのか
とうにわからなくなった道の先を
日がな一日みつめている
誰かあらわれるのを待っているのか
あらわれたとして それがなんなのか
元のかたちを保てているかもさだかでない腕を
くりかえし撫でる
夜の長さに耐えきれなくなると
喉ふるわせてうたう

近くに誰もいないことを
そのものは知らない
遠い世界の ごく限られたもののこころに
同じ静けさがまれに浮かぶこと
それもまた知らない


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